ルマの商い記 -17-
昼。
ルマの店には1人の客が入っていた。
客はじっくりと店内の商品を見て歩いている。
一歩一歩、一品一品の何かを確かめるようにして、じっと見つめている。
その表情は真剣そのもの。
そしてその姿からは何か鬼迫めいたものが感じられた。
何故にそこまでして選んでいるのだろうか。
客人の真剣さを、お構いなしのにこやかな表情で眺めているルマ。
こちらから声をかけること無く、ただ客の任せるままにしている。
他に客もいないせいもあってか、選ぶ姿はじっくりとしているが、買う気配だけはしっかりと漂っている。
だが、どれも魅力を持ち、その性質が違うせいもあってか客は選びかねている様子ではあるようだ。
時折小さく唸りながら、どれも決め手に欠いているような視線を商品に送る。
あれだけ狭い店内をうろついたものの、どうしても選ぶ事ができないと観念したのかルマの方へと歩み寄った。
「あの、すみませんが」
客が声を掛ける。
「はい、なんでしょう」
ルマの表情はにこやかなまま崩れない。
「あの棚に置いてある髪留めなのですが」
指差した先には髪留めがふたつ。
どうやら客はそのどちらかを決めあぐねてしまっているようだった。
「どちらも素晴らしい出来のものなのですが、自分には決めかねていまして」
客は告白をするようにしてルマに相談を持ちかけた。
「なるほど、お目を付けたのはあの髪飾りでしたか」
ルマのにこやかな表情は崩れない。
だが目の奥では何やら計算が動いているような気配がある。
表情を崩すことなく、店内を左右に一往復すると、別の棚に向けて歩きだした。
「それでしたら、こちらなどいかがでしょうか。
髪飾りとしては小さめですが、こちらも髪飾りとして使うことが出来ますよ」
手に取ったのは髪飾りではなく首飾りだった。
「でも、それは首飾りでは」
まっとうな疑問が返されるも、ルマの表情は変わらない。
「いえ、こちらの首紐を巻紐にすることで髪飾りにするんです。
おそらくお求めの髪留めでは、一点でしか留められないから悩まれていたのではないでしょうか」
ルマの返答に、客はハッとした表情をした。
「そうなんです、よくおわかりになりましたね」
客が答えると、ルマも返答する。
「ええ、お客様の手元の動きが、一点を支えようとして支え切れていないような動きでしたもので。
それなら、店内にあるもので何か使えるものはないかと思い至りました」
変わらない柔和な表情で答える。
「おお、さすがはこの地区に店舗を構えていらっしゃるだけある。
では、この首飾りと、そこにある髪飾りをふたつ、お願いしてもいいでしょうか」
客が指差した先には先程の髪飾り。
「ありがとうございます」
とびきりの笑顔でルマが答える。
客もルマも双方が笑顔になりながら、店先まで見送る。
「ありがとうございました、またこちらにいらっしゃったらお立ち寄りください」
そういって客の背中を見送った。
ようやくルマの店に売上が入った。
奇しくも売れた数は弟に送った3点の品だった。




