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しにがみさんとせいじょさん。  作者: 夏目唯々
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Memory.1-5【聖なる少女に手向ける祈り】

 余程猫好きなのだろうか、やらたと猫のキッチン道具や物が散乱しているように見受けられる。

 そんな俺をよそに横で「ふーっ」と何かを吹いている声と空気の振動の音がする。


 ふと横に目線を向けるとどうやら少女は猫舌の様で、中身が吹き飛ぶくらいに勢いよく息を吹いて冷ますのを頑張っていた。

 そんな姿を見て、俺は久しぶりに声を出して笑ってしまった。


 しばらくして笑う俺に気付いたのか、少女にジト目で睨まれたのはさておいて、俺も一口ホットミルクを口に含んだ。

 その瞬間口の中にふわっと広がったのは、ミルク独特の味と優しい甘い味だった。

 逃亡生活を続けていた中で暖かいもの、というか飲み物を飲んだのが実に三日振りだった。


「リリお手製のホットミルクです。隠し味は砂糖とメープルシロップなんですよ!」


 えっへん、と効果音が出そうな程堂々と種明かしをしたのにも驚いたがこんなの毎日飲んでいたら糖尿病になりそうな材料についミルクを口から吹いてしまいそうだった。


「随分と甘いと思えば、お前の仕業か…。」


「仕業とは失礼な!安眠効果もしっかりあるんですよ。リリはこれを飲むともうぐっすりです…。」


 自分はそんなに甘いのが得意なわけでは無いのに、と思いながらも口には出さないでいた。

 少し大人びてはいるが、少女のニコニコとしながら飲む姿は年相応なのだなと思ってしまった。


「…そう言えば、麻里ちゃんだっけか。あの子はどうするんだ?」


 一息ついた所で少女に疑問を投げかけた。

 流石に何日もあのまま、という訳には行かないだろう。まだ春先とは言え肌寒い時期だから腐るのは少し先だろうが気になってしまった。


「ああ、法律上、遺体は亡くなってから24時間を置かないと火葬することは出来ません。特定の疾病や感染症はそこまで時間を置かなくてもいいんですけどね。」


 淡々とそう言った少女の双眸はどこか虚ろで先程のたかがホットミルクに目を輝かせていたとは思えない変わりようだった。

 そして少女は幼いながらに言葉を続ける。


「…亡くなりました、はい燃やしましょうねなんてそんな都合のいい話ではないのですよ。やましいことが無い限りそんなことは思わないのでしょうけど。」


「そうなるのは、怖い話だな。…しかし、何で24時間も置く必要があるんだ?丸一日だぞ?」


「手続等で死後の遺族の時間は余りにも経つのが早すぎて忘れがちな人もいますが、万が一、蘇生する可能性があるからです。」


「蘇生!?医師が死亡判断をしているんだったら、そんな僅かな可能性に縋りたくなるのか…?」


「いえ、昔の話ですが仮死状態を気付かず死亡したと判断した事もあります。医師と言えど人間ですからね。火葬している最中に蘇生して…なんて考えるだけでも嫌でしょう。そう言う事ですよ。」


 両腕を抱え、苦い表情をする少女の行動で分かってしまう自分も嫌だ。考えるだけで悍ましい。そして少女は説明を続けてくれる。


「死後24時間というのは、死斑(しはん)が出る時間なのです。

 死斑は紫色の斑点で、これが現れれば確実に死亡を判断することができます。これで漸くお休みになられたと判断できるのですよ。」


 その年で俺も驚くくらいの情報力。そして何よりも冷めた双眸でそう言い放つ少女を、どこか危うく感じた。

 普段の振る舞いこそは少女そのものなのに、死に関するものについては凄く敏感で。


 聖女だからなのか、この子はそれで本当にいいのか。なんて俺が問うのもお門違いだろうと喉まで上がってきていた言葉を飲み込んだ。

 そして、少女のその言葉達は人を殺めてしまった俺には重すぎる言葉だった。

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