Memory.1-7【聖なる少女に手向ける祈り】
目が覚めた次の日は、怒涛の忙しさだったと身をもって実感した。
なんと、葬儀屋と呼ばれる業者が来て打ち合わせだの体を清める儀式だのを行いつつ俺は裏方として業者にこき使われる羽目になっていた。
それもこれも、彼女が今朝の開口一番に業者に告げたのは「この人好きに使ってください」と何とも無情な一言だった。
そんな俺はと言うと、昨日あれからナイフは用意して貰った部屋のベットのマットレスの下に入れている。俺が背負わなくてはいけないものだと感じたからだ。
そんな俺は棺と呼ばれる亡くなった人__故人が寝かせられている箱を運んでいた。
家族みんなで拭いたり血色を良く見せる様に綺麗にする処置__湯灌を施された後の棺の中の子供は安らかな顔をしていた。
明日朝一番に葬儀と聞いて心中穏やかではなかったが、これも俺が出来る事ならと甘んじてこき使われていることも容認できている。
「おぉー…男手があるってやっぱりいいですぇ」
「お前…大人しくしてろよ。自分の仕事は終わったのか?」
人がこんなに忙しくしているのにひょこっと顔を出しては茶化す彼女を牽制するとつまらなさそうにため息をついていた。
もう彼女の仕事が終わったのは分かるが、俺の仕事は終わりが見えない。
遺体を寝かせる安置を済ませると、ようやく一息つけるかなと言ったところだった。
思えば朝から何も食べていないしもう昼はとっくに過ぎていて丁度おやつの時間に差し掛かるとこだった。
「おい、腹減った…。」
「もう、だらしないですね。パンケーキでよければ焼きますよ?」
「何でもいいから、食わせてくれ。」
思えば、何日も飯を食ってない人間に対してだらしないとは、こいついい根性している…。
一度安心してしまえばまた気を張るには相当な労力がいる。
今日一日手伝いをして思ったが、今も教会を必死にセットしているこの業者の人たちは相当凄い精神してるんだなと思う事しか出来ない。
逃げている俺とは大違いだと悪態を吐くと、近くの人に少し離れると声をかけ覚束ない足取りで甘い匂いに誘われた。
***
キッチンでは真剣に火にかけているであろうパンケーキの生地と戦っている少女がいた。
昨日と同じエプロンで、小さな踏み台に乗っている少女の姿は見ても飽きないなあと近くの椅子に腰かけた。
「……頼むから、俺の飯焦がすなよ」
「ばかっ!話しかけないで下さい!」
切実な願いは、見事に怒りで帰ってくる羽目になった。
そんなに真剣にしなくてもパンケーキ位焼けるだろうに、と思いながらもフライ返しで何度も生地の裏を見ている少女が危なっかしくて重たい腰を上げてコンロの近くまで寄った。
「まだ気泡すらできてないのにそんなペラペラめくるんじゃない。ぷくぷくって穴みたいなのが出来て厚みが出てきたらひっくり返すんだよ馬鹿」
「馬鹿とは失礼な!そんな貴方こそ料理できるんですか!?」
「まあ一通りには。なんなら、これからずっと飯作ってやろうか?」
意地悪だとは分かっていたが、拗ねたり笑ったりするこの百面相の表情を見たくてからかいたくなったのはきっと今だけの一瞬の気の迷いだろう。
ばしっとやや強い力で肩を叩かれると、手のひらをひらひらしながら「しっ、しっ」と言われて厄介払いされてしまった。
折角言ってやったのに、と思いながらも必死に頑張ってくれているその姿を微笑ましく眺めた。
暫く待つと、綺麗にフルーツまで盛りつけられたやらたと大きいパンケーキが出てきた。
さては、パンケーキの粉が一袋で数枚焼けることを知らない様子だな、これは…。
喉の奥を鳴らしながら苦笑いをすると、何か間違えたかと言わんばかりの目線を向けてくる彼女に「いただきます」と声をかけて大きなパンケーキを切り口に運んだ。




