ルマの商い記 -12-
厨房では女性が1人で火と格闘を続けていた。
肉と野菜が炒められる快活な音がする。
その音と肉の焼ける匂いで、空腹が加速する。
炒め終わり、皿に盛り付けられる。
「小鉢はもう少ししたら出しますね」
そう言って出された定食。
肉と野菜の炒め物、国営市場では見られない珍しいものだ。
そこに風下の国の主食であるパンが添えられる。
パンも石の国のような固くしっかりと焼いたものでなはなく、柔らかくふんわりとしているもの。
見た目にも美味しそうな光景に、ルマの食欲は高まっていく。
「いただきます」
ルマは食事の前に必ずこの挨拶を行う。
この挨拶を行うことで、食べ物に感謝を捧げるのが礼儀だと、ルマは言う。
食前の祈りとはまた違って、食事に向けて一礼を交わす方法。
先客も不思議な顔をしているが、構わずに礼を終える。
儀礼を終えて、まず元気よくパンにかじりつく。
パンの柔らかさがとても良い食感で、笑顔がより笑顔になる。
続いて肉野菜炒めを口にする。
間違いのない美味しさでありながらも、安心できる味。
贅沢とは違った形での一級の味。
この定食は大当たりだ。
そう思いながら食事を大いに楽しんだ。
「おまたせしました、小鉢です」
ルマの賭けは当たった。
幸いにして小鉢からあの香りがよくよく立っていた。
小鉢に入っているのはひき肉を固めたようなもののようだ。
その下に葉野菜が敷かれている。
「その葉で包んで食べると、より美味しいですよ」
不思議そうに眺めているルマの動向を察してか、厨房から声がした。
どんな味がするんだろう。
どんな香りが鼻を抜けるんだろう。
どんな食感なんだろう。
とにかく香りの立つ元を目にしてからわくわくが止まらない。
恐る恐る口に進めていく。
口に入れた瞬間から、店先に漂っていた香草の香りが口いっぱいに広がる。
ひき肉がほどけていく間に肉汁が溶け出し、そこにもまた香りが乗っている。
ルマの顔がどんどんととろけていく。
食べてしまうのがもったいないと感じてしまった。
でも、冷めてしまうのはもっともったいないと感じてもいた。
それほどに美味しいくて、どこか高貴な感じがあった。
半分ほど食べたところで、葉野菜に包んで食べてみた。
するとそのままで食べた時とはまた違った味になった。
野菜の水分と甘みが肉の旨味と混ざって、独特の美味しさを作り出す。
どこか恍惚になるような表情になった。
あの香り誘われたことに間違いはなかった。
強い確信と共に、朝一番にも関わらず今日一番の笑顔で、ルマは食事を終えた。
「ごちそうさまでした」
たっぷりと心で感謝した。
会計を済ませて店を出ると、時間は朝と昼の間頃になっていた。
「よし、お店を開けましょうか」
ルマは国営市場に向けて歩き出した。




