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十章 ぶつかってしまった現実 ー 3

「ねえ、ホントによかったの?」


 綾音が後ろを何度も振り返りながら、俺に声をかけてくる。あの二人のことが気になるか。


「いいも何も、どうしようもないだろ。必死に説明したところで信じてもらえるわけじゃない。かといって連れていけば、あいつらは裏切り者だ。敵対したら最後、この世界の人間が時渡りをどう扱うかなんて、わかりきってるだろ?」

「…………」


 騙されている今はいいかもしれない。だが一度敵対すれば、人間たちは翔太と美香を化け物とみなすだろう。綾音もそれはわかっているのか、反論してこない。


「同じ世界にいるが、あいつらは環境が違う。まだ俺たちに味方するかわからないまま無理に引き込んだら、本人たちが苦しむことになる」


 人間たちのあの有様を知らないのであれば、説得は効果が薄いどころか逆効果になりかねない。綾音が俺の誘いに応じてくれたのはあくまでも、綾音自身がひどい目に遭ったから。最後にあの仕打ちがあったから、こんなことになってる。


 だがあの二人は違う。この世界の人間のことをいい人だと思っている。時渡りは勇者のように魔王を倒すものだと思い込んでいる。説得するのは難しい。


「たとえ騙されているとしても、悪魔二人に向かってくる勇気と度胸は持ってる。なんとかできるさ」


 逃げずに戦う気概がある。呪術で操られているわけでもないし、どうするかの判断はできるだろう。であれば、個人の考えに委ねるのが一番だ。


「誰が悪魔よ。まあ、あたしもいい案があるわけじゃないけど……ただ、一つ気になるのよ」

「なんだ?」


 聞こう。同志たる綾音の意見なら。


「あの二人、呪術のことは知ってるのかしら」

「あ~……」


 それも確認しておくべきだったか。かっこつけてる場合じゃなかったかな。


「あんなピュアな二人が、時渡りが呪術で操られてるなんて知ってるはずがないよな」


 呪術の存在すら知っているか怪しい。俺もサタンやリアから聞いて知ったことだしな。


「知ってたら、人間に協力なんてできないでしょうね。あたしたちの言うことも信じたかも」


 そうだな。俺らみたいなのはともかく、あの二人は操るとかそういう非人道的なことは許せないだろう。戦う気満々だったのは、報告にあった俺が悪者だと確信していたからだ。この世界の人間が邪悪だとわかれば、きっと俺たちと協力できる。


「それで、この後はどうするの? 襲撃?」

「ああ。王都に向かっていくぞ」

「まさか、もう終わりにするつもり?」

「ここまで来たしな」


 俺もまさか、こんな簡単に攻め込めるとは思っていなかった。対策として出てきた時渡りも簡単に撃退してしまった。そして王都は目前。


「前回の双子、今回の翔太と美香。人間が抱えてる時渡りは、俺とお前の相手じゃない。いけるだろ」

「フラグにしか聞こえないからやめて」


 フラグは立てるものだ。立てても回収しない時はしないし、立てなくても発生することはある。気持ちの問題だこんなものは。


「ここは異世界で、俺たちはいわゆるチート能力者だ。楽観的なくらいでちょうどいい」

「嫌な予感しかしないわ……」


 人生そんなもんだ。いい予感がすることのほうが珍しい。そのいい予感すらも肩透かしに終わるものだ。結果的に嫌な予感だらけさ。


「フラグが回収されても、俺とお前がいれば問題ない。ルルたちも手を貸してくれるし」


 最初は、ルルと二人だけだった。それが今はどうだ。綾音が仲間になり、時渡りは二人。エドとキースとも仲良くなり、上級魔族が三人。戦力はもう何倍かわからん状態だ。


「これで勝てないなら、どのみち逃げ帰るしかない。気楽にいこうぜ」


 今の状態で無理って状況は、さぞかし絶望的なことだろうよ。そんな状況を想像しながら戦うなんて、気持ちが沈む。勝てるものも勝てなくなる。敵の戦力を確かめる意味でも、進軍する価値はある。


「……それもそうね。ここまで来て気負ってもしょうがない、か」


 そうそう、ここまで来たんだからさ。楽しくやろうじゃないか。


「ルルも、いいな? 人間の本拠地を落とすつもりで行くからな」

「うん」


 いい返事だ。ルルはいつでも俺の言うことを肯定してくれる。俺が誘導してるだけのようにも見えるが、些細な事だ。


「……あれ? 飛行型か?」


 ふと空を見ると、何かが飛んでいる。あんなシルエットの鳥はいない。飛行型下級魔族だ。アイオーンを襲った数ほどはいないが、数十は飛んでいる。


「キースが召喚石を持ってる」


 ルルがぽつりと言った。あいつも召喚石持ってたのか。上級魔族が三人、さっきの町で戦ったからこのあたりにも魔力が生まれたんだな。襲撃なら下級魔族も使ったほうが早いか。飛行型一匹でも一般人よりは強い。あの数なら効率は大幅に上がる。


「よし、俺たちも行くか」

「OKよ」


 足を走らせる。心なしかいつもより速い気がする。エンディングが近づき、気持ちが浮ついているのか高ぶっているのか。早く先に進みたいという好奇心からか、さっさと終わらせたいという怠け心からか。


 特に感慨深いものはない。この世界に来てまだ日が浅い。超大作の大冒険にはならなかった。現実は、ゲームのような面白いことはそうそう起こらないようだ。異世界に来てチート能力を手に入れたら、実際はこんなものなのかな。……なんて、また綾音にフラグ立てんなと怒られそうだ。


 フラグのことはさておき。嫌な予感はある。簡単すぎる。あっけなさすぎる。この世界の人間がこれだけで終わるとは思えない。


 仮にも三百年だ。魔王を倒すため、時渡りという存在を生み出して三百年。魔王や、時渡りの反逆になんの対策もしていないはずがない。本拠地である王都になんの守備もないとは考えられない。まだ幼い子供たちを化け物退治のための捨て駒に使うような連中だ。自分たちの家は大事に守っているだろう。ひょっとしたら俺の想像以上に、王都は難攻不落なのかもしれない。


 まあ、どんな守りだろうが潰してやるが。そうでなきゃ、平穏は訪れないからな。この世界にも、日本にも。


「ねえ、健人」

「んあ?」


 綾音に呼ばれた。襲撃地点まではまだちょっと距離がある。走りながら喋るって、辛い。低空を飛べるルルがうらやましい。


「このへんなら、空から王都が狙えるんじゃない?」


 空を指さす、笑顔の綾音。それはあれか。シュナの町を消したのと同じことをやれということか。好きだな空中攻撃。綾音は戦車より空がいいのか。


「まあ、届くだろうな。それが?」

「景気づけに一発」


 野球のホームランじゃねえんだから。


「雑すぎるだろ。それにお前、いきなり吹き飛ばすのはやめろって自分で言ったじゃねえか」


 無差別な攻撃は緑の姫を巻き込む可能性があるからやめろと言ったのは綾音だ。だから俺は先制攻撃を控えていたのに、ここにきて綾音がやれと言う。


「…………」


 綾音は俺から目を逸らし、やや上を向いた。少し間を開けてから俺に視線を戻し……


「それはそれ、これはこれ」


 どれがどれよ。


「調子いいこと言いやがって。ま、俺はそれでいいんだけどさ」


 ルルに頼んで空へ。高度を上げていくと、眼下に大きな城が見えた。あれが王都、そして王様の城か。この世界の王様ってどんな見た目をしてるんだろうか。俺の考える王様のイメージって、白ヒゲたくわえて王冠かぶってるんだが。もしくは、若いイケメンか。あるいはすんごい悪人面が出てくるのかも。希望としては、さっさと死ぬか降伏してくれるポンコツがいい。知恵者と戦争するのは嫌だ。


 立派な城を立てているじゃないか。今までの町よりも壊しがいがある。


「ルルも、ここに来るのは初めてか?」

「うん」

「じゃあ、あの城も初めて見る?」

「うん」


 ルルも初めてか。魔族は人間よりもずっと強い種族だが、さすがに人間の領域を散歩するほど自由ではないか。


 今、人間の心臓部が目の前にある。が、すぐには攻撃できない。俺たちの同胞たる時渡りがいる可能性があるからだ。地味だが、端っこあたりに一発打ち込むとしよう。エドとキースの侵攻は、まだ王都までは届いていない。なのに突然王都が爆撃されたら、人間は驚くだろうな。


「よし、いくぜ。この世界から、必要のない人間を消し去る。これがその第一歩だ」


 それを成せば、俺は……いやその前に、綾音たちを元の世界に帰す方法を探さないと。冒険はもう一波乱ありそうだ。まあ、まずは目の前のことに集中しようか。


 狙いを定める。人間側からのアクションは何もない。この高度に攻撃する手段はおそらくなく、まだ視認すらできていないだろう。距離が遠いのもあるが、この行動がそもそも奴等の想定外なはず。ゆっくりと力を溜め、ぶっぱなせる。それじゃあ始めよう。先制攻撃だ。


 力を放つ。それはいつも通りだった。


 が、その後が。結果が、いつもと違っていた。


「……ん? 駄目か」


 弾かれた。時渡りの力だな。力の流れでわかった。それ以外に防ぐ方法なんてないけど。


「時渡りがいるか。しかも、俺の力を防ぐほどの」


 全力ではなかったとはいえ、ちゃんと防御できる奴か。翔太や美香よりは強そうだな。


「ルル。敵の時渡りの存在は感じられるか?」


 感知能力に優れるルルに確認してみる。今のを一人でやったとしたら大したもんだが。


「……たくさん、いる」


 返ってきた答えは予想外なものだった。


「たくさん? だいたいでどれくらい?」

「……数えきれない。……百?」


 多すぎだろ。とりあえず、正確な数がわからないってことだな。となると……


「ルル、降りよう。あっちも攻撃してくる」

「わかった」


 一度退こう。力の流れを感じる。間違いない。俺を攻撃しようとしている。防ぐのは問題ないが、ここにいるのはまずい。ルルが危ない。


 ルルが高度を落とす。俺に向けられる力は、だんだん強くなっていく。


 これは、どういうことだ? 力を溜めるのはわかるが、こんなに強くなるもんか? このまま強くなり続けるとちょっとまずいんだが?


 地面までまだ遠い。高層からエレベーターが降りるのを待っているみたいなもどかしい時間。やはりというべきかその途中、地面に降りるまでに動きがあった。


 力の流れが変わった。一か所にチャージされていた力がこっちに向かってくる。その予兆を感じた。


「ちっ……ルル、このまま降りてくれ。俺が攻撃を防ぐ」

「……うん」


 ルルの返事の声がいつもと若干違って聞こえる。不安なのだろうか。俺が若干心を乱しているから、それが伝わっているのかもしれない。


「大丈夫だ。任せろ」

「うん」


 かなりの威力ではあるが、防げないほどじゃない。絶対にルルを守り切る。


 強大な力が飛んでくる。ずいぶんと乱暴な力の使い方だ。近くにあるものはなんでもかんでも適当に壊してしまいそう。ここは人間の住処なのに、そんなのでいいんだろうか。高空にいる俺を狙うのならこれでいいかもしれないが……逆に、地面に降りたらこっちのものか。被害を考えたら、地上戦でこれと同じ力の使い方はできない。俺はいくらでも町を壊せるが、敵からすれば町を壊すのはリスク。こっちが有利だな。


 力を使い、防御する。時渡りと戦うのはこれで四度目になるが、力は今までで一番だな。こっちはまだ余裕が残っているが、少々の危機感を覚える。


「……よし」


 防ぎ切った。すごい力ではあったが、問題ない。


「健人! 大丈夫!?」


 地面に立ち、ルルが手を放す。戻ってきた俺に、綾音が心配そうに声をかけた。


「すごい力だったけど……ケガとかしてない?」


 めっちゃ心配してくれてる。男冥利に尽きるが、今はふざけている場合じゃない。


「正直、ちょっとまずいかもな。あれが敵の全力ならいいが、一片でしかないとしたら……」


 あまり考えたくないが、まだ本気の力を残しているとしたら。俺が負けることもありえる。負けはイコール、死だ。


「手を貸すわ。二人でなら……」


 どうだろうな。見た感じ、それも微妙だ。綾音が加われば防御は頼もしいが、こっちの攻撃で敵を崩せるかどうかの確証がない。そのくらい、敵の守りは堅かった。ルルが時渡りはたくさんいると言った通り、かなりの人数がいる。敵の戦力がわからない今、試すにしてもやみくもに戦うのはまずい。嫌な予感がする。


「……いや、ここは撤退しよう。態勢を立て直す」


 元々、若干無茶な行軍。想定外の壁にぶつかったのなら退くべきだ。綾音と協力すると、より強い力で相手を刺激することになる。相手が攻勢に出てきたら勝てる保障はない。敵の時渡りたちが王都から動かず守るだけなら、逃げることができる。


「いつになく弱気ね。健人の判断なら従うけど」

「わりぃ。助かるよ」


 話の分かる同志でよかった。こんなところでモメたくはないからな。


「そんだけやばい相手ってことでしょ? あんたがそう感じるほどなら、そりゃ逃げたほうがいいに決まってるわよ」


 どういう意味だ。俺はそれ以上にヤバいってことか。失礼な。


 ともかく撤退だ。エドとキースにも伝えないと。


「……ルル。エドとキースを呼んでこれる?」


 ルルにとっておそらく最も厳しいであろう任務をお願いする。互いに嫌っている同士で伝令がまともに機能するだろうか。


「ケントが言うなら、やる」


 なんて健気な。ルルはいい子だなあ。あの二人もこのくらい従順だったら楽なんだが。……あいつらがそうだったら気持ち悪いか。あいつらのことはルルに任せるとして、俺と綾音は撤退を始めよう。魔族だけなら、徒歩の俺らにはすぐに追いつく。


「じゃあルル、行ってくれ。俺たちは南に逃げる」

「わかった」


 ルルなら俺と綾音の力を辿って追ってこれる。とりあえず、破壊して安全になった南へ撤退だ。


 ルルが飛び立ったのを見送り、綾音と二人で走る。ルルは俺を抱えて飛ぶ時とは比べ物にならないスピードで、一瞬にして俺の視力の先に消えた。


「綾音。さっきの力、下からでも感じ取れたか?」

「ええ。あれだけの力だとさすがにね……まさか、あんたの攻撃が防がれるなんて思わなかった」


 ずいぶんと買われてるな、俺。確かにこれまでは無双だったが、俺でも勝てない相手はいるってことだ。残念だが、この世界はそんなに甘くなかった。


「あれって、人数が多かったってこと?」

「ルルは、そう言ってたけど」


 時渡りがたくさん。たくさんというと、数人では済まないだろう。ルルは百とつぶやいていたが……まさかな。五十とかだろう。願わくばそうであれ。一学年分の人数を相手するとか勘弁してほしい。


「だとしたら、一つ気になることがあるのよ」


 気になること? 何か思いついたのか綾音。


「なら、安全な場所に移動してから聞くよ」


 綾音が何に気づいたのか。気になるが、今は逃げることに集中しよう。余計なことをして敵に見つかるとか、ゲームでよくある展開だ。ここはまっすぐに逃げる。何をするにも、安全を確保してからだ。敵からの次の攻撃もないし、今がチャンス。


 実質初めての撤退。俺と綾音は、一目散に走った。



 敵の時渡りからの攻撃はない。力の流れも感じない。


 予想通りと言っていいのか、王都はガチガチに守りを固めている。時渡りによってだ。しかも、大勢いる。どうやらガーディアンの如く王都を守っているだけらしく、直接交戦するために出てくる様子はない。今回は初めてのことだし、あっちも警戒しているだけかもしれないが。


 ひとまず、破壊した町までは逃げてきた。身を隠す場所はないが、そこまでする必要はない。人間に見つかっても俺と綾音がいれば問題ないし、時渡り相手には隠れても無駄だし。


 ルルたち三人とも無事に合流した。撤退は問題なく成功。……エドが不満を向けてくる以外は。まあ、これくらいは必要経費か。いざとなったら綾音にタゲを取ってもらおう。


「綾音。気になることってのは?」


 逃げる時に綾音が言っていたことを確認しよう。気になることとは。


「時渡りは大勢いたのよね? 健人の攻撃を防いだのが人数のためだとすると、時渡りの力は足し算できるってことになるんじゃない?」

「ほう」


 そういうことか。確かに、そう考えることもできるが。


「それは、俺が敵より強いって前提だろ」

「違うの?」

「いや俺に聞かれても」


 どうして綾音は俺のことをこんなにも評価しているんだ。綾音よりも力が強いのは事実だが、それでも全時渡りの中で強いのかはわからんぞ。サタンは俺の力を評価してたけど。


「では仮に、ケント様の力が他の時渡りよりも強いとして。アヤネ様は、それをどうお考えで?」


 いいツッコミだ。こういう時、まともに話に参加してくれるのはキースだけ。ルルやエドを悪く言うわけではないが、議論する人が多いのはいいことだ。


「足し算ができるとしたら、こっちはそれ以上の力がないと勝てないってことでしょ? 健人の力で駄目なら割と絶望なんだけど」


 早いって。絶望すんな。まだお前がいるだろ。


「あれはまだ全然、全力じゃねえよ。けど、戦力が必要なのはその通りだな」


 正確な人数はわからないが、下手すると俺と綾音でも無理な可能性が出てきた。綾音の説が当たりだとしたら……まずいな。しかも、増やそうと思えばまだ増やせる。放っておくと手がつけられなくなる可能性もあるってことだ。攻めてこないなら問題ないけど、いつまでもこのままってわけじゃないだろう。


 敵以上の戦力が必要か。今から集められるか? あるいは……


「敵の時渡りが呪術で操られてるとしたら、解くこともできるか」


 それができれば、敵の戦力を削ぎこっちは強化できる。相手が時渡りの数を増やそうが関係ない。そううまくいけば、の話だが。


「呪術を解く人が必要ね。あたしたちだけじゃ詰むかもしれない」


 その通り。まずは解呪する人材が必要だ。つまり……


「人間か……仲間になってくれるかねえ?」


 これだけ敵対して、俺らに味方する人間が果たしているのだろうか。自分でやったことだけど。そうでなくても時渡りに味方する人間なんて、この世界じゃ数えるほどしかいないだろうな。


「脅してやらせる?」


 19歳の乙女がなんてことを言うんだ。やめなさいよ。


「面倒見るのが大変だぞそれは。基本的に敵だから、裏切られる可能性もある」


 ちゃんと働かせるためには待遇をよくしないといけない。綾音のような『仲間』と比べてかかる手間がまるで違う。


「お二人とも。解呪も簡単ではありませんよ。接近し、一度は倒す必要があります」


 そうだったな。目の前に立ちふさがる相手を一発で解呪はできない。結局、交戦する必要があるわけだ。


「あいつらに対抗できる戦力と、解呪ができる人かあ……」


 綾音が腕を組んで唸っている。時渡りと、人間。両方が必要だ。


「戦力のほうは、あてがないわけでもないけどな」

「そうなの? まさか、翔太と美香?」

「まあ、あいつらもいるけど。その前の、あの二人だよ」

「あー……」


 名前も知らない小さな時渡り。呪術で操られていた。あの子たちなら、事情を話せば協力してくれるかもしれない。


「あの子たちを戦いに出すのは酷だと思うけど……いずれにせよ、呪術を解かないといけないわね」


 綾音が冴えてる。今から俺たちがやるべきことは。


「解呪のできる人間の確保、ですか。ならば、人間の町を探る必要がありますね」


 そうだ。戦力となる時渡りを集めるよりは、そっちのほうが早い。解呪ができれば一つの目的を達成できる。時渡りを二人、正常に戻せる。あの二人を気絶させることはできたわけだから、解呪できる人間さえいれば解決だ。そこが難しいんだけど。


「人間を、か。簡単にはいかないでしょうね。呪術に詳しい時渡りがいればいいのに」

「そんな都合のいい奴がいるわけないだろ」

「フラグ立てておけば、来るんじゃない?」


 またフラグかよ。確かに俺がさっき回収したけども。自ら立てて回収されるんならそれはもう予言だろ。


 これまでの体験から、時渡りはおそらく日本人。呪術に詳しい日本人って、オカルトマニアか何かか? だとしても本物の呪術に精通しているとは思えないが。やはりこの世界での呪術士を見つけ、協力させるしかない。もはや力ずくで王都を突破したほうが楽なような気がする。


 しかしそうもいかない。王都にもきっと、呪術で操られている時渡りがいる。その人たちも解放しなければ。いずれにせよ解呪は必要だ。


「ここにいても何も始まらない、か。移動しよう」


 ラストダンジョンかと思いきや、思わぬ足止めをくらってしまった。負けイベントになったのはこっちだったか。呪術は制圧してから解呪すればいいやとか思っていたが、甘かったようだ。


「あてはあるのですか?」

「いや。とりあえず探すしかない」


 魔族とは交流があるが、人間の知り合いは誰一人としていない。最初のあのじいさんとか、呪術が使えたりしないのか? あんないかにも魔法使いな服装をしていたんだから、できるだろ。もう死んでるだろうけど。生きてたとしても、あんなヨボヨボを連れて歩くなんて非効率的すぎてやらないけど。


「蛮族みたいな考え方してるわね……ほかに方法もないけど」


 誰が蛮族だ。失礼な。蛮族に謝れ。


 冗談はさておき。綾音の言う通り、いい方法がない。時渡りという戦力を補充するか、呪術を解くことのできる人間を見つけるか。それができないとどうしようもない。あと一歩、王都を制圧するところまで来て、その制圧ができないとは。ここまでいい調子だったのもあって、一気に勢いが落ちたな。


「何をしようが勝手だけどよ。うまくいくんだろうな? 俺はお前と仲良く死ぬ気はないぜ」


 もちろんだ。俺だって魔族と心中するつもりはない。まして野郎と一緒なんてごめんこうむる。ルルとなら……小一日ほど考えさせてほしい。


「人類抹殺。心配しなくても、勝つさ。あれだけの戦力じゃ、どのみち俺と綾音がいなけりゃ魔族は危うい。俺たちにとっても、諦めるなんて選択肢はない」


 魔族だけじゃなく俺と綾音も、人間と敵対している。諦めたら魔族と一緒に滅ぶだけだ。あの数の時渡り、サタンでも相手しきれないだろう。図らずして、俺と綾音が魔族の希望になってしまったわけだ。


「認めたくありませんが、危機というのはケント様の言う通りですね……時渡りがルルの言う通りの数だとすれば、手に負えません」


 百と、ルルはそう言った。本当にそうだとしたら、今まで通りの戦い方はできない。


「ここにきて方針が変わるとはな。ともかく、行動しよう。別の町を当たって、解呪ができる人間を探すぞ」


 まずはあの小さな時渡りを正気に戻し、仲間にする。今確実にできるのはそれくらいだ。先のことはその後で考えるとしよう。

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