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勇者召喚でカードバトル

 ある国で5人の勇者が召喚された。

 女神が収めるこの世界に魔王が誕生したので倒して来いと言う。


 カードで!


 目の前に5枚の英雄のカードがあった。

 女神の5人の使徒。


 防御力の英雄を召喚できるカード

 攻撃力の英雄を召喚できるカード

 魔法力の英雄を召喚できるカード

 叡智(えいち)の英雄を召喚できるカード

 薔薇の英雄を召喚できるカード


 英雄の強さは上から順に強いらしい。


 4人が防御力の英雄を希望し、勇者同士で争い勝った者が手に入れた。

 カードバトルなのに持ち主の戦闘力から順に強いカードの持ち主になった。


 引きこもりだった僕は、戦わずして薔薇の英雄のカードを手に入れた。


 武器と防具と食料と所持金とカードを持たされて5人は魔王城へと旅立った。

 異世界だから、5人で協力して集団で魔王の城まで旅しようと言う話になった。


 でも僕らの間には、カード争奪戦でできた明らかなヒエラルキーがあった。


 戦わずして負けた僕は他の4人の雑用をさせられた。

 あまりにも忙しかったので僕は薔薇の英雄を召喚した。


 半信半疑で教えられた通りに「薔薇の英雄よ来たれ」と薔薇の英雄のカードを持って(とな)えるとカードが消えて英雄が現れた。


 英雄が消えると僕の手の中にカードが戻るのだという。

 カードは、僕達の身に常につけておくように、カードホルダーを渡された。

 僕達の精気を使って英雄は召喚されるらしい。


 「なに? 言っておくけど僕は弱いよ? 石にけつまずいたら死ぬくらいだよ?」

 カードから出て来た薔薇の英雄は息を飲むほど美しい男だった。


 カードを見るとHPが10に攻撃力が1と書いてあった。

 本当に弱そうだ。そして意味もなく美しい。


 「僕も弱いから使いっ走りをさせられてるんだ。 忙しくて猫の手も借りたくて君を召喚したんだよ」


 「なるほど。 戦闘ではなく使いっ走りに僕を召喚したのか。 なかなか頭の良い男だ。 気に入ったよ。 僕の勇者」


 雑用の使いっ走りに召喚された薔薇の英雄は怒るどころか僕を褒めて微笑んでくれた。

 男に微笑まれただけなのに不覚にもドキッとしてしまった。


 引きこもりをしていた僕は、今まで人から(しか)られる事はあっても褒められた経験など数えるほどしかなかったのだ。


 英雄というよりも単なる普通の綺麗な男っていう感じだった。

 そして思ったより素直に手際(てぎわ)よく文句も言わずに僕の指示に従ってよく働いてくれた。


 薔薇の英雄は僕を気に入ったって言ってくれたけど、彼を気に入ってしまったのは僕の方だった。


 だから僕は雑用を言いつけられても彼のおかげで何とかやって行けた。

 こき使われてうんざりだと思う時もあったけど、彼が文句も言わずに僕の下で働いて一緒にいてくれたから僕は彼といられて幸せだと思ったんだ。


 でもある日、僕が彼を召喚して一緒に雑用をやっている場面を他の勇者に見られたんだ。

 「なんだ。 薔薇の英雄なんて弱いだけで役に立たないと思っていたけれど、綺麗じゃないか。 役に立たない分、俺が使ってやるから相手をしろよ」


 そう言って叡智の英雄のカードを持つ勇者は僕の英雄に手を出そうとした。

 『けつまづいたら死ぬ』と薔薇の英雄は言っていた。

 勇者の相手なんかさせたら僕の英雄が死んでしまうかもしれない。


 僕は間に割って入り言った。


 「彼は僕の英雄だから手を出すな」

 僕はケンカなんかした事が無かったけど、考えるより先に言葉と行動を僕は起こしていた。


 僕をバカにしていた勇者は弱いやつに(さか)らわれて腹を立てたようだった。

 そして僕は叡智の英雄のカードを持つ勇者にボコボコにされたのだった。


 「まったく手間をかけさせやがって」

 僕が倒された後、勇者は薔薇の英雄に手を出そうとした。

 僕は絶望的な気持ちでそれを見ていた。


 でも薔薇の英雄が呪文を(とな)えると勇者は薔薇の(つた)でぐるぐる巻きにされて床に転がされた。薔薇の蔦は地味に(とげ)があって痛そうだった。


 その後、薔薇の英雄に足で顔を踏まれながら、叡智の英雄のカードを持つ勇者はムチで全身をシバかれていた。

 でも不思議だったのは、勇者が痛そうな顔ではなく気持ち良さそうな顔をしていた事だった。


 勇者のお仕置きが終わったのか薔薇の英雄は倒された僕に近づいて来た。


 「僕を守る為に戦ってくれて、ありがとう。 頭の良い君が僕の為に勝算の無い戦いをするなんて思わなかった。 ますます気に入ったよ。 さすが僕の勇者だ。 君の誇りと勇気を僕は覚えておく。 君の傷を癒してあげるよ」


 そう言うと薔薇の英雄は魔法を唱えて僕の体を光で満たした。

 僕は薔薇の英雄に傷を治してもらった。

 体のどこも痛く無くなったのに、僕は涙があふれて止まらなくなった。


 僕が生まれてから今までに起きた自分でも忘れていたような記憶が僕の中を通り過ぎて行った。


 僕の胸を切ない痛みが走り、その後で薔薇の香りと優しい温かさが僕の胸を満たした。

 つらくても胸は痛むけれど愛されても胸が痛い事を僕は薔薇の英雄に教えられたんだ。


 薔薇の英雄の魔法は僕の体だけじゃなく心まで癒した。

 薔薇の英雄は薔薇の匂いのするハンカチを取り出して僕にくれた。

 涙をふくために。


 白くて僕の顔で汚すのがもったいないと思うハンカチだったんだけど、僕はそれで目を抑えると、ハンカチからも温かさが()みてきたんだ。


 ハンカチのおかげで涙が止まった僕の頭を撫でて薔薇の英雄は笑いかけてくれた。


 「案外(あんがい)強いんだね。 薔薇の英雄」

 「あぁ。 僕はお尻を狙った奴に対しては無敵になって従属させられる女神の加護(かご)を持っているんだよ」


 英雄はそれぞれ女神から望む加護を受けてこの地に降り立ったのだそうだ。


 薔薇の英雄は、けつまづいたら死ぬ弱さを何とかする事より、尻を狙われない事の方が重要だと言うような顔をして真面目に説明した。


 僕は彼が綺麗なだけでは無い事を知った。

 でも、その変なこだわりだけは理解できなかった。


 叡智の英雄のカードを持つ勇者が薔薇の英雄に調教された話は、他の3人にも伝わったらしく、僕は雑用をさせられる事が無くなった。


 放っておいたら薔薇の英雄の靴まで舐めそうな勢いの叡智の英雄のカードを持つ勇者。

 その恥知らずな行動は、他の3人から見て不気味だったのだろう。


 薔薇の英雄はお尻を狙わない限り弱いのだけれど、そんな事を教える義務は無かったから僕は黙っていた。


 魔王の城に近づくにつれて強い魔物に襲われる事も多くなった。

 僕達5人は力を合わせて戦った。

 魔法力の英雄が僕達のテントに結界を張り勇者5人を守り魔物を防いだ。


 主に戦ったのは、防御力の英雄。攻撃力の英雄だ。

 叡智の英雄が魔物の弱点と戦い方を勇者と英雄達に教え薔薇の英雄は優雅に微笑んでテントの結界から戦闘を見ていた。


 「傷を癒してやらないのか?」

 僕は薔薇の英雄に質問した。


 「僕は弱いから結界から出たら死んじゃうからね。 癒しの射程は短いんだ。 それに僕ら英雄の体は人の体とは違うから大丈夫だよ。 召喚しなおすと元の姿になってるから」


 「不思議だな……なんで女神様は、薔薇の英雄のカードなんて作ったんだろう? いなくても別に戦闘には関係無さそうなのに……」


 薔薇の英雄が聞いたら気を悪くするような事を僕は言ってしまった。

 ずっと不思議だったからだ。


 僕は生まれてから、不器用だから「役に立たない」と言われて迫害(はくがい)された。

 なんで神様は役に立たない僕に命を与えて、この世に誕生させたのか。

 僕なんて、いなくても別に世界は困らないのに。


 この僕の失礼な発言に対して薔薇の英雄は気を悪くする事なく答えた。


 「神の考えは、僕達にはわからない。 でも一つ言える事は、僕は戦う為にこの世界に召喚されたんじゃない。 探し物をする為なんだ。 だから、もしかしたら魔王の城に僕の探し物があるのかもしれない」


 「探し物? 何を探しているんだ?」

 「小さな可愛らしい女の子だよ。 はぐれてしまってね。 元気でやっていると良いんだけど、泣いているかもしれないから」


 そう言って薔薇の英雄は僕に写真を見せた。

 確かに可愛らしい女の子だった。7才くらいだろうか。クマのぬいぐるみを持ってはにかんだ笑顔を見せている。


 「魔王の城に、さすがに女の子はいないと思うけど」

 「うん。 いなかったらまた別の世界に行って探すだけだから。 僕の勇者。 もし僕の探している女の子を見つけたら僕を召喚するんだ。 わかったね?」


 その後も僕達は強くなった魔物と戦いながら魔王城にたどり着いた。


 魔王は昼間は大人しく夜になったら活発に活動すると叡智の英雄が説明した。

 なので僕達は次の朝まで魔王城に入らずに野営し、朝早くになってから魔王城に入った。


 「カードバトルって、英雄が戦ってくれるから勇者は楽だな」

 「うん。 結界の中で戦闘を見ているだけだし」


 僕達勇者は、そんな事を言いながら魔王城の中を進んだ。

 魔王の玉座(ぎょくざ)にたどり着いた。


 そこに座っていたのは、骸骨(がいこつ)だった。


 叡智の英雄が「これ以上近づかずにバラの英雄を玉座の真横に召喚させましょう」と僕に言った。

 「アンデッドは癒しで消滅させるしかありません」


 けつまづいたら死ぬ彼を魔王の横に召喚するのは、心配だったけど僕は頷いた。

 「わかった」


 僕は薔薇の英雄を魔王の横に召喚した。

 「魔王をやっつけて」


 薔薇の英雄は玉座に座る骸骨に向かって魔法を唱えた。

 薔薇の英雄の手に現れたのは、光るクマのぬいぐるみだった。


 「ずいぶん探したよ。 僕の可愛い人。 こんな所で『かくれんぼ』して僕を待っているなんて悪い子だね。 ちゃんと太陽の(もと)(かえ)らないとって教えただろう?」


 骸骨は動かなかった。

 薔薇の英雄は骸骨の胸の部分に光るクマを近づけた。


 「迎えに来たよ。 君が約束を守ったから僕も約束通り会いに来た。 早く還ろう」


 骸骨は、薔薇の英雄の持つクマのぬいぐるみが触れた所から消滅して行った。


 僕は思わず自分の胸を抑えた。薔薇の英雄に癒された時の胸の痛みを思い出したから。


 「終わった……のか?」

 あっけない幕切れだった。


 5人の勇者は主を失った玉座の間から、魔法力の英雄の魔法で元の世界に戻された。



 ◇◇◇


 気が付くと、いつもの僕の部屋だった。


 「なんだ……夢を見ていたのか」


 僕は起きようとして自分が手に何か持っている事に気が付いた。

 薔薇の絵がプリントされた生地で出来ているクマのぬいぐるみだった。


 「これは……」

 写真に写った女の子が大切そうに持っていたクマのぬいぐるみだった。

 僕の薔薇の英雄が魔王に差し出した光るクマだった。


 「夢じゃなかったのか」

 僕は思わず自分の胸を抑えた。


 カードバトルの勇者召喚で魔王を倒したご褒美は、クマのぬいぐるみ一つだけだった。


 でも僕は、それで満足だった。


 クマのぬいぐるみを見たら薔薇の英雄を思い出せた。

 4人に雑用を押し付けられて薔薇の英雄と二人で働いた事を。


 僕は一人じゃなかった。

 だから、あの世界は、嫌いじゃなかった。


 彼を守る為なら僕は何だってできた。

 ボコボコにされたけど、戦う事だってできた。


 元の世界に戻った僕はまた一人だけに戻った。

 でも僕にはクマのぬいぐるみが残った。

 だから、一人じゃないって思えた。


 これは、ただのクマのぬいぐるみじゃない。

 魔王を倒すくらいの特別な光るぬいぐるみだ。


 写真の女の子と薔薇の英雄が大切に持っていたクマだ。

 そのクマを僕は女神から与えられた。

 これを所有するに恥じない人になりたい。


 光るぬいぐるみを持つに相応(ふさわ)しい人間にならなければいけない。


 僕は引きこもりをやめて外に出る事にした。

 コンビニでアルバイトして、外国人の従業員に混じって働いた。


 異世界みたいに、やっぱり僕はこき使われたけど、家に帰るとクマのぬいぐるみが僕を迎えてくれていたから、その日の出来事を聞いてもらった。


 今日もへとへとに疲れて僕は部屋の扉を開けた。

 クマのぬいぐるみに話しかける。


 「ただいま僕の英雄」


 『おかえり僕の勇者』


 僕には彼が返事をしてくれた気がした。




 END.

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(●´∀`)ノ~.ア☆.リ。ガ.:ト*・°


ムーンライトR18作品『プレイボーイを目指したら鬼畜になりました』

著 子夜須 みちえ の番外編です。


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