-ルマの商い記 3-
首から下げた鞄にしまい込まれる書類の束。
小柄なその姿には随分と大きく見える書類。
港町特有の潮風にあおられて、幾枚がたなびく。
その中の一枚に身分書類があった。
そこには名前の記載欄があった。
そこには、ラ・ルマ、と記載されていた。
見た目は中背というよりは小柄な外見をしている。
終始にこやかで、笑顔を絶やさない。
周囲には好意的に接して、それでいて適度な距離感を保っている。
口調もまた穏やかで、話していて落ち着く。
それがルマを商人として成功させているのだろう。
本人もこの語りは商売道具だと自覚しているようで、どんな相手であろうともこのスタイルを崩さない。
それが無二の友であったとしても。
徹底することで、ルマ式とも呼べるスタイルを確立している。
書類をしまったルマは市場の奥に設置された中央監視塔へ向かう。
中央監視塔は国営市場の奥と、中央に設置されている。
ここから市場全体を監視監督し、不穏な取引を監視している。
監視員からの連絡は、無線通信で市場内の警察組織と連携され、すぐに確保される。
国外からの者の場合は、即座に入国管理審査機構へ身柄を移される。
それほどにこの市場はセキュリティを徹底している。
もうひとつ、ルマの入った市場から離れた場所にも監視塔が建っている。
それが公営市場の監視塔である。
風下の国では大きなふたつの市場を持つ。
ひとつは公営市場。
これは国家ではなく、港湾市が独自に運営している市場。
そこは国内、あるいは市内の登録事業者のみが出店を許されている市場。
そこでは主に生鮮品や、地場物など、生活必需品に近いものが並んでいる。
主に近所の住民や国内の業者などがここを利用している。
そこは関税が掛からないため手頃な価格で品物が手に入る。
そのため国内の人が日常的に使う市場として機能している。
対してルマが入った市場が、国営市場。
国営市場は風下の国が経営している市場。
ここでは国内審査及び市場審査を通過した業者ならば誰でも出店を許されている。
いわば外部へも開かれた市場である。
そこでは実に様々なものが並べられている。
公営市場と違い、審査に時間が掛かるせいもあってか生鮮品のような日持ちしないものは少ない。
主に近隣諸国の特産品が並べられている。
特産品とは言え、民芸品のようなものから最先端の技術工芸品まで、その幅は非常に広い。
時期にもよるが、ちょっとした見本市のような状況になることもある。
風下の国は海洋国家であることもあって、富裕層が比較的多い。
そこを狙って稼ぎに来る業者も多い。
だが、公営市場にはない品もあるとあって、国内外の人でいつもごった返している。
その賑わいは十七大陸随一のものであると大陸中に知れ渡っていることもあって、人が絶えない。
そこに出店することは、商売人の憧れともされている。
そんな市場に出店するとあっては単純な出稼ぎ程度ではけんもほろろとなる。
だからこそ、この市場には良いものが確かな価格で提示されている。
ここで稼いだ金額は各国へ持ち帰る際に数度の両替を行う。
だが風下の国の通貨は補助通貨として機能している国もいくつかある。
それが風下の国の強さをより補強している。
相変わらず、市場内は人で溢れている。
同じ商い人であることを、周囲はすぐに察知して、声を掛けることはしない。
互いに何を売るのかは店を開くまでは隠しておく。
手の内を明かす愚はしない。
商売人ならばそれくらいの自衛は当然のことだ。
そんなことをお構いなしに、ルマは笑顔を振りまきながら市場を進む。
市場の奥、国営市場の補助監視塔内にある管理部へと入っていった。




