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十六章 生んでしまった孤独 ー 3

やーっと完成したので続けて上げます。

 聞きたいことが山ほどある。何から聞けばいいか、どこまで聞けばいいか。できればすべてを聞きたいところだが、そこまでのんびりしてる場合じゃない。とりあえず……

「意外と諦めるのが早かったな。これでよかったのか?」

 感想戦は基本。降りてきたのは時渡りが全滅したからだろうけど、空での戦いはどうだったんだろうか。

「これではどうしようもない。時渡りに対抗できるのは時渡りだけだ。こちらの時渡りでは君たちを倒せない」

 事実だな。それを諦めずもがくのは愚策と見たか。どうやら、ルルとエドの足止めは効いていたらしいな。

「時渡りの力は、数だけではないんだね。それとも……」

 術者が視線を上げた。

「君が何かしたのかな、ハヅキ」

 彼は葉月さんの力のことまでは知らないはずだが、どう評価しているんだろうか。まあ、人間なのに三百年後の未来に平然と存在している時点で普通じゃないか。

「いいえ、私は何も。こちらの……健人さんと綾音さんの力によるものです」

 葉月さんもしっかりと術者を見つめ、答えた。

「へえ。君たちの力はそんなに強いのか」

「まあな」

 俺たちだけがすごいわけじゃないが、ここはそういうことにしておこう。説明すると長くなる。

「それで、勝負はついたわけだが。呪術を解いてくれないか?」

「ふむ……条件次第かな」

 負けても条件をつけてくるか。人間だとこうはならないな。術者は魔族。自分の命への執着が薄い。こいつの場合は特に加えて目的に忠実で、自分以外の犠牲について何も考えていない。目的を果たすのが優先か。呪術を解いてしまうと、それができなくなる。だから交渉と。

「あんたの目的は人間……だよな?」

「そうだね」

 人間への復讐。人間を殺す。根本的なことは俺と同じだ。

「俺たちがそれを果たすってことで、どう?」

「僕の思惑通りになるのならそれでもいいけど、できるのかい?」

「いや……」

 無理だろうな。翔太や美香の意見に反する。

「俺の目的は、時渡りの召喚をやめさせることだ。そのために必要なら人間を殺すが、無関係の人間には手出ししないようにしたい」

「無理だね。時渡りと無関係な人間なんていない。仮に今は止められても、人間という生き物はいずれ同じことを繰り返す。他者の力に溺れ甘えるのが人間だ」

「…………」

 他者の力、ってところがミソだな。他人の出す成果を自分の力と勘違いし、自分が偉いと錯覚して威張る。そういう人間はまあまあいる。

「じゃあ、別のことを聞くよ。人間が時渡りを魔王討伐のための道具として扱い始めたのはいつからだ? 誰がそんなことを考えた?」

 原因はなんなのか。何故、化け物として恐れられるのか。単身で魔王の城に乗り込み、死ななければならないのか。

「王族さ。今も繁殖を続けてる。ハヅキから奪った力を持つ人間がね」

「どういうことだ?」

 王族というのはわかる。でも、葉月さんから奪ったって……なんのことだ?

「ハヅキに産ませた子が、ハヅキと同じ力を持っている。その子もまた同じ。気づけば王都には、時渡りの力を持つ王族が複数いた」

 時渡りの力って遺伝すんのかよ。ってことは、時渡りとの戦いはまだ終わってないのか……ここまでくればと思ってたのに。そいつらの強さはどの程度なんだろうか。葉月さんの力を受け継いでいるとしたら、相当な強さになる。

 葉月さんの子は一人のはずだ。一人を産んだ後に逃げ出したと、前に本人が言っていた。その一人から遺伝して、今は何人かいるのか。

「自分たちが化け物と呼んでる存在を増やしてるのか。大丈夫なんかね」

 国民はどう思ってるんだろうか。王族が化け物だってことは知らないのかも。葉月さんのことを知らなければ、王族が緑の髪でも何の疑問も持たないだろう。自分たちの国の王が化け物だって知ったらどんな反応をするかな。

「じゃあ、そいつらはやらないとな。この世界の人間が時渡りの力を持ってるなんて、危険すぎる」

 術者の言う通り、人間は同じ間違いを繰り返す。この世界の人間が時渡りの力を持たせるなんて冗談じゃない。間違いどころか故意で同じことになる。

「時渡りの力を持った王族を倒せば、解決する?」

「そんなわけがないだろう。国を治めている人間が化け物に殺されて、残った人間たちが平静でいられるものか」

「……あ」

 そりゃそうだ。時渡りの力という脅威はなくなるとしても、人間たちそのものが大混乱になる。それを放置して一件落着とはならない。

「でもじゃあ、どうすればいいんだ? どうすればこの世界が平和になる?」

「そんなの、僕に聞かれてもね」

 そっけないな本当に。何かにつけて、熱意というものが感じられない。この世界の惨状を長年見てきた魔族なら、こうもなるか。

「なら、お前は何をやろうとしてたんだ。人間を全滅させるのか?」

「そうさ。そこまでしないとわからないんだ、人間は」

 言い返せないのが辛い。『この世界の人間』がどういう考え方をしているのかまではわからない。しかし俺の知る人間も、地球という世界で似たようなことはしている。全部がそうとは言わないが。

「まあ、それについては同意するけど。魔族を攻撃する必要はなくなったでしょ? あたしたちがいれば、人間と正面からだってやりあえるわ」

 綾音も話に加わった。その通りだ。術者が魔族を倒そうとしていたのは、人間への復讐という目的の過程。魔族を倒すという役目を果たし、人間を油断させ、攻撃する隙を作るためのもの。だが今は俺たちがいる。俺たちは人間に喧嘩を売って、勝つ自信がある。全滅まではできないが、召喚の黒幕である王族は殺せるはずだ。

「それは頼もしいね。君たちなら可能だろう。だがその後はどうする? 残った人間は?」

「そうなのよねえ……」

 綾音もその結論は出せていない。戦いなら力でねじ伏せられるが、話し合いでというのは無理がある。まして時渡りに理解のない連中と話なんて、難易度が高すぎる。翔太や美香はそれを目指しているが、今すぐになんとかする方法があるわけじゃない。どうしたものか。

「健人さん、綾音さん」

 足音がした。俺の後ろ、葉月さんが一歩踏み出している。

「葉月さん……」

 俺や綾音の説得では弱い。葉月さんに託してみよう。

 葉月さんはゆっくりと術者に歩み寄り、向き合った。

「……改めて、お久しぶりです」

「そうだね。三百年ぶりだ」

 三百年の時を経ての再会。術者にとっては、今は本当に三百年後になる。

「三百年……あなたはずっと、こうしていたのですか?」

「そうなるね。呪術と……時渡りの召喚も担当させられたよ」

 やっぱり召喚もやってたのか。ってことは、時渡りの管理はほぼ一人でやってたのか?

「人間は魔族の扱いが荒いね。そのおかげでこうして、時渡りを自由に使えるようになったけれど」

 人間の好きにこき使われたおかげで、か。妙な話だな。

「今でも、恨んでいますか? 人間を」

「恨みかどうかはともかく、敵だと認識しているよ」

 それはわかる気がする。恨みとかじゃなく、敵。ルルたちもきっとそんな感覚だろう。

「……私のことは、恨んでいますか?」

 寂し気な声音。葉月さんは今でも、彼のことを思っている。召喚や呪術に関わっていようと、彼のことを悪く言わない。でも逆はどうだろう。自分を倒し、人間に捕まるきっかけとなった葉月さんのこと、術者は恨んでいないだろうか。

「三百年も前のことだろう? 君はその後僕と何も関わっていない。僕の邪魔をし続けるようなら恨みもするけど」

 さっぱりしてるな魔族は。そういう考え方もあるか。見習いたいところだ。

「では、手を取り合うことはできませんか? 感傷ではなく、あなたの目的のため……そして、彼らの目的のために」

 勝った者に従えとは言わない。利害の一致とまではいかないが、争う必要はないはずだ。

「君たちはそれでいいかもしれない。でも、僕にとってのそれは協力ではなく妥協だ」

 その言い分もわかる。呪術のことに頑ななのはそういう理由からというのもわかる。だがそれはこっちに都合が悪い。互いが納得できるのはどこか。

「あなたが間違っているとは思いません。私たちが正しいとも言えません。ただ私は……あなたを助けたいのです」

「助ける? 僕は別に困ってはいないけど」

 術者は涼しい表情のままでいる。話はちゃんと聞いているが、葉月さんの思いまでは伝わらない。

「人間への敵意やその目的のために生きてほしくはないんです。何もかも壊してしまっても、あなたが孤独になるだけです」

「孤独を恐れるのは人間だけだよ。魔族は基本的には単独で生きる。孤独でも問題ないさ」

 サタンも言っていた。ルルたちを見ても、それは納得できる。一人だからといって寂しいという感覚は、魔族にはない。人間に親がいるのが当たり前なのと同じで、魔族は一人なのが当たり前なんだ。

「そうでしょうか? 少なくともあなたは、そうではなかったはずです。あなたには大切な仲間がいた」

「…………」

 でも、彼には仲間がいた。仲間と呼ぶほどの時渡りが。

「聞かせていただけませんか? あなたに何があったのか。私よりも先にこの世界に来ていた時渡りは、何者だったのか」

 しばらく、術者は黙った。答えにくいのか、答えるべきかどうかを考えたのか。

 葉月さんは静かに待った。周りにいる俺たちも、ただ待った。

 暖かい日差しの下。風が吹く音だけの場所で、術者は静かに語りだす。

「彼は、ユウキと名乗っていた」

 出会ってから初めて、見た目相応の表情を見た気がした。

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