1話 人間、転移する
1話目です
今年の夏は特に暑く、最高38度まで気温が上昇するらしい。
そんな時に神のいたずらか、昨晩我が家ではエアコンがぶっ壊れるという事態が起こってしまった。
scene昨晩
「ねぇ、なんかここ暑くない?暖房にしてない?エアコン何度にしてんの?」
姉貴が二階から降りてきた瞬間に苦虫を噛み潰した顔をして言った。
「確かに暑いな。おい、リモコンどこやった?」
そう親父は近くにいた妹とおふくろに聞いた。
「そこある。よいしょっ・・・と。えーっと、うん。ちゃんと冷房になってるし24.5度になってるよ。」
妹はそう言ってリモコンを親父に渡すと頬を伝う汗を上着で拭った。
「おっかしいな~。もしかして壊れてんのか?」
「ちょっとやめてよ。今年38度まで上がるって今ニュースでやってたわよ?」
おふくろは眉間にしわを寄せてエアコンを睨んでいる。
「一回切ってみるか。まぁ、一時的におかしくなってんだろ。この家も結構建つから電化製品の一つや二つ、そのうち・・・ん?」
親父が話しながらリモコンでエアコンを切ると、エアコンから風が吹いてきた。
しかしそれは冷気ではなく熱気。暖房である。しかも風量大の・・・
「何やってんの?」
俺は親父にそう問いかけると
「いや、リモコンを切ってもっかい冷房つけてみたんだけど。何故か暖房になった?」
「うせやん」
そして我が家はその後3時間吹き続けた熱風と共に何度やってもつかないエアコンに絶望してこの夏をやり過ごすことが決定してしまった。
両親はもちろん、姉貴も妹も唖然として口をぱくぱくさせていた。
「どしたの春っちゃん?元気ないけど。夏バテ?水分補給ちゃんと取れよ?塩飴食べる?とりあえず5個くらい渡しとくよ。」
「ん?あー、あざ。とりま1個食べるわ。プリーズ。ちなみに夏バテじゃなくて昨日家のエアコン全部壊れたことに嘆いてるだけだから問題ないよ。」
「それやばくね・・・?」
隣から心配そうに声をかけてくる人物は川津 幸広、俺こと鮫島 春の昔からの親友だ。
だらける俺をいつも叱ってくる疑似母親的存在だ。ぶっちゃけめんどくさい。けどいい奴。
そして俺が先ほど言ったエアコン全部壊れた、というのはそのままの意味である。
あのあと自分の部屋、妹、姉貴と全員の部屋のエアコンが故障しており、姉貴と妹に至ってはうっすら涙目になっていた。
「あの後姉貴達が俺の部屋にある扇風機強奪しに来たから、姉貴から5千円と妹から3千円、合計8千円もらっちゃった。」
俺は自分でも気持ち悪いと思う笑みを浮かべて、ゆきの方を向くと右手で金のジェスチャーをとった。
「春っちゃん、はーちゃんもさっちゃんも家族なんだからそんなの無償で貸してあげればいいじゃん。どうせ春はもう一台隠し持ってたんじゃないの?」
「さあね。持っていたかもしれないし、持っていないかも・・・。まぁそんな事はどうでもいいや。ねぇ、帰りどっかいかない?久しぶりに昔行った駄菓子屋行きたいんだけど。」
俺は件の駄菓子屋の方向を向いて指を差す。昔はよく入り浸っていたものだ。ただ今は消費税やら少子高齢化やらで駄菓子屋に行く子供の数が減っている。(と、中学の妹から聞いた。)
「んー?駄菓子屋?ああ、あそこね。・・・別にいいよ、ってかあそこまだやってたんだ。とっくにつぶれたかと思ってた。」
「妹がたまに行ってるみたいだからまだ潰れてないよ。まぁなんでも、おばあちゃんが死にそうな顔してたって言ってたけど。顔見せついでにって事で。」
「・・・へー、んじゃささっと行きますか。」
「おー」
俺らは道中他愛のない話をしながら駄菓子屋へ向かおうとしていた。その時だった。突如地面から眩いほどの光が溢れて・・・
「え?」
「春っちゃん!」
ゆきが俺を掴もうとした瞬間、俺達はその場所からいなくなってしまった。
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「異常発生。異常発生。ムーサストリスに二つの異物混入。目標個体確認次第、転移の儀に移ります。・・・目標個体2名確認。分析します。・・・分析完了。ただいまより転移の儀に移ります。尚、この運命は変える事はできません。それでも実行しますか?・・・・承認確認完了。実行します。場所は・・・
読んでいただきありがとうございました。