ルマの商い記 -11-
徐々に活気づいていく市場。
日が昇りきったのを見届けるようにして、国営市場横に展開していた夜市が去っていく。
明け方まで飲んでいた客たちは、知らぬ間に消えた夜市に気付かずに何かに化かされたと思ったものも居るとかいないとか。
その日、ルマの鼻を刺激したのはどこからか漂ってきた香草の匂いだった。
鼻腔をすっと抜けるような、清涼感のある匂い。
目を覚まして扉を開く。
太陽は反対側で、今は店先が影になっている。
目の前には同じような形状の店舗、その奥には高い壁。
爽やかな香りの元は、どうやら壁の向こうのようだ。
それを知ったルマは小銭入れを鞄に入れて、公営市場へと向かった。
国営市場と公営市場を隔てている壁には、中央部分に扉がある。
そこには守衛が居て、出店者であれば通行が許される。
ルマは出店証を見せ、公営市場に入っていく。
ちょうど店と反対側まで歩くと、周囲を見渡した。
そこには一軒の店が、煙突から煙を立てていた。
近付けば香草の匂い。
ルマは扉を開ける。
「おじゃまします」
そう言いながら扉の向こうに消えた。
扉の中は小さくまとまった食事処だった。
店内はカウンター席と、奥に座敷のような席が見える。
見たところ10人は入れば満員といったところ。
「いらっしゃいませ」
優しい女性の声に促されて扉を閉じる。
見渡せば先客が3人ほど食事を進めていた。
L字に折れたカウンターの扉側には2人が、最奥には1人が座っていたので、ちょうど良い場所と真ん中付近に腰掛けた。
そのどれからも香草の香りはしていない。
さらには3人の前には同じメニューが並んでいる不思議な光景。
「おひとつでよろしいですか」
ルマは突然に言われて驚いた。
自分は何も頼んでいないし、何があるのかもわからない。
せめてメニューを見たいと言い掛けて冷静になった。
よくよく見渡してみるとメニューらしきものが見当たらない。
そこで納得がいった。
「はい、ほかには何かつきますか」
納得を全て含んで返答する。
「汁物を、小鉢に変えることができますよ」
先客3人に小鉢は見当たらなかった。
「それなら小鉢でお願いします」
ルマにとって小さな賭けでもある。
汁物が見当たらなかったからという理由で小鉢を注文したが、それで本当にあの香りが来るとは限らない。
それでも、ルマに出来ることといえば定食がやってくるのを待つだけ。
黙々と食事を進める先客たち。
改めて見てみれば彼らは公営市場の競り人のようだ。
ひと仕事を終えて、食事の時間。
何にも邪魔をされず目の前の食事を進めていく。
その姿を見ていると、話しかけたりするのは野暮だとルマは感じて、厨房に目をやった。




