ルマの商い記 -1-
十七大陸。
どこかの国で人は生まれ、育ち、やがて死んでいく。
生まれる国は誰にも選べない。
けれども、死ぬ国は選ぶ事ができる。
大抵の人は、生まれてから死ぬまでを自分の国で過ごす。
外の国で死のうと思うことは少ない。
過去何度も繰り返された統一戦線によって、自国への愛着が、誰も強い。
そういった中にあっても、外を目指そうとする者は少なからず出現する。
この旅商もまた、そういったはみ出し者のひとりなのである。
のどかな空。
青い空に雲がゆったりと流れている。
見渡せば緑色の草原がどこまでも広がっている。
草が禿げた一筋を道にして、馬車がゆったりと走っている。
馬車の中は荷物が満載されていた。
舗装されていない道は揺れが激しい。
「本当に、今日は天気がいいですね」
不規則に揺れる荷物から声がした。
御者は荷物からの声に答えず、黙々と馬車を進める。
「いつも長旅をすると雨のことが多いんですが、今回は珍しいですよ」
答えられずとも構うこと無く荷物からの声が続ける。
「この付近は国境ですからね、怪しい事をすればどこで見られるかもわからない。
だからずっと前を見ている、ということですよね。
揺れで少し目が覚めてしまったからなのでお気になさらず、またもうひと眠りしますので」
そう言うと、荷物は再び静かになった。
荷物の声が伝えた通り、ここは風下の国との国境付近。
風下の国は青海に面した海洋国家。
拠点港を持ち、交易が栄えている商業国家のひとつである。
そこには広大な国営の市場が開かれており、国内はもとより周辺国からも行商が訪れて商売をしている。
風下の国では国外の者でも、一定の手続きと税金を納めることで、商業活動を行う許可が下りる。
そうして外部からの経済流入を用いて国家を発展させてきた。
国内の土地はそこそこで、都市部を離れた中央では作物が育ちにくい痩せ地でもある。
農業ではなく商業で発展を行った、十七大陸では珍しい形の国家でもある。
真上手前にあった日が、真上を過ぎて沈む方向に傾いた事がはっきりとわかる頃。
風下の国の国境門が見えてきた。
再び荷物から声がする。
「さて、そろそろですね。
ご安心ください、身分証はちゃんとありますから」
相変わらず揺れる荷物から声はするものの、その声を発する姿は見当たらない。
いよいよ目の前に門が見える。
御者は門番の前に馬車を止める。
門番は御者に通行証の提示を求める。
後方で待機していた別の門番が周囲を検分する。
御者は本人と、荷物の声の主の二人分を提示する。
検分を行っている門番が後方の布を上げると、そこに声の主が座っていた。
「どうも」
少し慣れ慣れしい感じのする笑顔で、門番に挨拶をした。
門番は見慣れた顔とばかりに表情を変えない。
入国審査は問題無かったようで、無事門が開いた。
馬車はゆっくりと門の奥へと消えていった。




