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その前
「……な、なにこれ!」
師匠(いや、元師匠か)のSNSを見て、私、高畑理央はうめいた。
スマホの画面には私が以前作成して公募展に入選し、うっかり公表し忘れていたストールと同じデザインのマフラーが載せられている。
イイネがかなりついている。
「確かにもう職人はやめると言ったけれど、こんな風にあからさまに盗用するなんて!」
作業場の撤収で忙しくて放置していて、久しぶりに見た師匠のSNSには私が作り出した色やデザインがあった。
私が師匠に話していた詳しい色の解説や、デザインのイメージソースまで自分の発案のように語られている。
そういえば、国の後継者育成制度の研修生時代も私のアイディアノートからいつの間にか作品を作っていたっけ。
「うるさい! 姉ちゃん、引っ越し作業中にスマホはやめろよ!っていうかこの汚い部屋何とかしろ!」
弟の和也がバアンとドアを開けて怒鳴った。
その振動でジェンガのように積まれた染織の道具がドドッ、と私に向かってなだれてくる。
(痛っ、重いっ!)
……そして何も見えなくなった。