ルマの商い記 -30-
公営市場の壁沿いに店に戻る。
店舗内の片付けはあらかた済ませているのか、ほとんどがらんどうになっている。
商品は背負子に全て詰め込まれている。
他の商人は商売を終えた後には、自国に戻って商売をするための仕入れを行って帰る者が多い。
そうやって商売人としてのサイクルを回している。
儲ける商人はこのサイクル形成が非常に上手い。
反対に、儲けられない商人はこのサイクル形成が上手くいっていないことが多い。
サイクル形成には時節、需要を見極められる眼力が求められる。
それがいかに鋭いのかが勝負である。
この勝負にいかに勝つか、それが商売人としての腕の見せ所でもある。
国によっても違うが、少なくとも少数の商人が寡占、独占しているような市場は存在しない。
だからこそ、強い競争の中で商売が揉まれ、強くなっていく。
客商売をしながらも、自身の利益を確保する。
それが商売人の姿だと、商人たちは口を揃えて言う。
けれどもルマはそういったサイクルに乗ることをせず、商品を売ったきりで帰るのだという。
実に不可解なルマの行動。
それでも柔和な表情は崩すことがない。
そうこうしていると、管理局側から人がやってくる。
商人や客とは違うということが風体からわかる。
やってきたの管理局の職員が2人。
引き渡しに向けた立ち合い確認のためにやってくる。
国営市場では店舗の引き払い時に、当局の立ち合い確認が入る。
そうすることで部屋の汚損を確認し、修繕の必要がある場合は担保金から支払われる仕組みになっている。
汚損が酷い場合は担保金に加えて修繕金が請求されることもある。
大抵の場合は担保金は返却されることがほとんどだ。
ルマの店舗も立ち合い確認を通じて、指摘点は無かった。
むしろ店内を隅々まで清掃していることで感謝をされるほどだった。
職員は当局側では清掃をしても謝礼しかできないと苦笑された。
ルマはお気になさらず、と柔和な表情で応じた。
立ち合い確認を終えて引き払いが完了となる。
身体の前には鞄を下げて、背中には肩幅を少しはみ出した背負子の姿で歩き出す。
向かう先は管理局。
ここに証書の類を返却する。
返却の後は商売証明書の発行審査を受けることが出来る。
風下の国で商売をすることが他国では一種のステータスとなることを聞きつけた当局が、自国を知ってもらうための材料として発行している。
ただし、商売証明書の発行については審査が非常に厳しい。
商売内容はもとより、周囲への聞き取り調査など、少なくとも3、4日は掛かってしまう。
その間商売を行うことはできないため、無収入の状態で過ごさなければならない。
そのせいもあって、よほど成功した商売人だけが発行を許されるものとなっている。
この審査の厳しさもあって、商売証明書の効力は大きいのだという。
周辺諸国でも商売証明書を出すだけで、一種の一流店と同じ扱いを受ける。
この証書目当てに国営市場での商売を目指している商人が少なくないという。
だからこそこの活況が頷ける。
ルマは証書の審査については即座に不要と窓口で通達してしまった。
もとよりルマの商売した区画ではあまりそういったものは望めない場所なので、不要の通達は当然ともいえるものだった。
管理局を後にして、ルマは入国管理審査機構へと足を向けた。




