夜空の星を眺めて
※2023/4/19追記 初期に書いたものの為、設定がガバガバです。シリーズと切り離した世界線としてお楽しみください。
今日は年に一度、星の国の浮島がサラチア王国の夜空に現れる日。
王女と五大公爵家令嬢達は朝からはしゃいでいた。とても楽しそうな声がソラのウォークインクローゼットの中から聞こえてくる。6人は青や水色のドレスの中、夜空色の包みに入ったチュール素材の衣装を囲んでいた。
今朝、星の国の職人が闇魔法に守られながら地上に降りてきて衣装を届けてくれたのだ。この衣装は今夜 星の国で開かれるパーティ―――七夕パーティの為に仕立てて貰ったものである。それが届くや否や彼女たちはそれまで星のことを教えてくれていたソラの部屋で包みを開けた。
「わぁ、羽衣…!好み過ぎる!」
ウィンディは薄いミントグリーンの羽衣を取り出す。そんな彼女が纏っている風は、いつもとは違い妖精の粉のようなものが混じって光っている。
そう、この日7月7日になると皆の星の魔力が強くなり普段使う魔法に星が混ざる。それぞれルーチェ、ファルル、カーレスは日の魔力、ウィンディ、ソラ、クロスは月の魔力を持っていて、それとはまた別に、皆が星の魔力をほんの少し持っているのだ。
元々星の魔力を持っていた古代人達は王国の土地から空の島へと出ていった為、星の魔力を持っている人はサラチアでは少ない。もちろん彼女たちも持っているとはいえ量は少ないのだ。
まあとにかく、今日は皆の使う魔法に特別な特徴が出てくる。ルーチェの光魔法は瞬き、ファルルの火魔法は輝く炎に、カーレスの土魔法は念力のようなものとなり、ウィンディの風魔法は光る粉のようなものが混じって、ソラの水魔法は星の水になる。1番想像のつかないであろうクロスの闇魔法の闇は夜空色になるのだ。それの影響でクロスの黒い髪もダーネスやリュークの髪も心做しか紺色に見える。
そして今、彼女たちは自分の衣装を着て見せあっていた。6人ともとっても気に入ったようで鏡を覗き込んだりくるくる回ってチュールを楽しんだり。中でもクロスの衣装は話題になった。クロスの着物は袖が少し離れていて肩が見え、横には深いスリットが入っている。そこから見える長い脚にはガーターがついているのだ。全員の衣装をデザインしたのはルーチェだが、本人曰く「1番凝って、1番好みなデザイン」らしい。
どの衣装も天女や織姫のようで、着物でありながらふわっとした質感と星の煌めきが美しく可愛いらしかった。
テンションの上がっている6人は昼食をとった後すぐに王都の大きな広場へと出かける。天空の星の国でのパーティとは別に、王国内でも七夕祭りが行われているのだ。
大広場には色々な店が出ていた。魔石アクセサリーや星林檎飴、金魚すくいなど、本当に夏の風物詩のような景色だ。そして提灯が広場中に飾られていて、この快晴の空に負けないほど風景を彩っていた。ちなみに、七夕の日が快晴なのは偶然ではなく必然である。理由は詳しく分かっていないが、7月7日は必ず一日中快晴になるのだ。
気持ちが早ったのか何人かの星の子が大きな傘をさして出店を眺めていた。星の国の住人の特徴である頭の上の輪っかが光っている。その顔はとても楽しそうで、星の国では珍しい丸いものを買っているようだった。そんな広場の様子を見ながら店を周り、王女と令嬢達はパーティが開かれる夜まで楽しんだ。
日も没し暗くなってきたとき、上空から鐘の音が聞こえてくる。軽く爽やかな音ながら厳かに響く鈴のような鐘の音。七夕パーティへ向かう時間だ。
星の国の浮島から、キラキラと瞬く水―――星の水が降りてくる。それは土台もないのに階段状に流れ、サラチア王城の前で落ちるのをやめた。地上の天の川を見ようと観衆が集まってくる。ルーチェ達6人は国王や召使いに見送られその水の上に乗った。1段ずつ上っていくのとは別に、サラサラと水は上へと彼女たちを連れて行ってくれる。ふわふわと浮き他5人に付いて上がるウィンディを除いて、だが。
蛍のように光る石の門を潜り星の国へと着くと住人達が出迎えてくれた。この国の島は硝子のように透ける地下街と地上の城で出来ている。城は水の上に建っており、星の住人達は1年その水を使って生活をしている。しかし、今日一日は水が凍り、そこで舞踏会が開かれるのだ。今回、ルーチェ達の公務としての役目はこの舞踏会への参加だ。とはいえ全くお堅いものではなくほぼ、年に一度だけ来れる場所での観光がメインである。
バッと住人達が道を退いたかと思うと、この国の王ラクテウス王とその妃、そして1人の王女と6人の王子が現れた。ルーチェ達は歩み寄り、深く礼をする。歩む度に靴が氷に当たると氷はカラン、と音を鳴らし光った。
「今夜はお招き頂きありがとうございます。」
「このドレスを仕立てて頂いた職人の方にも感謝を伝えたく存じます。」
ルーチェとファルルが挨拶をする。王のすぐ傍にいた住人の1人が「滅相もない」といった様子で首を振った。きっとその人が仕立て職人なのだろう。
「こちらこそ、この舞踏会に参加頂きありがとう。年に一度を楽しんで行ってくれ。」
ラクテウス王がそう優しく言い、頭を下げた。
そして手に持った杖を高く上げる。すると星が弾け、またあの鐘の音が響いた。
「さあ!!舞踏会の始まりだ!!」
その声を皮切りに音楽が流れ始め、周りの参加者達は氷の上で踊り出していく。
そして6人の王子達がルーチェ達の元へと歩いてくる。
「踊って頂けますか?」
「ええ、もちろん!」
美しく軽い音楽と共にそれぞれステップを踏み、踊る。裾が舞い上がる度に衣装の裏地が見える。紺や紫の裏地に氷の光が集まり、星空が出来上がっていく。だが、そんなことは誰も知らなかった。
皆のガヤガヤした話し声の中、可愛らしい声が聞こえてくる。ふと声の方を見ると、この国唯一の王女ステラ姫が大勢の星の子達を連れて氷を滑っていた。この声は星の子のもののようだ。
「みんな!行くよー!」
ステラ姫はそう言って滑るスピードを上げ、星の子と繋いだ両手を空へ突き出す。すると星の子達は羽ばたいて城の上を飛んだ。光り輝くケープを着た子供たちは円を描くように滑空し、その光が氷で反射する。舞踏会の会場はもっと煌びやかになった。
舞踏会も終盤に差し掛かる。何人かはもう踊らず、食事や談笑に夢中になっていた。ルーチェ達も後ろへ下がって王子達やステラ姫と喋ったり、美しい星の国のお菓子を頬張ったりしている。
そんなとき、ウィンディは1人上空へと上がり1番高い塔でいつもより近い夜空やパーティの様子を眺めていた。暗い空の真ん中でとても賑わっているところをまた暗い所から眺めるのはなんだか楽しくて、1人で少しにまにましていた。
1人だったからか、ぼーっとしているウィンディの肩を叩く者が居た。愉悦に浸っていた中で少し嫌悪感を抱いたが振り返る。仮にも他国の公爵令嬢である彼女の肩を直接叩く無礼者は誰なのか。
そこには明るい茶髪に薄紫の瞳の男性が居た。服を見るにこの国の公爵家のようだ。若く見える為息子だろうか。挨拶をする間もなくその人は口を開く。
「ご機嫌よう、お美しいお姫様。僕と一緒に何処かへ出かけないかい?下で踊って、ディナーを共にしよう!僕は君と一緒に居られるなら、サラチア王国へと下っても構わない…!そして毎日同じテーブルを囲んで、店巡りをしたり遊びに行ったりしよう。君が望むもの全てを僕は手に入れられる!君は羨ましそうに下を眺めていただろう?きっとこの国の王子に君の相手は務まらなかったんだ。だから僕と一緒にダンスを…」
ウィンディに答える隙も与えないまま、彼女の手を取り近づく。するとウィンディはふっと笑いニコリとした笑顔をその男性に向けた。男性は目を見開き「お」という顔をしている。
「私の邪魔をしないで下さい。」
ミントガーネットの瞳が薄紫の目を離さない。その言葉が衝撃的だったのか、男性は風に吹かれる砂にでもなったかのように闇へと消えていった。
(私姫じゃないんだよな…あとサラチア王国に“下る”ってなんやねん、無礼が過ぎるわ。)
なんて心の中でツッコミながらウィンディは絶対に誰にも見つからない屋根の上へと移動した。
舞踏会の音楽も最後に近づき、ゆっくりと音楽は止んでいく。これからは自由な時間である。
やはりダンスが終わったとなれば小腹も空くだろう。食事が並ぶカウンターが輝いて見える。そんな所に吸い寄せられて来たのはカーレス。虹色の綿あめを片手にケーキスタンドを眺める。もちろん、ケーキスタンドの硝子細工を眺める訳ではなく食べ物が目的だ。1つ手に取ったのは小さなゼリーの皿。青色のグラデーションで中からぼわぁと光っている。それを一瞬で平らげ、とても幸せそうな顔をした。次に手に取ったのはフルーツサンドのようだ。星型のブルーベリーや苺などが沢山乗っている。それもまた1口食べ、幸せそうな顔をする。口の周りにクリームが付いているが、気づかずただひたすらに食べていた。
止まったはずの音楽は再び流れ出す。視線を前に戻すとどうやらクロスがまた踊っているようだ。流石美女、と声を掛けたくなるぐらいに美しい。スリットのせいでよく裾が舞い上がり裏地の星空が見えるのはもちろん、ガーターのついた美脚もよく見える。そうなる度に1部の観客―――ルーチェ達から歓声があがった。当の本人は初めは恥ずかしがっていたものの、今は楽しそうだ。2曲ほど踊った後大きな拍手を聞きながらそそくさとソラの元へ寄り添った。
そう駆けよられたソラはというと、ステラ姫と一緒に星の子達に色々な話を聞かせていた。博識なその頭を活かしてサラチアで言い伝えられる伝説や豆知識などを披露していく。子供たちは「すご〜い!」「そうなんだ!」と口々に声を上げていた。丁度今話していたのは七夕の神話。織姫と彦星のロマンチックな話だ。
「悲しいけれど、悲しめるぐらい素敵な人に出会えるといいね」
半分ステラ姫や周りの令嬢達に言うようにそう締めくくる。後で皆で天の川を眺めるのが楽しみだな、そう思って空を見上げた。そしてウィンディが居るのに気が付き、手を振る。彼女が手を振り返したのを確認するとまた話を始めた。
ウィンディはまだ屋根の上にいる。提灯が連なるサラチア王国を眺めたり、自分の星座、山羊座を探したり。この日だけは季節の星座など関係ない。広く近い夜空に全ての星座が詰まっているのだ。そしてこの日が終わる時、天の川は眩しく輝き星座は元の場所に戻る。探すことが出来るのは今のうちだけである。すると突然、下の方から大きな歓声があがった。どうやらパーティ会場からではなく、その下だ。気になったウィンディは屋根を離れ島の下へと降りて覗く。するとなんと流れ星のようなものがこちらへ飛んできているではないか。
その正体は星野球の球。ファルルがホームランを打ったときのものだった。少し前、ファルルが野球好きだということを知ったステラ姫が同志の星の子や住人達を集めてくれたのだ。その皆でサラチア王国内の草原まで降り、野球をやっていた。といってももちろん普通の野球ではなく、球は星屑の塊、ホームベースは硝子、など星の国らしさが特徴だ。
今はあとホームランを打てば逆転で勝てる、という熱いところで、その運命はファルルに託されていたのだった。投手が投げた星球はとても速い速度でファルルのバットへと向かう。ファルルはぎゅっとバットを握りしめ、球を迎え、思いっきり打った。カーンと素晴らしい音がなり球は流れ星となり遠くまで飛ぶ。ホームラン。そんな訳で星の国まで届く歓声が響いたのだった。心が一気に喜びで満ちたファルルはチームメイト達と喜び合う。そして手を上げ魔法を放つと星の魔力と共鳴して花火が打ち上がった。花火の色が浮島の地下街に映る。
ちゃりん。大きな音にびっくりしたルーチェはお金を落としてしまった。そそくさと拾い店員さんに渡した。ルーチェは地下街のアクセサリー屋で星の国でしか手に入らないアクセを買っているところだった。鏡の前でペンダントやイヤリングを試したり、髪飾りを眺めてヘアアレンジを考えてみたり。最終的に買うことにしたのは星空をそのまま閉じ込めたかのような宝石のペンダントとお揃いの髪飾りだ。今日のことが思い出として詰まっているような気がしたのだ。
店を後にした後、上からまた同じ鐘の音が響いてきた。この日が終わるまで後30分の合図だ。これから皆と合流しベランダで天体観測をする。少し急ぎ足で城へと向かった。
城の大きなベランダにはもうクロスとソラとカーレスが。一面に敷かれたカーペットの上であともう少しの星の魔力を楽しみながら雑談をしている。背後から
「あ〜疲れた」
と声がする。振り返ると爽やかな汗をかいたファルルが現れた。さっきの花火の話をしつつ3人の傍に座った。天の川はだんだんと光を増している。
「お待たせ〜、ごめんね!」
今度は上から声がする。屋根の上からウィンディがベランダへと着地した。揃った6人は他に誰も居ないことを確認して寝転ぶ。いつもよりもずっと近い星たちを眺め、皆の笑顔はずっと絶えなかった。
「失礼致します」
召使いが6本のキャンドルを持ってこちらへやってくる。そう、これは願いのキャンドル、短冊のようなものだ。ファルルが全てのキャンドルに手をかざし火を灯す。赤、黄色、濃緑、青、紫、青緑。それぞれの色に輝く炎が灯され、皆はそれに手を合わせて拝んだ。そして全員願いが終わったことを確認するとキャンドルを上へと持ち上げた。
するとキャンドルはふわふわと宙を昇って消えていく。それを受け取ったかのように天の川は1番の輝きを放ち、7月7日は終わりを迎えた。
「ありがとうございました。また来年、お会いしましょう!」
「ええ、約束ですよ。」
「ばいばーい!!」
星の国の人々に別れを告げ、6人はサラチア王国へと降りていく。王国で迎えてくれた人々にも手を振り、城に戻った。
そのまま王女と令嬢達は昨夜のことを語りあう。
「ねね、みんな願い事何にした?」
ウィンディが満面の笑みで聞く。
「リュークが無事日の出を見れますように」
とクロス。
「剣術の上達」
とソラ。
「推しに一般人として会いたい!」
とルーチェ。
「背が伸びますように!!
あと心を持った土人形が作れますように…」
とカーレス。
「黄色と黒の球団が野球で優勝しますように」
とファルル。
「ちなみに私は、これからもずっと楽しく過ごせますように!」
とウィンディ。
彼女達の顔に朝日の光が差し込む。
「楽しかったね!」
-Fin-