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短編

僕の中が〇〇で満たされるまで、僕は死なない

作者: 小鳥遊 悠治

 どこかの星のどこかの国のどこかの小さな町に住んでいる『ジョン』という名の青年がいた。彼は働き者で優しくて誰よりも他人思いな人だった。しかし、彼には秘密があった。

「この化け物め! 死ね! 死ね! 死ねえええええ!」

 夜、その町でマシンガンをちまくる男がいた。彼が狙っていたのは獣ではなかった。

「ガオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「うわあああああああああああああああっ!!」

 昼間は人間、夜は満月が出ていなくても狼となる『オオカミ男』。それが彼の秘密だった。

 彼が『オオカミ男』になり始めたのは、十歳の誕生日の夜からだった。その時、彼に何があったのか誰も知らない。しかし、一つだけ言えることがある。それは彼が彼女といる間は夜でも人間の姿でいられたということだ。彼女の名は『ナンシー』。彼の幼馴染でまるで本物の兄妹であるかのように彼と支え合って生きてきた存在である。彼が初めて変身した時、彼女は彼を抱きしめて、まるで彼の本当の母親であるかのように彼が大人しくなるまで頭を撫で続けていた。その後、彼は夜になる前に彼女を呼び、朝まで一緒の部屋で過ごすことでできるだけ変身しないように気をつけていた。ちなみに二人はこの頃から付き合い始めた。彼は町に危機が迫った時だけ『オオカミ男』に変身して夜の町を守る守護獣となっていた。もちろん、彼女が近くにいないと自我が保てないため共に行動する。

 そんな感じでそこそこ幸せな生活していたがある日、オオカミ男を退治しようとする集団が町を襲った。夜の町は逃げ惑う人たちとメラメラと燃え上がる炎で満ち溢れていた。彼は町を守りに行くと言ったが彼女は「このままこの町を出て、静かな場所で一生を共にしよう」と提案した。彼は一度、その案に賛成しかけた。しかし、生まれ故郷を捨ててまで自分たちだけが幸せに暮らすのは心が痛むと言って一人で町を守りに行った。

「お前がうわさのオオカミ男だな? ここで始末してやる! 覚悟しろ!」

「僕はこの町を守っているだけなんだ。それ以外は何もしていない! 信じてくれ!」

「知るかそんなこと! お前が生きているだけでおびえながら生きているやつらがいるんだぞ? そいつらの願いを俺たちが叶えてやると言っているんだ。むしろ感謝してもらいたいね」

「感謝だと? 町や人をめちゃくちゃにしたお前たちに感謝しろというのか!」

「お前がさっさと出てこなかったからだ。恨むなら自分を恨め」

「……分かった。もういい、たくさんだ。残念だけど、君たちを生かしておくわけにはいかない!」

「ほう、そうか。それで? いったいどうするつもりなんだ?」

「お前ら全員、皆殺しだ! うおおおおおおおおおお!!」

 彼はオオカミ男に変身して、彼らを皆殺しにした。あとは元の姿に戻って彼女の元に帰るだけだ。だが、そうはならなかった。

「アオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 なぜなら、心までオオカミになってしまったからだ。彼は黒い体毛が血で真っ赤に染まるまで暴れ続けた。ようやく到着したナンシーが目の当たりにしたのは心までオオカミになってしまった彼とすっかりボロボロになってしまった町だった。彼女は絶望しつつ彼を抱きしめた。

「ジョン、あなたは町のために自我を崩壊させてまで戦ってくれたのね、ありがとう」

 すると、彼は。

「オレ、マチヲコワシタ! ミンナ! コロシタ! オレハ! オレハ!!」

「いいのよ、ジョン。あなたのせいじゃないわ。私がもっと早く来ていればこんなことにはならなかったんだから。ジョン、あなたは生きてその罪を償いなさい。いいわね?」

「ウウ……ナンシー」

「ジョン、ここではないどこかに行きましょう。そしてそこで静かに暮らすの。ねえ? いいでしょう?」

「オレハ、ナンシートイラレルノナラモンダイナイ」

「そう、なら二人で作りましょう。私たちの楽園を」

 彼がオオカミから人間の姿に戻ることはなかったが二人はそこから離れた土地で幸せに暮らしたという。

 ちなみに二人は結婚して子どもを授かっている。そして、今もその祖先はこの世のどこかに生きているらしい。

 もしかしたら、あなたのすぐ近くにいるかもしれない。ジョンとナンシー、オオカミ男と人間の血を受け継いだ存在が。

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