Memory.1-4【聖なる少女に手向ける祈り】
雑念ばかりのお祈りが終わると、少女はゆっくりと立ち上がった。その姿を見た俺の口元は少しだけ緩んだ。
___俺もここでおしまいか。
少女が立ったその位置からなら確実に俺は血まみれなのがばれてしまう。そして彼女の付き人にでも見つけられて連行されるだろう。
神に祈った矢先だが、結末は分かってはいたことに改めて腹を括った俺に少女は瞳を細めて笑った。
「さて、何かの縁ですしお風呂でも入ってホットミルクでも飲んで行ってください。そこから先どちらに行かれるかは好きにしたらいいです。
久しぶりに面白い方に出会いましたが、リリには…ここに引き留める権利などありませんから。」
「…いいのか?こんな素性も知れぬ俺を引き入れてしまって。俺がお前のストーカーなら今すぐ刺してしまうかもしれないのにだぞ?」
年が年だから、外から入って来る人への警戒心がまだなっていないのではないかと思い脅しをかけてみる。
「ストーカーならば、そんな事は言いませんしリリの前であんな顔をして死者を弔うことなんて出来ないでしょう。これでも齢10つですが、リリの事を見くびらないで下さい。」
俺の脅しも空しく、やれやれと言わんばかりのリアクションを取られる。やっぱり俺とは一回りも違うこの少女に何から何まで馬鹿にされているんじゃないかと何度か頭を掻いた。
「風呂貸してくれ。かれこれ数日入ってなくて体が気持ち悪いんだ。」
「あ、通りですこし臭うと思いました。どうぞ、湯を溜めてタオルも服置いてますのでごゆっくり。」
…最低だ。最低だこのクソガキ。
半泣きになりながらも指で指示された方向へ小走りでその場から逃げるかのように風呂場に駆け込んだ。
思ったよりも風呂場は大きく、甘い匂いだが心地良い匂いが充満して広がっていた。
…本当に彼女は俺の血に気付かなかったのだろうか?
服を脱ぎながら、胸に残る疑惑のしこりを感じながらも今は問うのも変な話だから黙っていようと浴室の扉を閉めた。
***
ナイフは風呂の中で少し血を洗い流したが、こびりついている汚れはとれなかった。
風呂に入る前に着ていた服に包みこれをどうしたものかと考えたが、そのまま片手で持ち、もう片方の手で髪をタオルで拭きながら用意された服に袖を通して灯りのついている近くの部屋に足を踏み入れた。
アロマでも焚いているのか、風呂場とはまた違う不思議な香りが漂う空間に暖かい灯りが射す自然の中のような部屋に見えるのはキッチンと机と椅子。そして見慣れない道具ばかりだった。
教会から繋がっているのだろうか、この大きな部屋はリビングのようでコンロの前に立つ少女の姿が見えた。
足を踏み入れて物音を立ててしまったらしい。少女はこちらに白を基調とした猫であしらわれた可愛いエプロン姿で振り返った。
「おかえりなさい、よく疲れはとれましたか?」
「おかげさまで。もう悪臭も取れただろうよ。」
さっきつかれた悪態を返すと、少女は可愛らしく口に手を当て笑った。
何が面白いのだろうか全然理解は出来ないまま適当な近くの椅子に腰かけさせてもらった。作業中なのは分かっているが少女に声をかける。
「…後ででいいから何か袋を貰えないだろうか。着ていた服を捨てたくて。」
「わかりました。もう少し待ってくださいね。」
二人分の可愛らしい猫のマグカップに鍋で沸かしていたミルクを入れていた少女はそんな適当な生返事を返してきたのを見計らって服で包んだナイフをなるべく足元近くに置いて隠した。
手慣れている様子でホットミルクを作ってくれている見ず知らずの俺にも優しいそんな姿を見て少し俺の口からも笑みが漏れてしまう。
二つのマグカップをお盆に乗せ運んできて机の上に置いた少女は目付きの悪い三白眼の猫のマグカップを俺に渡してきた。
「これは俺の顔をいじってるのかたまたまなのか…?」
「いじってますよ。貴方の顔普通にみたら怖いですもん。…でも、暗かったさっきと比べてよく見ると、整った顔してますね。目付き悪いですけど」
「お前、余計な一言多いってよく言われないか?」
俺がその一言を言うと、少し驚いたような顔をした彼女は目を細めれて「さあ?」といじらしく笑った。




