十章 ぶつかってしまった現実 ー 1
襲撃、にもいろいろあるな。その中でも村や町の襲撃というと、どういった様子をイメージするだろうか。燃えている家屋をバックに、人々が逃げまどっている感じかな。規制で表現できない部分は影だけで表現したりするよな。
しかし実際は、アニメのように家屋をぼうぼう燃やすことはなかなか難しい。火が必要なのはもちろんのこと、ちゃんと燃えるように工夫が要る。各所に火をつけるための人手も必要だな。決して楽な作業ではない。あれはあくまでもそういう表現、ファンタジーだ。あまり詳しく描写して、現実で真似できちゃうとまずいからな。
ところが、現実はそれよりもすごかった。火を放つ手間などなく、まず火を必要としない。ちょっと念じるだけでなんでもかんでも吹っ飛んでいく。吹き飛ぶ、というよりは消し去るという表現が正しいかな。
混乱する町。散り散りになる人々。飛び交う悲鳴と血飛沫。変わる地形。
これが、襲撃。この世界での襲撃。時渡りと魔族の共演。俺とルルだけじゃない。エド、キース、そして綾音も加わり、五人での虐殺となった。
淡々と切り伏せるルル。銃剣みたいなものを振り回すエド。槍を自在に操るキース。一口に魔族といっても、性格や戦い方はそれぞれか。
そして、綾音。俺と同じ時渡りの彼女も、破壊活動にいそしんでいる。それはいいんだが……やり方がなんか、気になる。時渡りの力を使っているのだが、俺のようにぶっ放すようなことはしていない。綾音が力を一回使うごとに、民家が一軒なくなっている。根っこから綺麗に。
「なあ、綾音よ」
「ん? なに?」
普通に返事するんじゃねえ。状況の異常さを理解したまえ。
「お前、さっきから何やってんの?」
「家だけ綺麗に壊せるかなーって。地面とか傷つけずに」
なんだそれは。割り箸を美しく割るとかそういう類のチャレンジか? やるのはいいが、家主からしたらたまったもんじゃないな。いや、建て直しがきくからまだありがたいほうか?
「あ、そう……成果はどう?」
「なかなか楽しいわね」
言いながら綾音はまた力を使っている。また一軒、家がなくなる。地面はほとんど削らすに、家だけがなくなる。
「ふふっ……」
本当に楽しそうっすね綾音さん。大丈夫かな。そのうち消え去りなさいとか近寄るな下郎とか危ないこと言いながら暴れたりしないだろうか。でも危ないことは今も言ってるし、暴れてるし……いいかな、ほっといても。
戦力的には何の問題もない。綾音は遊ぶ余裕があるくらいだ。あれだけ正義の味方してた綾音が、いざこっちの道に来たらあそこまで躊躇なくやるようになるのか。恐ろしいな。普段からいきがってるけど大したことできない奴と、普段はおとなしいがいろいろ考えてるから行動を起こしたら強い奴との違いかね。
町の人間は逃げるか腰を抜かすかしかできない。警備のための兵士もいるが、魔族や時渡りには通用しない。一方的だ。ここだけ見ていると、負ける気がしない。逆に、こんな俺たちが撤退を余儀なくされる状況って相当やばいな。人間にそんなことができるとは思えない。こっちは本能寺のごとく燃やされても吹き飛ばせるし、あっちがどんな城塞でも破壊してしまえる。人間の技術じゃ、この魔法のような時渡りの力を凌ぐことはできない。
しかし、それは人間もわかっているはずだ。自分たちで人智を超える力とか言って化け物扱いしているのだから、強さはよく知っているだろう。だからといって時渡りに対する策を何も考えていないとは思えない。どうせ、それが呪術で操った時渡りなんだろうけど……
「力押ししかないのかねえ……」
正面にいた数人の人間を吹き飛ばしつつ、頭で考える。人間の相手は問題ない。魔族は味方についている。実質の敵は時渡りのみ。同じ故郷の人間とはできるだけ戦いたくないが、そうもいかない状況もある。時渡りを倒すためには、単純に力で勝つしかない。完全な不意打ちならあるいは簡単にやれるのかもしれないが、俺や綾音は時渡りの力を感じることができる。敵の時渡りもそれはできるってことだ。不意打ちしようにも、力の発動で気づかれる。結局、殴り合うしかない。
綾音よりも俺のほうが火力は高い。力に個人差はあるようだが、じゃあ時渡り同士の戦いで勝つためにはどうすればいいんだろうか。力や技術で劣る者は、負けるだけなんだろうか。元の人間の性能差はあるだろうが、時渡りの力で負けている相手には勝てないはずだ。勝てない状況を覆すためにはどうすればいいのか。少年漫画の主人公のように、修行して強くなれるのだろうか。……いや、そもそも。
「綾音、ちょっと来て」
「ん?」
時渡りが『勝つ』というのはどういう状態か。それを確かめたい。こないだの子供二人は隙を突いただけだからな。時渡りの攻撃を防ぐと、力は衝撃となって弾ける。じゃあ逆は?
「壁、作れるか? 力で」
「壁? はい」
俺の注文に合わせ、綾音がすぐさま時渡りの力で壁を作る。自分の全身を隠すくらいの一枚の壁。しかし、そういうことではない。
「ああ、そうじゃなくて。お前にとって安全な場所に、大きめに作れる? 実験してみたくてさ」
「実験? ……何をするつもり?」
そんな疑いの目で見なくても。村人を使って人体実験とかするわけじゃないよ。
「耐久力テスト。お前が作るバリアを俺は破れるのかっていう。あと、破ったらどうなるかなって」
「ふーん……まあいいけど」
綾音は気が進まないようだが、言う通りにしてくれた。片腕を広げ、その先に大きな壁を作る。上手いな。俺にはあんなことできない。俺なら自分を中心に球形が関の山だ。
「よし。そんじゃいくぞ」
「加減してよね。あたしがどうにかならないように」
「わかってるさ」
さすがに綾音ごと吹き飛ばすような力は出さない。綾音は壁を作りながら自分のこともしっかりガードしているが、そのガードは使わせないようにしよう。
力を放つ。的当て……にしては的がでかいが、その要領で壁の中心を狙う。
「……っく!」
綾音が小さく呻く。俺の力は壁を破壊し、その後ろにある民家もぶち抜いた。
「大丈夫か?」
実験は終了。綾音に声をかける。体には当てていないはずだが。
「問題ないわ。予想外の威力ではあったけどね」
それでさっき、ちょっと声を上げたのか。力を入れすぎたか……
「防ぎきって馬鹿にしてやろうと思ったのに……」
なんだそりゃ。実験で対抗しようとすんなよ。お茶目かよ。
「防御の力の程度は時渡りにはわかるんだから、こっちはそれを上回るものを出すさ」
細かい数値化はできないが、百と五十の力の差くらいはわかる。強い力を破るためにはより強い力を使う。ていうかこの実験、防御を破らないと意味がない。
「破れるんだな。ってことは、防ぎきれない場合は普通に死ぬな」
俺の攻撃は綾音の防御を壊し、貫通する形で後ろに通り過ぎた。これを綾音本人に向けたら、ガードを崩して綾音の体に当たることになる。
「そりゃそうでしょ。で、それが?」
そうだな。それがなんだという話。
「時渡りの能力は個人差がある。基本的には攻撃と防御だけの力だ。力で劣る場合は絶対に勝てないのかな、って思って。例えば綾音が俺を倒す場合、どうすれば倒せるのか」
「あ~……確かに、それは気になるわね。修行する、とか?」
お前もその思考か。まあまず思いつくのはそれだろうけど。
「それだと、強い奴も修行すれば結局勝敗は変わらないだろ? もっと工夫できんじゃねえかって話」
「工夫って……人数を増やすとか?」
戦いは数、か。確かにそれは気になる。だがそれには疑問がある。
「増やしても、力で勝てないなら意味なくない? 例えば綾音が二人いても、俺に勝てるかというと微妙だろ」
「壁二枚なら防げるんじゃないの?」
二枚……そうなのかな。確かに物理だと、何枚も壁を重ねれば威力は殺せるが。
「防げる……かなあ。だとしても、敵に力で負けてるなら攻撃が通らない気が……」
防御は何重にも重ねられても、攻撃はそうもいかない気がする。ツルハシで岩を崩すには何度も叩く必要がある。強い相手に攻撃チャンスが何度もあるわけじゃない。RPGの戦闘みたいに回復しながらってわけにもいかない。
「あれじゃない? 二人の力を合わせて、みたいな」
プリティでキュアキュアしそうだな。力を合わせるってそう簡単なことじゃないぞ。こんな特殊な能力を合わせるとなると……できるものなのかな。要検証。
「何やってんだ、お前ら」
声が上から降ってきた。エドも一緒に降りてきた。
「人間は北と西に逃げたぜ。追うのか?」
北と西。要は別の町だな。このあたりからは一つの町が大きく、町同士の距離も近い。俺たちがここに現れたことが、北西にある王都まで一気に伝わるはずだ。距離的にはまだまだ遠いが、人間の抵抗は確実に激しくなる。というか、ここの防備が薄いのが疑問だ。魔族がここまで来ることは想定していないのか? 本当に何の備えもなくて震えてるだけか? まさかあの子供たちは本気で、俺への対抗策として置いたのか?
人間がそこまで頭が悪いとは思えない。なんか嫌な予感がするな……罠が待っていたりしないだろうか。
「おいケント、どうすんだよ?」
急かすなよ、考えてるんだから。ここからが大事だぞ。
「進もう。ここは壊していく。綾音、上からいける?」
「OK。任せて」
シュナの町をやったように、上から綾音に破壊してもらう。エドに運ばれて綾音が上空へ。俺もルルに持ってもらって飛ぶ。
「それじゃ、やるわよ」
綾音が狙いをつけ、力を使う。シュナの時は俺と同じように無造作に破壊したが――
「――うわ、ごっそりいった」
上からの破壊ではなく、下からくり抜いたみたいになった。整地したかのような長方形のくぼみが町に代わって現れる。
えげつねえ。俺よりよっぽどえげつねえ。こんなことができるもんなのか、時渡りは。
「このまま空から行くか。なんなら、襲うまでもなく上からやるか?」
「それはダメでしょ。緑の姫がいたらどうするのよ」
さっきの町も十分、いたらどうするの状態だったけどな。探す気あんのか俺ら?
「それに、最初からこれやったら面白くないでしょ。ねえ、エド?」
「まあな。何もしないのはつまらねえ」
だからなんでそこの二人は仲良くなってんだ。
「キース、先行して偵察してきてくれないか? 時渡りがいるかどうか」
「わかりました」
この状況で唯一身軽なキースに頼み、時渡りについて探る。このあたりにいるか、もしくは騒ぎの報告を聞いて差し向けてくるかもしれない。敵となるか、味方につけられるか……その前に、どんな人が出てくるかな。子供か、俺や綾音と同じくらいか、おっさんか老人か。年上なら戦うことになっても殺しやすいんだが、同い年以下だと辛いところだな。
「俺たちは降りようか。すぐ北に町がある。歩いて向かおう」
空を飛んでいては移動方向が人間にも見えてしまう。人間の目に映らない高度を飛ぶのは俺や綾音が無理だし、地上に下りるのも時間がかかってしまう。よって徒歩だ。
俺と綾音はそれぞれ地上に下ろしてもらい、北へ向かう。上空からすでに、次の目標となる町は見えていた。さっきの町から逃げた人間たちを追撃する形になるかな。一日に町を二つも襲うとは。一つ壊すのが早いからなあ。時渡りの力を使えば――
「ケント様」
「ん? 早いじゃないか、キース」
キースがもう戻ってきた。一人での行動とはいえ、ずいぶん早かったな。早いということは、報告することがあるんだな。もしかして、出たか。
「時渡りが現れました。こちらに向かっているようです」
やっぱり。こっちに、ってことは迎撃のための戦力か。攻撃されてからすぐに出せるあたり、備えはあるらしいな。
「ちなみに、数とかはわかるか?」
「いえ、そこまでは。大人数には思えませんが……」
人数まではわからないか。ここで終わらせるために大勢出てくる可能性もあるが……
「二人……だと思う」
別なところから答えが返ってきた。ルルだ。そういえば、ルルは魔力とかの感知能力が高いんだったな。時渡りの力についてもそれは同じか。
二人。ルルも自信を持っているわけじゃないが、要は数人ってことだろう。それならなんとかなりそうだ。しかし、そうだとしたら少ないな。俺を殺したいのなら手持ちの時渡りをすべて出してもいいくらいだろう。流れ弾で周りが壊れるのが嫌なのかな。
「方向は?」
「北の町から来ているようです」
俺が南を襲ったから出てきたのかな。なんにせよ、あっちから来てくれるのなら好都合。ご対面といこう。
「俺と綾音で相手をする。下がっててくれ」
時渡りの相手は時渡りにしかできない。いかに魔族とはいえ、ここにいると危険だ。
「なら、別の町をやるぜ。構わねえよな?」
エドはじっとしていられないらしい。血の気の多い奴だ。
「いいけど、気をつけろよ。たぶん、時渡りはまだいるぞ」
「フン。お前に言われるまでもねえ。行くぜ、キース」
エドはキースと二人で飛び去ってしまった。とりあえず、命は大事にしてくれ。
まあ、悪い提案ではない。人間は町を守るのにも戦力を割かないといけない。意外といい方法かも。一方がひきつけ一方が奇襲というのは基本だ。俺と綾音で敵の時渡りの注意をひいておこう。
「ルル。お前は下がってるんだぞ。手を出さなくていい」
「うん」
かわいそうだが、俺や綾音にとって邪魔になりかねない。それでなくとも、巻き込まれる危険がある。逃げておいてもらおう。
……さて、と。やりますか。




