ルマの商い記 -9-
夜。
店舗は、一部の飲食店や土産物屋を除いてそのほとんどが店を閉める。
市場の閉鎖時間は夜明けまで。
夜明け時に一度客を全て吐き出した後、公営市場の開放時間に合わせて再び開く。
月に一度は検査や点検などのため、完全閉鎖の日が設定されている。
そのため夜間開いている飲食店もあるが、それは夜間営業許可地区と呼ばれる補助監視塔近くの一部のエリアに限られる。
監視が厳しいということもあって、この地区は歓楽街というよりも社交場に近い。
しかも営業許可の関係上地代も相応に高いため、店舗の金額も相応の額になる。
そこに入る客層もまた、必然的に高額を支払える身分となる。
出入りするのは大通りに居を構える豪商や、地元の有力者がほとんどだ。
それ以外の者たちはといえば、夜になると市場の出入り口から街道沿いに現れる夜市と呼ばれる有楽街に消えていく。
昼間は完全なゴーストタウンといったように静まり返っている通りが、日の入りと共にどこからともなく明かりが灯りだす。
国営市場の店舗が閉まり始める頃になると、夜市が盛り上がり出す。
そうやって棲み分けが上手くなされている。
当然市場の外での営業のため夜市でのトラブルについては市場は関知しないスタンスを保ち続けている。
観光客からよくトラブル相談が持ち込まれるが突っぱねられるのが落ちだ。
そういうこともあってか、観光客は少し割高な市場内の飲食店を使う事が多いという。
それでも、余興や安く上げたい観光客が夜市へと消えていくのも少なくない。
そういった点では、この市場が眠りにつくことはない。
常に商売が行われて、常に人の出入りがある。
この場所には実に色々なものが集まってくる。
ルマはその集まってくる様を観察するのが好きなのだ。
閉まりかけの店先を眺めて回っている。
そこでは閉店ぎりぎりのタイミングで交渉を持ち掛ける猛者たちを見つける事ができる。
交渉の駆け引きを知っている者、交渉を知らずに強引に持ち掛ける者。
いずれにせよ売買が成立するためにどうするのか、互いの戦略を傍目から読み解いていく。
そうこうしているうちに店じまいを告げる鐘の音が響いてきた。
この鐘が鳴った後に商売をしていると、当局から警告が発せられる。
警告は帳簿に残り、次回以降の審査に良くない影響があると言われている。
交渉上手を見れば、鐘の音でしっかりと売買を成立させていた。
交渉下手はといえば、鐘の音を聞き届けた店主に追い立てられていた。
ルマは変わらぬ笑顔でその光景を眺めている。
店に戻ると店内の奥に設けられた居住スペースに横になる。
大陸内の他の国にも大きな市場は存在しているが、こと風下の国が好まれるのが、この設備の優秀さにあると言っても過言ではない。
他の市場が単に地面を貸し出しているのに対して、国営市場は比較的しっかりした作りの店舗をそのまま貸し出してくれるところにある。
貿易や交易行動に対しての優遇する国家戦略の一環としてこういった優良な店舗貸し出しを行っている。
そのため他国とくらべてもかなり高い預け金や、面倒な書類審査や鑑定を経てもこの土地に出店したいと思わせる魅力がそこにある。
そうして様々な物品を集めることによって得られる利益によって、国家運営を行っている。
その恩恵に預かりながら、ルマは明日に向けて眠ることにした。
ルマの店の周りは、相変わらずの静かな姿。
夜空もくっきりと見えている。
すこし視線を落としてみると、大通りの向こう側から、ぼんやりとした明かりが灯っていた。




