Memory.1-3【聖なる少女に手向ける祈り】
声を張り上げてから、こちらをじっと凝視する少女との視線が絡まり合い俺は足を止めたが、少女から目は離せないままだった。
亜麻色の髪に良く似合う大きな栗色の瞳に吸われてしまうくらいあまりの少女の目力に思わず気圧されてしまいそうだった。
「…リリが、祈りを捧げていたからこの子を殺すと思ったんですか?」
”リリ”と自分の事を名前で呼んだ少女は暫しの沈黙の後、口を開いて指を顎に乗せてみせて俺に少し首を傾げてみせた。
「ああ、君が…あまりにもしっかりとした祈りを捧げていたから。」
俺がやっとの思いで声を絞り出すも、彼女は大きな目を細めてクスクスと声を立てて笑い出してしまったではないか。
あろうことか、今の状況が何もつかめていない俺が次は首を傾げる番になってしまったではないか。
「リリの物真似はやめて下さいよ…ふふふ、世間知らずと言うかあまりにもせっかちですねぇ」
見た目は幼い癖に急に人を馬鹿にしてきた少女に軽く腹が立つも「俺の方が大人だから…」と自分で自身に言い聞かせるしか出来なかった俺を惨めと自分で笑ってやりたいくらいだ。
「せっかちって君は言うけど、俺は真剣なんだ。…あの子は、まだ生きてるだろう?」
気を取り直して人のことを小馬鹿にしてくる少女にずらされた話を戻してみせた。
していい事なのかはわからないけど、少し遠い少女の後ろにある箱を指さして少女に問う。
“まだ”殺してないのは少女の顔を見ればすぐわかる事だが、箱の中の子の生存なんて俺にはわかる訳もない。間近で見て居た本人にしか、分かりえない事なのだ。
「…はあ、貴方は“ここはどこ”で“リリが誰か”よく分かってないんですね。このご時世に珍しい世間知らずさんですね。」
溜息を吐きながらやれやれと言わんばかりな態度と共に意味深な事を言う少女に俺は首を傾げる事しか出来ない。理解能力が足りないのかと真剣に悩んでしまう。
「仕方がないので、世間知らずな貴方の問いに答えましょう。リリにはその義務があります。」
そう言って息を吸った彼女は胸の前で指を組み瞳を閉じて静かな声で口を開いた。
「あの箱の中にお休みになっている子は…名を立蔵麻里と言います。笑顔が可愛らしい今年6歳になる女の子でした。
リリとご両親に見守られ、長い闘病生活の末に本日、午前1時48分に息を引き取りました。勿論呼吸はしていません。旅立たれたのです。」
「……は?」
少女が告げた後の長い沈黙の後で、俺は与えられた答えにまた問う事しか出来なかった。
何で、とかどうして、とかはその遺族が問う事だろう。問うよりも答えが帰ってきているので何とも言えないが。
間抜けな声を出したはいいものの、俺の脳内が理解に追いつかない。こんな幼い少女が看取りを?友達にしては偉く淡々としているし、その年でそんな精神力なら驚き慄いてしまう。
「もう一つ言うと、リリはこの子の友達ではありません。
リリは、宗教団体「聖女の瞳」に所属しております、この教会に住んでいる聖女と呼ばれておりまして
今、絶賛世界中の人にその所在を探されている所です!」
ドヤ顔でそう告げる少女に俺は全身の血がサッと引いていくような感覚に見舞われた。
俺も名前や存在を知らない訳ではない。一般市民の俺がこんな気軽に話しかけていい存在ではない少女がこんなところにいるなんて思いもしていなかった。しかもだぞ、俺はそんな聖女に偉く的外れな事を…。と考えただけで背筋に冷や汗がつたった。




