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終章 決めてしまった気持ち

これで完結です。放置状態でしたが、最後まで書けてよかった。

 戻ってきた。ある意味で始まりの地に。王都から遠く離れた東の果て、魔王の城。

 最後に来たのはスズラと戦う前、最終決戦だと臨んだとき。最初に訪れたのはもちろん、この世界に召喚されたとき。時渡りだなんだのと意味がわからず、全てを諦めて城に向かった。それが今となっては元の世界に帰れるまでになった。最初と最後だけを見れば漫画やゲームのような理想的な話。だが俺は今、その理想とは違うルートを進もうとしている。

「ケント、行こ……?」

「……ん、そうだな」

 立ち止まっているのを不思議に思ったか、ルルが俺の顔を見上げて言った。感傷に浸るのもいいが、サタンに報告もしないとな。

 門に近づくと、門番の魔族がすぐに開けてくれる。最初に来たときと同じだ。意味はだいぶ異なるが。

「おかえりなさい、ケント様」

 中に入るとすぐ、リアが出迎えてくれた。まるで待っていたかのようなタイミング。

「わかってたのか? 俺がここに来ること」

「下級魔族は常に付近を飛んでいますから。何者かが接近すれば知らせが来ます」

 あ、そうか。そういう報告は常にあるのか。迅速な対応だな。

「……ふふ」

 誰かの笑い声が。今のはルルか? ここにはリアとルルしかいないしな。

「……なんですか、ルル? 何か可笑しいことでも?」

「別に……」

 なんだなんだ。俺を置いて盛り上がるなよ。

「……ケント様、こちらへ。サタン様がお待ちです」

 リアが咳払いしつつ言い、歩き出した。何も知らないまま流された気がするが、とりあえず行くか。なんにせよ、サタンに挨拶はしないと。

 もはや見慣れた内装。家みたいなものだ。人間にはだだっ広くて何もないが。……これは悪口か。ここで暮らすのなら、何か娯楽も欲しいな。裏にキャンプ場でも作るか?

 リアに案内されたのはサタンの部屋。最初に来たときも、ここでサタンと話したな。懐かしいと言うほどの時間は経っていないはずだが、それでも懐かしい。時間よりも印象の問題なのかも。

「サタン様。ケント様がお戻りに」

 リアが一声かけて部屋の中へ。サタンは窓の外を見ていたようだが、俺が部屋に入るとゆっくりと振り向いた。

「来たか。首尾は上々だったようだな」

「ああ。全部終わったよ。みんなも帰れたみたいだ」

 離れて様子を見ていたが、時渡りたちは光に包まれて消えていった。俺が召喚されたときと似たような現象。きっと、元の日本に帰れたんだろう。

「お前は、残ると決めたか。ケント」

「うん」

 悩んではいた。割とギリギリまで。冷静に考えれば、帰ったほうがいいに決まっている。俺にとっても、俺の身近な人たちにとっても。

 天秤にかけた。日本とこの世界と。どちらを選ぶのか。どっちが好きとかそう単純な話ではない。

「俺はここで生きる。これからは、魔族として」

 果たして何百年、何千年を生きることになるか。それはわからない。長く生きられるといいが。長く生きればその分、一緒にいる時間が増える。

「……覚悟も決まったようだな」

「もちろんだ」

 俺は、ルルと生きる。この世界で。

 

 

 サタンとの用事を済ませたので、残っているのにも挨拶を。これからよろしくやる奴があと二人ほどいる。

「……よお」

 今日は二人揃っていた。もう人間の町を襲うこともなくなったから、暇そうだな。

「今日は突っかかってこないんだな、エド」

 エドは窓として空いている壁に片膝で座っている。気だるげに頬杖をついたまま、ぶっきらぼうに挨拶してきた。

「フン。喧嘩を売りに来たんなら買うけどな?」

 軽やかに飛び降り、俺の前に立つエド。凄んでいるように見えるが、顔は笑っている。

「エド。ケントはもう仲間……」

 それを遮るはルル。こっちも嬉しそうだ。前までのような険悪な空気はない。

「わかってるよんなことは。冗談の通じねえチビがよ」

 こらこら、仲良くしなさい。大一番を一緒に戦った仲じゃないか。

「お前のことを知らないわけじゃねえ。魔族になったんなら、好きにすりゃあいい」

「意外だな。嫌味の一つでも言われるかと思ったが」

 優しいんだな。お前みたいなのがーとかは言わないのか。

「もう大して関わる理由もねえしな。てめえで勝手に生きろ」

 言うだけ言って、エドはさっさと部屋を出ていった。それだけかよ。もうちょっと何かないのか。

「フフ……ああ言ってはいますが、喜んでいますよエドも」

 部屋の隅でじっと見ているだけだったキースが言う。喜んでるのがわかってたからあえて何も言わなかったのか? いい性格してるな。

「だと嬉しいね。これからよろしく頼むよ」

「こちらこそ。歓迎しますよ」

 キースは元々ある程度心を開いてくれていたが、ますます友好的になった。エドも認めてくれているらしいし、うまくやっていけそうだな。これでめでたしめでたし、か。

 これで一通り挨拶したか。それじゃ最後に、あそこに行こう。

 

 

 魔王の城の裏。何もない広い荒野。気持ちいいくらいに何もないこの場所が、思い出の場所になった。魔王と手を組むと決め、時渡りの力を試すためにここを使った。以降も、ここは練習場になった。おかげで地形がだいぶ変わってしまっている。

 俺の中の時渡りの力はまだ感じる。使える。しかしこれが死ぬまでずっとあるのかはまだわからない。年月が経つと薄れたりなくなったりするのかもしれない。前例やデータがないのでなんとも言えないが、今はまだある。

 ここでルルと出会った。恐る恐る力を使う俺をじっと見ていた。ここから始まり、ルルとはずっと一緒に行動していた。一度離れたときも、ルルは俺のことを心配していたらしい。実際に、助けようと駆けつけてくれた。

「遅くなったけどありがとうな、ルル。ルルにもたくさん助けられた」

 今にして思えば、初動。ルルに出会っていなければ、慕われていなければ、今の俺はなかったかもしれない。計画は成功しなかったかもしれない。

「ルルも……ケントのおかげで、楽しい……」

 未来はいくつもある。いくつもの世界線がある。そう考えると、ここでルルに出会ったからこそ、この結果があったんだろう。偶然……いや、そうじゃない気がする。

「俺は、ルルに会えてよかった。ルルはどう?」

「ルルも……!」

 ルルが目を輝かせた。こんなにも嬉しそうにしてくれる。やっぱり、ここに残ってよかった。

 葉月さんが言っていた。無限にある世界線でも、ある人物がいつも俺の近くにいたと。きっと、それがルルだったんだろう。何の根拠もないけど、そう感じる。そうとしか思えない。

「これからはずっと一緒だ。魔族なら、俺も長く生きられる」

 ならば俺はルルの傍にいよう。何十年でも、何百年でも。そのためなら、人間でなくても構わない。

「うん……! ルル……ずっと一緒にいる……! 一緒にいて、ケント……!」

 異世界でも構わない。帰れなくても構わない。愛しい存在がここにいるなら。

「約束する。最期まで一緒にいるよ、ルル」


 これが、俺の選んだ未来だから。

 

 

 ~完~

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