Memory.1-10【聖なる少女に手向ける祈り】
「えー、困ったなあ。」
俺の言葉が予想外だったのか、頭を抱えてううん、と唸った少女は暫くすると思いついたように声を上げた。
「じゃあ、リリを迎えに来た“しにがみさん”ってことで!よろしくね、“しにがみさん”!」
___なんでそんなネーミングセンスなんだ。
何よりも疑問が先に出てしまった。別に俺はこんなちんちくりん迎えに来た覚えなどないし…酷く大層な名前を付けてくれたもんだ。
この名前を外でも呼ばれるのかと次は俺が頭を抱えてしまうが好きに呼べと言ってしまった手前今更発言を曲げることは少し癪に障る。
「……俺はなんて呼べば?」
これ以上俺の名前が悪化しないように“しにがみさん”を甘んじて受け入れると、無理矢理矛先を変えることにした。
「うーん、好きに呼んでって言いたいですけど、リリのお付きってことにするから聖女様とか?格好いい!それがいいですよ!」
大人びていると、そんな印象を最初に少女に抱いた俺だが、前言撤回しよう。
このちんちくりんはまだまだ年相応で、背伸びしているだけなんだと。俺まで周りのやつと一緒の目線で見てしまってはこの子はいつまでも自分の姿を出せないままなんじゃないかと。
大きな瞳をキラキラとさせながら恥ずかしい事を言う少女の目線を避ける様に逸らすと、俺が次はううんと唸った。
「リリーでいいだろ。 かつてのマリアも捧げられていたホワイトリリー、お前に良く似合いそうな百合の花だから……。」
「わぁ…リリー!伸ばしただけだけど、素敵な意味合いのお名前ね。しにがみさん、リリよりよっぽどセンスあるかもね?」
「“かもね?”じゃなくて俺の方が絶対センスあると思うぞ。俺の顔でその名前つけたんなら後で砂糖もはちみつも没収だからな。せいじょさん」
「ああー!!鬼!最低!やっぱり悪い人!」
少し半泣きのような顔をするリリーを笑うと頭をポンポンと軽く叩いた。
思わぬ所で知識が役に立ったが俺はもうすでに彼女に、リリーに毒されているようだ。
伸ばしただけなどと言われたのは少し腹が立つが、そんなところも愛らしいと何も言えなくなってしまうのだから、相当強い毒なのだろう。
何がきっかけで向こうが心を開いてくれたのか、堅苦しい敬語もいつの間にか外れて、俺とリリーの距離が一気に縮まった気がする。
もう、今日でお別れだと言うのに。
“しにがみさん”の俺と“せいじょさん”であるリリーの葬儀ミサが、もう少しで始まろうとしていた。