追放された最高の修繕師、冒険者を辞めて念願の店を始めたら、一流パーティーや王族からの依頼が止まらない。~今さら戻ってきてほしいって? それに自分たちの装備も直してほしい? ……謹んで、お断りします!~
短編書いてみました。
ワンアイデア、という感じでしょうか。
「ライル、お前は本当に使えねぇ奴だな! できることと言ったら、壊れた装備を直すくらい。雑用係としても落第点だぜ?」
「あ、あはは……」
「何笑ってんだ。……こっちはマジでキレてんだよ!」
ボクが苦笑いを浮かべると、リーダーのダインはエールの入ったジョッキをテーブルに叩きつけた。ガシャン! という音が鳴って、酒場すべての視線はボクたちの方へ。しかし、相手はそんなこと気にもしないで声を荒らげた。
「いいか? 今までは、お情けでこの俺様の一流パーティーに置いてやってたんだ。お前が足を引っ張らなければ、このパーティーはもっと上に――Sランクになっていたはずなんだよ!」
「そ、それは……!」
ダインの言葉にボクは言葉を詰まらせる。
たしかに、彼の言う通りだった。
ボクには戦闘技能というものがない。
それなのに冒険者稼業に身を置いているのは、夢のための資金を貯めるため。せめてもの協力として、装備の修繕なんかはやっていた。
自分としては、最高の仕事をしてきたつもりだ。
だけど、ダインはボクの直した盾を指示してこう言う。
「こんなの、必要ねぇんだよ。素人の修繕なんざ、役に立たねぇ!」
「そんな……!?」
そして彼は、力いっぱいに盾を床に投げつけた。
まるで、ゴミを扱うかのように。ボクが寝る間を惜しんで直した盾、それを役立たずだと罵って捨てたのだった。
それにはさすがに、ボクも腹が立つ。
唇を噛みながら立ち上がると、こちらの感情を察知したダインは言った。
「おう、なんだその反抗的な目は。出て行きたいみたいだな?」
赤ら顔に意地悪い笑みを浮かべた彼は、こう続ける。
「だったら、出て行けよ」
待ってました、と言わんばかりに。
「ライル・ディスガイズ、お前は今日限りで追放だ!」――と。
◆
「いやー、邪魔者がいなくなって清々したぜ」
ライルを追放したダインは、他の仲間と笑い合いながら酒を飲む。
すると、そんな彼に声をかけてくる人物があった。
「すまない。この盾はもう、用済みかな?」
「……あん?」
それは、長い赤髪の剣士。
ダインはそんな彼にどこか見覚えがあったが、酒に酔った頭では思い出す前に頭痛がやってきた。そのため、適当にあしらう。
「あぁ、もう必要ねぇよ。そんな駄作」
「そうか。なら、私が貰い受けよう」
「物好きな奴だな……?」
すると赤髪の剣士は口元に笑みを浮かべ、去っていった。
ダインは首を傾げたが、すぐに気持ちを切り替えて酒を喉に流し込む。
「…………凄いな。使い込まれているのに、傷一つない」
対して剣士は、ライルの修繕した盾を見て驚きの声を上げた。
そして――。
「もしかしたら――」
酒場を出て、彼の姿を探す。
だが、もうそこにライルの背中はなかった。
剣士はもう一度、盾に視線を落としてこう呟く。
「あの青年は、とんでもない存在かもしれない」――と。
◆
「……うーん。冒険者を続けようにも、どこも入れてくれないよなぁ」
翌日の昼、ボクは王都の街を歩きながらそう口にした。
勢い余ってパーティーを離脱したのは、もしかしたら勇み足だったかもしれない。ダインの言い方には腹が立ったけど、間違いではなかったからだ。
将来有望だとされる彼のパーティーで、ボクはたしかに役立たず。
そして、そんなところを追放されたボクを入れてくれるパーティーが、この王都の中にあるとは思えなかった。
「あと少し。あと少しだけ、お金があれば……」
ボクは冒険者カードに刻まれた預金残高を見て、そう漏らす。
夢を叶えるには、もう少しだけ金額が足りなかった。その事実を目の当たりにして、ボクは昨日の自分を呪う。
もう少し我慢していれば、念願である自分の店を開けたはずなのに。
一時の感情で、それをフイにしてしまった。
「はぁ……。どうしよう、これから」
王都の中心である広場に到着。
そして、そこに設置された長椅子に腰かけた。
無意識のうちに考えたことを口にする。完全な独り言だった。
そのはず、だったのだけれど……。
「それなら、私の依頼を受けてくれないかい?」
「え……?」
うつむき加減の頭を持ち上げると、視線の先には一人の剣士が立っていた。
長い赤髪に、金の眼差し。美しい顔立ちをしたその男性は、口元に笑みを浮かべた。そして一本の剣を差し出しながら、こう言うのだ。
「言い値で構わない。この剣を直してもらいたい」――と。
思わず首を傾げる。
だけどこの時のボクに、答えは一つしかなかった。
◆
「えっと、リンドさんの思い出の剣なんですね?」
「あぁ、そうだ。恩師から譲り受けたものでな」
「そんな大切な剣をボクなんかに……」
自宅に戻って、アトリエへ移動。
依頼者のリンドさんにも同行してもらい、詳しく話を聞いた。
彼曰く、やや古びたこの剣は師匠である方からいただいたものらしい。家紋が刻まれているところからして、きっと由緒正しいものに違いなかった。
どうして、ボクが『修繕師』を目指しているのを知っているのか。
そして半人前のボクに、なぜ依頼をしてきたのか。
それらの理由は分からなかったけれど、請け負ったからには真剣にやろう。
ボクはそう思って、鞘から剣を引き抜いた。
「うーん、かなり刃こぼれしてますね……」
すると出てきたのは、かなり使い込まれたであろう刀身。
ところどころにヒビが入っていて、剣としての機能はすでに失われているように思われた。ボクの反応を見て、リンドさんも神妙な面持ちで言う。
「どこの修繕師に持ちこんでも、首を横に振られてね」
「………………」
なるほど、と思わされた。
これはたしかに、一か八か、縋りたくなるのも分かる。
ボクは剣を鞘に仕舞ってから、こう訊ねた。
「もしかしたら、元通りにはならないかもしれません。それでも任せていただけるなら、ボクにできる最善を尽くします。いかがでしょう?」――と。
自分の夢を叶えるため。
それもあったが、この剣に対するリンドさんの思いを汲みたかった。
そう考えてボクが言うと、彼は――。
「あぁ、よかった。ぜひ、よろしく頼むよ」
そう言って、微笑むのだった。
「……分かり、ました!」
そうとなれば、ボクのやることも決まる。
自分にできる最高の仕事を。
ボクはそう考えて、一つ大きく息をつくのだった。
◆
――数日後。
「なぁ、リンド。どうして、そのオンボロを持ってきたんだ?」
「これか。少しだけ、楽しみにしていてね」
「楽しみ……?」
ダンジョンに潜ったリンドと仲間たち。
しかし彼の得物を見た一人は、眉をひそめながら首を傾げた。
何故ならリーダーであるリンドが手にしている剣は、彼が幼少期に使っていたというアンティーク品だったから。
ダンジョンの下層において、そのような玩具を使うなど正気の沙汰ではなかった。そう思って、仲間は撤退を進言しようと――。
「なっ……!?」
――した、その時である。
目の前に突如として、巨大なドラゴンが姿を現したのは。
「不味い、逃げるぞリンド……って!?」
仲間の一人が、そう叫んだ。
しかし、彼はリーダーの行動に驚く。何故ならリンドは、アンティークの剣を引き抜いてドラゴンの前に立ったのだから。
「馬鹿になったのか!? おい、死ぬぞ!!」
そう声をかけるが、リーダーは剣を構えて動こうとしない。
それどころか、ドラゴンに斬りかかるタイミングを計っているようだった。仲間たちはその後姿を、固唾を飲んで見守る。
助けに入るには、もう遅い。
そして、ドラゴンが咆哮を上げた瞬間――。
「な……そんな、馬鹿なっ!?」
信じられないことが起きた。
リンドはさほど力を入れずに、アンティークの剣を振り抜く。するとその直後に、目の前の巨大ドラゴンの身体は――。
「う、そだろ……?」
まるで、果物を切るかのように。
その硬い岩のような鱗と身が、真っ二つに両断されていた。
断末魔の叫びを上げて、魔素へと還っていくドラゴンを前に立ち尽くすパーティーの仲間たち。そんな彼らをよそに、リンドだけは剣を見つめて呟くのだった。
「あぁ、やはり。彼はとんでもない人物だ」――と。
◆
「あの、本当に良いんですか? こんな大金貰って……」
「構わないさ。キミは想像以上の仕事をしてくれた」
「そうなんですか……?」
ダンジョンから帰ってきたリンドさんは、とても満足げに笑っていた。
そして、ボクの手を取ると伝えていた金額の倍以上のお金を払ってくれたのだ。嬉しいは嬉しいのだけれど、こんなに貰っても良いのだろうか。
こちらが困惑していると、彼は笑顔でこう言うのだった。
「ところで、ライルくん? キミの夢というのは、叶いそうかな」
それを聞いて、ボクはハッとする。
たしかに貰った金額を考えれば、十二分に店を開くことができた。
「はい……! はい! ありがとうございます!!」
だから自然と、笑顔でそう感謝を口にする。
そんなボクを見てリンドさんは、また優しく微笑むのだった。
「せっかくだし、私たちのパーティーも贔屓にさせてもらうよ。他の冒険者たちにも、キミのことを伝えておこう」
「本当ですか!?」
そして、そんな申し出をしてくれる。
ボクは身に余る施しに、思わず泣きだしそうになってしまった。
「ありがとうございます! ……ホントに、夢が叶いました!」
「いいや、これからだよ。きっとライルくんは――」
そんなボクに。
リンドさんはこう言うのだった。
「これから、とっても忙しくなるよ」――と。
◆
――一方その頃。
「くそ、どうして歯が立たないんだ!?」
ダインはダンジョン中間層の魔物に、苦戦を強いられていた。
今までなら一撃で倒せていた相手である。それなのに、ライルを追放してしばらくが経過してからだ。途端に攻撃が通らなくなってしまった。
それだけではない。
魔物が放つ攻撃や魔法、そういったものも防ぎ切れなかった。
「ちくしょう! 撤退だ、撤退!!」
意味が分からない。
ダインは苛立ちから唇を噛んだ。
王都の冒険者、その中でも将来有望なAランクパーティー。その自分たちがどうして、このような場所で足止めを喰らうことになったのか。
理由が分からなかった。
役立たずは、あの日に追放したはずなのに……。
「くそっ! なんでだよっ!!」
ダインは無様に逃げながら、悪態を吐き続けた。
そんな彼が、真実を知るのはまだ先のこと。
自分たちがAランクでいられたのは、ライルの『修繕』のお陰だと。
その事実に気付くのは、遠い先の出来事であった。
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短編→連載版です(下の方にリンクがあります)
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