薄幸
通りがっかった式場をみて思いました。
暇つぶしにどうぞ。
舞い散る紙吹雪は季節外れの桜が散るようだった。
幸せの仮面をかぶった顔見知り達が次々と拍手のスコールを降らせる。さっきまでの荘厳な異国の宗教世界はそれこそ天国のように幻想だったように思えた。
舞い散る花弁を照らす秋晴れの空模様までも私を祝ってくれているように感じる。唯一寂しそうなのは常緑樹の塀の向こうに見えるに木枯らしに吹かれた後の木々だけだ。視界を遮るように塀たちが揺れる。体に触れる肌寒さで祝福の世界に呼び戻され、再び陶酔がめぐる。
自分がこの世の中心にいることがわかる。隣では稀代の彫刻家でも表現できない最高の横顔で無邪気にはしゃいでいる。彼女がこの世界のもう一つの中心だ。純白さも相まって大理石のような輝きを放っている。その輝きを放つものはこの先二度と現れないだろう。
普段は耳を切るような風さえも心地いい。
陽気な歌声が響き、豪華な料理が並び、感動に包まれて終わり行く今日という日はリンゴを食べた彼らでも立ち入る余地はないほど幸せに満ちていた。
懐かしい硝子音が微睡みを覚ますように部屋に響く。現に戻ったことを確認するように油蝉が外の暑さを伝える。
何度も見た夢だがその度に向こうが現実であってほしいと思うが立ち込める線香がそれは叶わないことを伝える。朽ち果てた灰がどれだけ幻想に浸っていたかを物語る。
彫刻のように美しかった彼女は本当に時が止まってしまった。
ちょうど一年前。その時ばかりは夏の暑さも和らいぎ、頬を撫でる夜風が妙に優しかった。しかしそれでも二筋の線の潤いは乾くことなく流れ続けた。
その線は今では畳の痕に変わり確実に時は進んでいることを刻んでいる。再度、硝子音を奏でる生温い慰めが線香の煙を揺らす。
世紀の大傑作の前で居眠りをしてしまうなんてとも思ったが、彼女に会うためだとしたら彼女も許してくれるだろう。
何も敷かずに眠りこけたせいか体が硬い。起き上がるついでに伸びをすると鬱憤を晴らすように体はよくのびた。
縁側と仏間をつなぐ大きなガラス戸は開け放たれており想像以上の暑さが体を打つ。日陰すらも明るくする煌めきの中にいるのはシャボン玉に遊ばれるもう一つの宝だ。
それを見守るのは、これもまた偉人。人類史上初めて、美を体現させて見せた人だ。刻まれた年輪さへも尊敬に値する。この人の前ではイエスなんとかさんも頭を垂れると私は信じている。
部屋に入る泡球に魅惑されるまま宝に近づき、縁側に腰を下ろす。今まで姿を隠していた入道雲を引き連れた夏空は彼女の笑顔のように恍惚の表情を浮かべていた。
真下には幾年月も悲しみを受け止め続けた山々が連なる。
「ぱぱ、みてー」
無邪気な表情、一瞬にして夢に引き戻され思わず無価値の水を目頭に溜める私の手には優しく手が重ねられている。
「私たち今、確実に幸せだね」
世界の中心にいた人が幻想世界と本当の幻想世界に行く前の言葉が込みあがる。
紅葉のように降りしきる祝福、雪のように白い部屋に響く後悔と自責。
全てをかき消すような油蝉は泣きやまない。




