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お題シリーズ

祭り 帰郷

作者: 仲仁へび




 久しぶりに地元に帰る事になった。


 そこは、特産品も美しい景色もない、大した特色のない町で、今にもさびれそうな町だ。


 人口は年々減少の一途。


 近いうちに消滅してしまうかもしれないような地域。


 そんな町に戻ったのは、祭りがあるからだ。


 子供の頃は、この何もない町で育ってきた。


 けれど、祭りだけはほんのちょっと贅沢に豪勢に行うものだから、妙に記憶に残っている。


 忘れられなかった。

 ふとした瞬間に思い出して、こうして足を運んでしまう。


 だから、毎年その時期になるとつい故郷を訪れる。


 祭りの会場に向かった。


 準備は着々と進んでいるようだった。


 テントが設置されて、飾りつけも意外としっかりこなされつつある。


 町の老人たちが、足腰をいたわりながらゆっくり作業しているのが見えた。


 きっとあつ数時間後の今夜には、町一番の催しものになっているだろう。


 だからそれまでは、たいして見るところもない小さな町を、ぶらぶら歩きながら、暇つぶしする事にした。


 子供の頃にさびれていた商店街は、さらにさびれていた。


 元から人が少なかった地域は、建物がとりこわされ、さらに過疎化が進んでいる。


 そこそこ売れていたデパートはガラガラで、人の数が少ない。


 町一番の人気を誇っていた公園は、今は草がぼうぼうだった。


 未来が見えるような光景だ。


 予言師や占い師なんて必要ない。


 ここはもう終わる町だった。


 息絶える時がすぐ近くなのだと感じてしまう。


 きっとそんな閉塞した空気が嫌だったのだろう。

 先が見えている世界に残るのが苦痛だった。


 若者の流出はとまらず、結果人口は右肩下がり。


 もう半世紀もしたら、町自体がなくなってしまうように思えた。


 そんな町をぐるりと見渡して、会場へ戻る。


 準備は終わったようだ。


 出店がぽつぽつと営業し始める。


 町を存続させるにはお金がかかる。

 けれど、ここは人がいない町。

 入るお金がないのだから、存続にお金をかけられるわけがない。


 この祭りだって、お金がかかるだろうに。

 なぜか今だにやり続けている。


 聞くと、地元の住人が費用を負担しあって行っているそうだ。

 年金とか、へそくりとかそういうのを使って。


 祭りの出店を順番に見て回っていく。


 小さい頃にお世話になった近所のおばちゃんは、古服を安値で売っていた。


 近所にいたおじちゃんは、金魚すくいでおまけをしてくれた。


 いつも遊んでいた公園。その近くに住んでいるお兄ちゃんは、足腰が弱くなったため、休み休み会場の証明やBGMのラジオを調整していた。


 誰も彼も知り合いばかりだ。


 やがて、お祭りの時間が終わる。


 実家で一泊して、朝町を離れることにした。


 昨日それなりににぎわっていた場所は、いまはもうただのさびれた場所でしかない。


 ほんの一瞬。

 花火の閃光のようににぎやかしくなった場所は、あと何度輝けるのだろう。


 感傷にひたりつつも、その場所に留まる意味がないので背を向けて歩き出す。


 きっとここは、時期に地図から消えるだろう。

 

 それでも、消えてなくならない思い出はあった。


 ひょとしたらこのお祭りは、町が消えても、人の心に残り続けようとしている結果なのかもしれない。


 すべては憶測にすぎないけれど。



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