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三つの願いを叶えましょう

ゴムというのはつまりね、一種の発明だと思うんだ。あ、消しゴムの原料も最初はゴムだったけど今はプラスチックだから勘違いしないでね。俺が言ってるのは伸びる方のゴムなんだ。あれはゴムの木を原料として作られるゴムなんだけど、今こそ全世界に普及してるだろう?でも最初は違って・・・・・」

下校中。『ゴムっておもしろい!』という漫画形式でゴムの歴史・性質について詳しく解説してくれる本を一夜で読破し(全364ページ)、そこで得た知識を思い切りひけらかしてくれている友人と一緒に僕は歩いていた。

 しかしその話を延々と聞かされている悠斗だったが、正直言って全く興味がない。

「ふあぁ。なんで僕は下校中にこんな苦行を強いられているのかな?」

「なんだ苦行とは。俺は単に、さりげなく日常生活を支えてくれているゴムについて知ってほしいだけなんだ。ゴムの伸縮するという性質は発明当時とても画期的で新しいものだったということを理解しての発言か?そしてその性質は現代に至るまで人々の生活を・・・」

 あ、やばい。眠くなってきた。ふらっと遠のく意識は悠斗の手を離れ、何処かへ飛んで行ってしまおうとする。あ、待って。まだ下校中・・・・。

「今や女子の艶やかな髪の毛を結ぶことにまで使われていて、その一本一本の魅力を余すところなく世間の男子に伝えている。女子の髪の毛という一種の武器性能を最大限に引き出すことが・・・・・っておい、悠斗。」

 おい、段々とお前の趣味の話に偏ってきてるぞ・・・。友人に対してそう言おうとした悠斗だったが、もう口までその信号を伝えられないほどに肉体と魂が分離していた。

 あっやべっ寝る。ふらりと上体が傾き、足がそれについていくように動き、そして悠斗たちから見て右側、道路に飛び出した。

「そっち、道路・・・・。」

 それ言おうとしてたのかよ・・・・。状況を理解できていない悠斗は、そのまま体が傾いていく方向に重心を預ける。そして道路というのは車が通る場所であって。


 迫ってくるトラックに、体制を崩している悠斗が対応できるはずもなかった。


 その直後に首が折れ、ありえない角度で反転する視界と背中に走る激痛。ボキッというよりはパコッという風にあっけなく折れる背骨に失望する。・・・お前はもっと根性あるやつだと思ってたんだがな・・・・まあいい。どうせ死ぬみたいだ。

 今度こそ完全に魂が体と分離する。


 ゴムの話、つまんなかったなぁ・・・・・・。

 悠斗の命は天上へと昇っていき、手の届かない場所へと向かっていった。



「・・・・きろ。」

 なんだ?声がする。聞き覚えはないが・・・・・誰だ?

「・・・・ろ、おきろって・・・・・。」

 うるさいなあ。死んだあとくらいは静かにしてくれって・・・・・。

「起きろ!」

「うわはぁっ!」

 大声が耳元で聞こえ、目が覚める。そして視界に映ったのは一人の男。

「おっ、やっと起きたか!良かった良かった!」

 ・・・・誰?

 長く伸びた赤色の髪に、妙に目鼻立ちの整った彫りの深い顔。如何にも筋骨隆々と言った風で、少なくとも悠斗は今まで一度も、テレビでさえも見たことがないほどの筋肉量だ。

 ・・・・そして、全裸である。

「・・・・・・・はい?」

「いやあ!俺は神様だ!よ〇ろ◇し△く☆!」

「・・はあ。」

 なんだこの男は。いちいち語尾に!を付けないと気が済まないというのか。とにかく騒がしいイケメン筋肉に迫られている自分の状況を少しずつ理解しながら、悠斗は口を開く。

「あれ、僕って死ななかったっけ?」

「あ!気づいちゃった!それなら話は早いね!」

 わかりにくいので注釈を加えておくが、気づいちゃったの後は『!』ではなく正しくは『?』だった。そういう発音だった。しかしこの男が言うと何故か『!』に聞こえるのだ。

「いやあのね!君が死んじゃったのは自分のせいじゃないみたいだし!転生させてあげようかと思ってだね!」

「まあ自分のせいではない気もしますが、しかし転生とは何でしょうか。」

「ああそれね!それはもう元の世界に居場所がなくなったからほかの世界に居場所を作りましょうって話さぁ!」

 ・・・・へえ。それはつまりあれか。異世界行ってファンタジーライフを満喫できるあれか。学校でも成績が悪く、友人も二、三人しかいない僕についにこの状況が来たのか。

 いきなり受け入れるというのも難しいが。

 しかし正直、もう死んでもいいと思っていたのは事実だ。

 両親は悠斗が幼い時に死に、叔父の家に引き取られて十四年。大人になるにつれ肩身の狭い思いをするようになり、閉鎖的になっていく自分が嫌だった。

 もう、なんだってよかったのだ。

 少しだけ心の整理がつき、悠斗は改めてその自称神様の顔を見て口を開く。

「んで、僕は具体的にこれからどうなるんでしょうか。」

「えーっとね!まずなんか願いを三つ叶えて!違う世界に送り込む!ってマニュアルに書いてあるんだ!」

「マニュアルって・・・・。」

 ここまで来て面倒くさい感じだ。しかし願いを三つ叶える、って古典的なそれは何百年前に作られたマニュアルか教えてくださいますかね?

 しかし願いを三つ叶えるとは便利だ。どうしよう、願い事か・・・・・。

「えーっと!願い事は本人の能力として送り込まれた世界で現れます!精々愚鈍な人間の浅知恵の狭い範疇内で矮小な脳を振り絞って考えろ!そしてその薄汚い口に出せば貴様達人間の飽くなき欲求の内の三個のみ叶えられるだろう!だって!」

「心なしか毒舌に聞こえるのは僕の聞き違いだとして処理するけど、それじゃあ三つ願い事を叶えてくれるんだよね。」

「ああ!じゃんじゃん言ってくれ!」

「ええ・・・どうしよう・・・・。」

 これは慎重に考えなければ。人間の欲望・・・・どうなんだ?何かあるか?ずっと昔からしたいと思ってきたこと・・・・そこで、悠斗は思い出してしまった。

 国民的アニメの超有名な主題歌。


「そーらをじゆうにっ、とーびたーいなあぁ」


 思わず口ずさんでしまったある歌の一節。しまったと思った時にはもう遅い。

 それは、願い事として受理されてしまった。

「『空を自由に飛びたい』ね!オッケー受理した!受け取ったよお!」

「あ、ちょっと待って違う!」

「ハイだめです!一個目の願いは消えてしまいました!残念!」

「やらかしたァァ!」

「あっはっはウケる」

「『!』はどうした!」

 悠斗はキャラを捨てた神様に突っ込みを入れ、真剣に考える。どうしよう。あと二つあと二つ・・・・・。何があると便利だ?超能力とかか?いやでも使いこなせそうにないし。めっちゃ力が強かったり?だめだ大切なものまで壊しそう。えーっ、じゃあ無難そうな感じに・・・・。

「んじゃあ何かいい効果、あるんじゃない?願いに向いてそうなやつ。」


「『こうか』・・・・!ああ、『硬化』ね!硬くしたいんだ!分かったそうしよう!はい受理しましたーッ!」


「え、待って違う。そっちじゃない!待って!」

「うっへっへえ、ざまみろ」

「だから『!』どうした!」

 やばいやばいやばい。満喫するはずの異世界ライフに必要なものは何だ?必要なもの・・・・便利なものが欲しいな。いくらでも作れたら便利なもの・・・・便利、ねえ。

 そこで友人の話を思い出してしまった悠斗は、本当にバカだったのだろう。


「ゴムって・・・便利だよね・・・・・。」


「あ!『ゴム』!欲しいんだじゃああげよう仕方がない!」

「あっテメここまで来たらもう故意だろ!」

「はーい受理しましたあ受け取りました承りましたァアァ!」

「もうイヤあああああ!」

 そしてパチンと神様が指をはじくと、悠斗の体が青白く光り始める。そして指の先、足の端の方から段々と体が崩れていく。しかしその現象に何故か恐怖はなく、悠斗はただあるがままに受け入れることができた。そして神様が笑っているのが見え、悠斗もなぜか笑ってしまう。


「それでは、いい旅を。」

「・・・いつか復讐してやるからな。」


 そんな台詞を残し、悠斗は光の残滓となって消えた。






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