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統一戦線記 -ルマの商い記-  作者: 八樹聡
34/34

ルマの商い記 -34-

岩の国、山間部。


国の中央にある首都から離れた地域。

それ故に人里からも離れている。

その分木々や山に囲まれた、創作にはよく向いた場所。

そこにルマの住居兼工房がある。

ルマの家は、木造の平屋建て。

そこに戻ると、弟と呼ぶ職人が作業を続けていた。

「ただいま」

弟の背中に向けて挨拶をする。

弟は返事をすること無く黙々と作業を続けている。

作業の中でも、集中が高まると周囲の全てが聞こえなくなる。

それを知っているので、集中を妨げないために気にせず荷物を片付ける。


手早く片付けを終えると、再び家を出る。

向かう先は、レンガ造りの堅牢な建物。

この地域には、ルマのように人里から離れて住んでいる者もいる。

点々とではあるが家を結ぶようにして道が存在している。

そしてその先には山岳部防衛拠点も存在する。


防衛拠点の敷地へと入っていくルマ。

その姿は旅商の時と一切変わらない。

入り口の衛兵に挨拶を交わすと、建物の中へと入る。


建物の3階にある一室で扉をノックするルマ。

中から返答を確認する。

入室すると、執務机には大量の書類がうず高く積まれている。

壁一面に巡らされた本棚にも大量の書類と本が詰め込まれている。

その中にひとり、座って紙面に目を通している人物。

その人物に向けて、ルマが語りかける。

「どうも、お世話になっています」

ルマは相変わらずの柔和な表情のまま、軽さをもって投げかける。

「毎回報告ご苦労さまです

 今回はどうでしたか」

机の主は紙面に目を通したまま、ルマに返答する。

「いやあ、今回も商売としてはからっきしでしたよ」

冗談めかして言っている事は互いに明らかだった。

「収穫としては、青い色のお茶を見つけました。

 これがなかなか美味しいんですよ。

 次回の商いの際にはおみやげに仕入れて来ようかなと思います」

ルマの報告を右から左といったように聞き流す主。

「それはそれで楽しみです。

 しかしながら、今回はその仕入れを切り上げて戻ってきたのですよね」

主は紙面を捲る。

「あらら、ばれてますよね」

ルマの表情、口調ともに変わらない。

「そりゃあの手紙を見れば誰でも気付きます。

 そこからの進捗があれば何か報告を」

目線の動きは一定のリズムのまま、また紙面を捲る。

直後、何かの流れを察知してか主の紙面を捲る手が止まる。

「統一戦線の気運、どうやら噂ではなく実体を持ちそうです」

ルマの表情、口調は変わらない。

けれどもその内容の深刻さ故がそうさせるのか、室内に緊張が走っていることが明らかに感じられる。

「それは、どのくらいのものになりますか

 度合いによっては、戦略を立てる必要になりますので」

主は再び紙面を捲る。

「あくまで個人的な見解ではありますが、少なからず動きはあります。

 ただ、発生源の特定までは至っていないのが悔しいところです。

 それに発見が風下の国という点から推察するに、恐らくは央の六国は危険地域になりかねないかと思います

 今言えるのはそこまでかと」

ルマの報告に、主は紙面をめくりながら時折頷いた。

「では、少なくとも防衛戦線は置く必要がありそうですね。

 それに、雪の国との連携は図る必要があるかもしれません」

主はそう言うとペンを走らせた。

「ではこれを中央までお届け願えますか」

ルマは渡された書簡を預かる。

「中央へ戻ったら、また商売へと戻りますが、よろしいですか」

先ほどまでの緊張感のある空気から、ルマの一言で平常の空気感へと戻っていこうとする事がわかる。

「構いませんよ。

 そもそもこちらはお願いをしている立場ですし」

主の声も柔和になり、平常へと流れを戻そうとしている。

「承知しました。

 それでは、こちらをお預かりします」

そう言うと、ルマは部屋を後にした。


ひとり残った執務室内。

「先手を取るのは難しいだろう。

 ただ、せめて後手は取らないよう動く必然はある、か」


紙面を机に置き、扉を見据えながら、主が呟いた。

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