Memory.1-9【聖なる少女に手向ける祈り】
式当日。今日は目覚めがよかった、と言えばいいように聞こえるが実は昨晩はずっと眠れずにいたのだ。
ぼやける頭を必死に起こしながらキッチンに向かうと、そこには綺麗な修道服に身を包んだ彼女が立って何かをしていた。
「おはよう。随分早起きだな。」
「ええ、とは言えどまだ8時ですけどね。早起きなのは貴方も変わらないですよ。」
今日という日になって気弱になったりしてないか心配したが、いつもの生意気な姿で安心した。
そんな事を口に出したが最後叱られると思い、喉の奥まで出かけた言葉を飲み込んで平然を装った。
挨拶を済ませると、「支度してくる」と言い踵を返した俺を彼女が思いっきり服の裾をひっつかんで止めてきた。
急な事にバランスを崩してしまう俺の事なんてお構いなしに彼女が一着の服を差し出してきた。
「貴方は聖職者ではないですけど…良かったら着て下さい。何か言われたらリリに丸投げしてくれていいですから。」
「ありがとう」と、そう言って渡されたものに目線を落とすとそれは修道着だった。
俺にも一応着ろってことだろうが、”何か言われたら”と言う言葉が少し引っかかった。
気にしても仕方がないので、彼女の好意を無駄にするまいと服を受け取ると渡してきた本人は満足そうに笑った。
そのまま色々支度にとりかかるようだったので特に触れることなく俺も洗面台へと向かった。
びっくりするくらいにサイズがぴったりの修道着を着用すると、寝てるうちにサイズでも図られたのかと少し不安になるくらいだった。
……もしかしたら知らないうちに用意してくれたのかもしれないが。
整髪料などで髪を軽く整えると、鏡に映る自分の顔を見つめた。
今でも自分が人を殺したなんて実感がないし、そんな俺が葬式に立ち会っていいのかさえ分からない。
「…さて、することが無くなったな。」とぼやいてしまうくらいには時間に余裕があったのでキッチンに戻ることにした。
なんにせよ、あの子との生活も今日が終わりだ。
自首しようなんて考えはないが、ここに長く滞在する訳にも行かない。
彼女はまだ幼く、とてもいい子だからこそ俺が隣に居ていいなどと望んではいけないのだ。
これ以上甘えてしまうことだけは何が何でも避けなければ。と固く胸に決めた。
***
キッチンに戻ると紅茶を嗜んでいる彼女が席に座っていた。
いよいよ開式の時間に差し迫ったのかと考えていると、俺にも席に座るように促してきた。
「時間に余裕はあるのか?」
「ううん、少しだけしかないけど、式が始まる前に、一つだけ聞きたくて。
今後、呼ぶことがあるかもしれませんし貴方の名前を教えてください」
一番肝心な事を忘れていたが、今日までの関係に俺は名乗る必要も足がつくことにもなるので少し黙ると呼び方を彼女に任せてしまえばいいと投げやりな考えを思いついた。
「……俺に名前はない。お前の好きに呼べ」
今日お別れするのに名前なんていらないだろうと、思い付いたがきっと彼女に言えばこれも怒られるなと思わざるを得なかったので彼女の返答を待った。




