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悲しいワニガメ

作者: 山口遊子

 ワニガメは、悲しい亀です。

 小さいころ遠くアメリカで捕まえられて、ペットとして売られるため飛行機に乗って日本までやって来ました。

 若い男が日本のペット屋で売られていたそのワニガメを、なんとなく面白そうだと思って買っていきました。

 若い男もワニガメが小さいうちはワニガメを可愛がり、よく世話をしていましたがワニガメが大きくなってくると邪魔に思うようになり、とうとうワニガメを近所の池に捨ててしまいました。


 ワニガメは生まれ故郷のアメリカへ帰りたかったけれど、どうやって帰ればいいのかわかりません。


『神さま、ぼくは生まれこきょうに帰りたいのですが、どうすれば帰れますか?もし、神様がいらっしゃるならお教えください』


『ワニガメよ。ここからお日様の出る方へ歩いて行きなさい。そこには大きな大きな池がある。そのさきがお前の故郷なんだよ』

 ワニガメに神さまの声が聞こえました。


 ワニガメは神さまに言われたようにお日様の出る方へ歩いていきました。明るいうちは物陰に隠れて、暗くなると道をとぼとぼ歩きました。

 ワニガメは何日も何日もかけて、とうとう大きな大きな池にたどり着きました。大きな大きな池の水はとってもしょっぱくてワニガメはそこで泳げるような気がしません。大きな池は風もないのに波打ってます。


『神さま、ぼくにはこのしょっぱい池で泳げるような気がしません。これからどうすればいいですか?』


『ワニガメよ、誰かがお前を助けれくれるはずだから、しばらくそこで待っていなさい』


 ワニガメがしばらく大きな大きな池のほとりで待っていると、近くに住む子供たちがワニガメを見つけてやって来ました。


「わーい、大きなかめだ。わーい、わーい」 その子供は近くに落ちていた棒を拾って、ワニガメをつつきます。

「わーい、大きなかめだ。わーい、わーい」 もう一人の子供もその子のまねをして、棒でワニガメをたたきます。

 次の子も、その次の子も。みんなで寄ってたかってワニガメをいじめます。


『いたいよー。いたいよー。だれかたすてよー』。ワニガメの目から涙がこぼれます。


「コラー!君たち、生き物を虐めちゃだめ!」

「わー、にげろー」「わー、にげろー」「にげろ、にげろ」

 近くを通りかかった若い女の人がワニガメを虐めていた子供たちを追い払ってくれました。


『ワニガメよ、ちゃんと助かっただろ』

 ワニガメに神さまの声が聞こえました。ワニガメの目から涙がこぼれました。


 ワニガメは、悲しい亀です。


 あてにならない神さまのことは忘れて、もといた池に帰ろうと、ワニガメはお日様の沈む方にとぼとぼ歩いていきます。

 とぼとぼ歩いていくと、子供たちを追い払ってくれた若い女の人が立っていました。

『お姉さん、さっきはありがとう』

 ワニガメは若い女の人に心の中でお礼をいいました。

「あれ、この亀、ワニガメじゃない。あの子たち危ないところだったんだ。いくら悪ガキでも子供が怪我しなくてよかった。えーと、ワニガメを見つけたら確か市役所に通報するのよね」


 ワニガメは駆け付けた市役所の職員に生け捕りにされてしまいました。


 ワニガメは、悲しい亀です。ワニガメの目からもう涙はこぼれません。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 当てにならない神様、というのが とぼけていて面白かったです。 何だか不条理なオチも、 ワニガメだから、という説明で? 愉快な気がしました。 [一言] 僕の小説も感想くださいね。(^^♪
2019/12/23 13:14 退会済み
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