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九章 組んでしまった破壊者 ー 3

 時渡りは倒れた。あっさりと。外傷は大丈夫そうだが……あんなのを胴体にくらって、人間の内臓って無事でいられるんだろうか。でも、やったのが綾音だからな。きっと、ちょうどいい具合に気絶だけする威力だったんだろう。不安を抱えるくらいなら、仲間を信じよう。


「さて。事情を聞かせてもらうぞ。おとなしくしていれば、お前たちには何もしない」


 こいつらもこの世界の人間である以上、殺す対象ではある。しかし所詮、子供だからな。放置したところですぐには何もできまい。情報を聞き出すためにも優しくしよう。人類抹殺以前に、大人げないからな。


「く、くそう、バケモノめ! くるなぁ!」


 そんな辛辣な。子供とはいえ……やっぱ殺す?


「やめなさいよ。怖がってるでしょ。……ねえ、みんな? 教えてほしいことがあるの。さっき言ってた、帰れないって……どういうこと?」


 しゃがんで視線の高さを合わせて話す綾音。言葉も、一言一言丁寧に発音している。子供の相手に慣れてるな。


『…………』


 が、子供たちは何も言わない。揃って押し黙ってしまう。言えないことなのか。どうやらそこが重要らしいな。なんで帰れないのか。ここはなんなのか。これだけ騒ぎになっているのに、大人が現れない。というか、この子たち以外に誰もいないようだ。


「帰れない、ってことは、みんなには帰る場所があるのよね? どうして、化け物を倒さないと帰れないの? あの二人は誰?」


 それでも綾音は聞き出そうとする。少しずつ誘導するように質問していく。


「教えてくれるだけでいいの。それ以上は聞かないし、何もしないから。ね?」


 優しく言い、笑いかける綾音。その姿に安心したのか、それとももう黙ってはいられないと感じたのか。子供のうち一人、髪を頭の両側で小さく縛っている女の子が口を開いた。


「……あたしたちこの前、いきなりここに連れてこられたの」

「この前? 最近ってことか?」


 女の子がこくんとうなずく。周りにいるほかの子供たちは黙って俯いたり、居心地が悪そうに視線を逸らしたりしている。


「お城の兵士が、あたしたちのこと無理矢理馬車で……ここに下ろされて『食料はあるからここで暮らせ。化け物を退治したら帰らせてやる』って……」

『…………』


 綾音が俺に意見を求めるように目線を送ってきた。が、俺もわけがわからない。理屈はいいとして、そうする理由がわからん。


「あの二人は、化け物を退治するのに必要なんだって。誰かは知らない。全然しゃべってくれないから名前もわからないし」


 話せないのか。やはり、あの二人は普通の状態じゃない。人間がそう簡単にああはならないだろう。ってことは呪術か。


 俺や綾音では、この二人が呪術にかかっているかどうかはわからない。ルルたちならわかるかも。調べておきたいが、この子供たちの前に魔族を出したらパニックになることは必至。事はかなり深刻なようだし、軽率な行動は控えよう。


「……綾音。立ったままってのもなんだし、どこか入って話すといいんじゃないか。こっちの二人のことは、俺が見とくから」


 俺からの提案。綾音はすっと俺を見上げてから、立ち上がった。


「……何か、するつもり?」


 俺に体を寄せ、小声で言う。勘違いされるのもわかるが、今回ばかりは悪いことを企んでいるわけじゃない。


「ルルたちなら、この二人が呪術にかかってるかどうかわかるんじゃないかと思ってさ。呼んでこようかなって」

「なるほどね。わかった、そっちは任せるわ」


 同意がもらえた。組んでからというもの、意見が合うな。実は俺と綾音って似てるのかも。


「みんな、もう少し話を聞かせてほしいの。座って話しましょ。ここの建物、中には入れるよね?」

「う、うん……食べ物しかないけど……」


 食料しかないって、マジかよ。ってことは本当に、突貫工事の掘っ立て小屋拠点に時渡りを置いて、近い年齢の子供たちに見張らせて、俺を迎撃しようとしたってことか? ……そんなことあるか? 非道という意味でもそうだけど、策としても愚策すぎる。これの狙いはなんだ?


「じゃあみんな、行きましょ。健人、その二人のことお願いね」

「おう」


 俺に一言添え、綾音は子供たちを引き連れて去っていった。あれで全員なのかな。……八人か。時渡りを入れて十人。十人だけでここに?


 疑問だらけだな。ひとまずルルたちを呼んで、調べよう。望む結果になるといいんだが。



 最悪ルルだけでもと思っていたが、エドとキースも来てくれた。あまりに暇だから、と。


 で、気絶した二人を調べてもらったのだが。


「二人とも、呪術に侵されていますね」

「だな」


 最初にキースが言い、エドもうなずいた。やっぱりか。


「ルル、どう?」

「間違いない」


 そうか。三人ともがそう言うなら、確定だな。まあそうだろうとは思ったよ。明らかに様子がおかしかったし。


「呪術を解く方法は?」

「術者が解くか、誰かが解呪するしかありませんね。いずれの場合も、対象を落ち着かせ、接近しなければできません」


 要は一マス射程で回復魔法をかけるようなものか。遠距離では解呪できず、絆創膏のようにぺたんと処置できるものではないと。


「魔族で誰か、解呪できる奴は?」

「いませんね。呪術もその解除も、人間だけの技術です」


 魔族に呪術の文化はないか。ということは今、この二人を解呪することは不可能。


 しまったな……子供、というのを見落としていた。時渡りといえど子供なら、騙すなり閉じ込めるなりで呪術を使える状態にすることは比較的簡単か。力のことを理解する前に保護できれば、小学生程度なら騙せそうだ。


 幼い時渡りか……自分と同じ年齢やその上ばかり意識していて、盲点だった。めんどくせえことをしやがるな、この世界の人間は。


 気を失っている二人の子供に目を向ける。この二人も偶然、日本から召喚されたんだな。そして利用され、呪術で操られた。胸糞の悪い話だ。


 呪術、解呪……か。解呪できる味方が欲しいな。でも、この世界じゃ人間は俺たちに味方してくれない。その中でも、呪術や解呪に明るい人間となると……そこいらの村人じゃ無理だろう。大きな町にならいるんだろうけど、化け物である俺と綾音がそういう人を仲間にするのは難易度が高い。


 望みは薄いか……一人くらいどうにかして確保できないだろうか。俺の目的が目的だからなあ……時渡りでもないと、まず手を貸してくれない。どこかにいないかな。人類抹殺に快く手を貸してくれる呪術マスター。


 この二人はどうするか。呪術が解けないんじゃ、いずれ目を覚ましてまた攻撃してくる。殺すのは簡単だが、二人とも時渡り。俺や綾音と同じ境遇だ。この世界の人間のようにぽろっと殺ることはできない。だが、確実な脅威となる。甘い対応ではこっちが死ぬ。不意打ちとか洒落にならん。


(………)


 ……いや、やっぱり駄目だ。考えるんだ。何か手はあるはず。


 この二人は呪術を受けている。ポイントは誰が考えたってそこだ。それがどうしようもないから困ってる。


 問題なのは、解呪できないこと。ここで発想を逆転させよう。呪術をかけられているからこそ、可能な対処法はないか?


「……呪術で操られると、思考能力はなくなるのかな?」


 完全にゼロとなるのか、ちょっとは本人の意志が残るのか。それによって少し変わってくる。命令のみで本人の思考がすべて乗っ取られるなら、手はある。


「おそらく、そうだと思われます。人間の使う呪術は発動に手間がかかりますが、効力は確かなものです」


 キースは冷静というか、客観的だな。こっちとしては話がしやすい。


「こいつらが受けた命令はここを拠点とし、時渡りである俺を殺すこと。綾音も攻撃対象に入っているかはわからん。ということはここを放置すれば、命令が果たされることはない。少なくとも生きていることはできるんじゃないか?」

「理屈ではそうですね。つまりケント様はここを見ぬふりをすると?」

「いや、まだ可能性の話だ。この二人を助ける場合はそれしかないなってこと」

「確かに、そうですね」


 元に戻す方法がないので、これしかない。俺らがここをスルーしたとして、人間があの双子をどうにかできるわけがないし……


「……あ」


 そこまで考えて、障害にぶつかった。駄目だ。時渡りがこの二人だけなはずがない。こんな捨て石戦法に、時渡りという貴重な戦力を割くはずがない。


 いるんだ、まだ。人間は時渡りを所持している。おそらく、結構な大人数。根拠はないが、十人程度はいるとみた。ここが使えないとわかれば、子供たちや時渡りの二人が殺されるかもしれない。それも後味が悪い。


 綾音が俺の仲間になったことは、人間はまだ知らないはず。二人置いておけば俺一人はやれるという判断かな。あるいは本当に捨て石で、子供だから使えないみたいな理由でこうしたか。


 いずれにせよ頭の悪い、そのくせこっちの腸を煮えさせる下劣な作戦だ。俺がもう少し人の心を失っていたら、気にせずここで全員殺しただろう。それができれば楽なんだがな。目の前で寝ている小さな時渡りを殺し、綾音と話しているあの子供たちも殺す。それができれば……


「……無理、だなあ」


 どうするかを綾音に伝えるため、俺はエドたち三人を戻らせ、掘っ立て小屋へと向かった。



 この掘っ立て小屋、本当にただの小屋だった。食料しか支給されていないという言葉通り、小屋の中に何もない。毛布だけはたくさんある。さすがに死なれると困るってか。変なところだけ気を遣いやがる。


 こんなところで暮らしてたのか、小学生くらいの子供だけで。とんでもねえな。これは、敵が時渡りだからこんなことしてるだけだよな? この国の大人が揃って畜生ってことはないよな? 今までの流れを見るに、畜生の可能性もありそうで嫌なんだが。


「綾音、そっちはどう?」


 声をかけると、綾音が振り向いた。八人の子供たちはみんなしゅんとしてしまっている。いい雰囲気には見えない。


「……だいたいは、さっきあんたも聞いた通りのことよ。ただただ、こんな子供たちによくそんなことさせるなって感想。この子たちはみんな、あんたを……時渡りを迎撃するためだけに、こんなことをさせられてる」


 まあ、そうだよな。深い意味は何もないんだ。あったとしても、この子たちには知らされていない。


「子供しかいないのは、油断させるためかな。大人は容赦なく消したからな俺」

「こら。子供の前で妙なことを言わないでよ」


 あ、そうか。つい。ともかく、事情についてはそれだ。普通の町だと俺は警戒するし、最悪町ごと消し飛ばす。だから子供だけを用意した。この異様な集落は……多分、本当に突貫工事なんだろう。アイオーン襲撃はそんな昔の話じゃない。この短い時間でなんとかして迎撃用の地を用意したんだ。捨て駒として。


「あのさ、綾音。今から俺の話が終わるまで、黙っててもらっていい?」

「は? なによそれ、喧嘩売ってる?」


 ちげーよ。こんな場面でそんなことするか。


「ちょっと、悪い企みを思いついてさ」

「…………」


 綾音が黙ってじっと俺の目を見る。これは、察したか。小さく息を吐いて瞑目し、どうぞとばかりに手で子供たちを差す。


 俺は子供たちの前に腰を下ろし、順番に八人の顔を見回してみた。俺がここに座ったことで、下を向いていた視線が俺に集まっている。


「よく聞け。俺はお前たちが言う通り、化け物だ。お前らが大人から退治しろって指示を受けた化け物は、俺のことだ」


 八人は静かに聞いている。素直でいい子じゃないか。綾音の接し方がよかったのか、相手の話を聞く姿勢になっている。


「だが、お前たちじゃ俺をやっつけることはできない。それどころか、俺はお前たちをやっつけようとしている。でもな、俺はそういうことはしたくないんだ。外で気を失ってるあの二人も含めて」


 本音は、時渡り以外は死んでもいいんだが。それは伏せよう大人として。本題とは関係ないしな。


「で、だ。みんなにちょっと聞きたい。化け物を退治できないまま帰ると、お前たちはどうなるんだ? 怒られるのか?」

「それはさっき、あたしが聞いたわ。親と無理矢理引き剥がされてるから、ただじゃすまないと思う」


 なるほど。いろんな意味でただではすまないな。なら、仕方ない。


「このままじゃ、お前たちは帰ることができない。かといって、化け物と戦っても死んでしまう。そこで、だ。お前たちに唯一、生きる道を与える」


 戦ったら詰み。逃げるのは無理ゲー。話し合いはできない。ならばどうするか。


「お前たちは俺たちと会ったことを忘れ、ここで暮らし続けるんだ。大人たちには『化け物は来ていない』とウソをつき続けろ。それなら、お前たちが生き延びて帰れる可能性がある」

「……どうして?」


 最初に事情を話してくれた女の子が疑問を口にする。


「お前たちは俺に出会ってしまった。本当なら、死んでるところだ。だが俺はそれをしないでここを出ていく。お前たちは、何も見なかった。誰にも会わなかった。俺は、ある事情を解決できなければここには戻ってこない。お前たちは化け物のことは知らんぷりで、ずっとここを守り続けるんだ。そうすれば俺が来ていないことになって、お前たちは無事でいられるかもしれない。あとはここで生活するという難関だけを乗り越えれば、生きていけるかもしれない」


 確証はない。が、こいつらが生き延びるにはこれしかない。今の状況では俺に殺されるか、任務失敗で人間に殺されるか、この生活に耐えきれず息絶えるかだ。だがここで生活を続けられれば退治任務は続き、人間から放置されるはず。俺たちがこいつらを守る気がない以上、方法があるとすればこれしかない。あと、そうすることで俺がここを訪れていないと人間は思い込む。別な進軍路を使って隙を突けるかもしれない。


「俺のことを大人たちに喋ってしまうと、お前たちは化け物退治に失敗したとみなされ、罰を受けることになるだろう。そうでなくとも、同じようなことをまたやらされる。今度はもっと厳しくされる。俺に会っていないことにすれば、これまで通りに暮らすことだけはできる。帰れないことに変わりはないなら、これが一番マシだ」


 どのみち死ぬか、現状よりも苦しくなる。俺にこいつらを救ってやる義理はない。今のところ、こいつらができるだけまともに生きるためにはそれしかない。


「最終的にどうするかはお前ら次第だ。正直に、化け物を取り逃がしたと大人に言うのもいいだろう。それが正しい。だが世の中、正しいことだけじゃ生きていけない」


 何が正しくて何が間違っているか。それを決めるのは自分自身だ。一般的に正しければいいというものではない。


「長話して悪かったな。俺たちはこれで出ていく。頑張って生きろよ」


 頑張れってのも変な話だな。だがほかに言いようがない。この子供たち全員、俺と関わりがないわけだから。


「話してくれて、ありがとね。またね」


 綾音は八人に手を振りつつ、俺に続いて小屋を出た。八人のうち数人は立ち上がったが結局俺たちを追いかけることなく、ただ見送っていた。



「優しいじゃない。何もしない上に入れ知恵なんて」


 入れ知恵て。確かにその通りだけどさ。優しいかどうかは疑問だ。


「そうでもないだろ。俺はあいつらを利用しただけだぞ。呪術さえどうにかできていれば、あいつらは殺してた。あの状況であいつらを殺すと、時渡りの二人が回収されてしまう。呪術を解き、時渡り二人を仲間にするための指示だ」


 あの八人のガキのためにやったことじゃない。目当てはあの二人だけだ。時渡りさえ無事なら、あいつらはいつでも殺せる。


「そう。ま、どっちでもいいけどね。あんたが子供に優しいならそれでいいし、人類抹殺に熱心ならそれも間違ってない」


 その台詞が一番鬼畜な気がするんですがそれは。


「意外だな。お前はもっと、あの子供たちに肩入れするかと思ったが」

「……そうね。正直、複雑な気分よ。この世界の人間はクズだけど、あの子たちはそのクズに利用されてるだけの被害者なのに」


 そうだな。あいつらに罪はない。全体的に悪いからといって、個々人まで悪いわけじゃない。だからといって個々を助けるのは容易ではないが。


「でも、大丈夫。目的まで見失うつもりはないわ。あの子たちのことは心配だけど、計画のために必要ならなんだってする。もう、あんたと戦うつもりはない」


 嬉しいことを言ってくれるね。俺も、綾音を敵に回したくない。


「そうか。ま、悩んだり考えたりするのは自由さ。生活に支障のない程度に悩めばいいんじゃないか」

「そうするわ」


 考え方がだいぶ乱暴になったが、平静を失ったわけではないか。よかった。「殺しちゃえばいいのに」とか言い出さなくて。


「許されざるは、あいつらにあんなことをさせた連中……かな」

「そうね。ひとまずはそっちの始末を考えましょ」


 始末、ね。言い得て妙だな。あの子供たちのことは、悪い大人を成敗してから考えるとしよう。


「待たせたな、三人とも」


 こっちも長く待たせてしまった。ルルが俺に駆け寄ってくる。


 ルルは当然として、エドとキースもおとなしく待っていたようだ。大丈夫だったのかな。ルルはこの二人と会話が成り立たないのに。ひたすら沈黙だったんだろうか。


「エド。ここ以外に、時渡りはいるのか?」

「近くにはないな。この先はまだ調べてねえ」


 ここから西は、かなり王都に近くなる。大きな町が並んでいて、本格的に人間の領域って感じに。この場所は時渡りが暴れても安全だが、これより進むとそうもいかない。人間の警戒も強くなる。今回のように敵が時渡りを使ってくることも考えられる。あ、そうだ。その話をしないとな。


「一つ聞いてくれ。人間は、こんな場所に時渡りを二人も置いた。それも、完全に捨て石だ。つまり、時渡りを二人捨ててもいいくらいの戦力が敵にはある。敵となる時渡りはあの二人を除いてもまだ複数人いる」


 推測だが、おそらく間違いない。数が少ないのならこんな使い方はしないはず。


「それと、時渡りが呪術で操られるということもはっきりした。魔王の城付近以外で時渡りの召喚が行われていることもわかった。人間には、俺や綾音に対抗する力がある」


 呪術によって操られた時渡りが敵にいる。人間は時渡りを飼っている。どの程度まで人間が指示できるのかはわからないが。あの二人にやった程度の術しかないのなら、解呪も希望が持てる。そもそも解呪してくれる仲間がいないんだが。それが一番の難関か。


「で、この後なんだが。少し、道を変える」


 地図を広げる。綾音に端っこを持ってもらい、全員がちゃんと見えるようにする。


「西に直進すれば早いが、南に回る。王都から見て南東の方角にある町から襲撃する」


 直に王都を目指すのではなく、人間の町を順に侵攻する。正面から突っ込むと囲まれるし、南のほうから消していこう。急がば回れだ。これには、この集落に訪れたことを悟られないようにする意図もある。全然違う場所に攻め入れば、あの子供たちが嘘をついてもバレずに済むかもしれない。化け物は最初からこんな場所には来ていない、ってな。


「別にそれは構わねえが、なんでそんなまわりくどいことをするんだ?」


 エドの質問はいたって真っ当なもの。普通なら、王都まで一直線で行けばいい。最初はその予定だったわけだしな。


「今言ったように、敵に時渡りが大勢いる可能性が出てきた。正面から王都を攻めると、その大勢いる時渡りを一度に相手しなきゃいけない。それを避けるためだ」


 王都とその周辺に配置されていたりしたら囲まれてしまう。それはめんどくさい。


「もっとも、みんな王都に固まってたら同じことだけどな。まあ、やれることはやっていこう」


 対策は念入りにしておく。戦いは臆病なくらいでちょうどいい。死なないためにはな。


「さすがに何十人といたら、あたしと健人じゃ厳しいわ。まずは人間を追い詰めることね」


 人間は追い詰められるともろくなるもの。絶望を見せてやれば、慌てて切り札を出してくるだろう。問題はその切り札を、俺と綾音がガチンコ勝負で倒さないといけないってことか。


 さっきの二人、俺と綾音には及ばなかったが力そのものはかなりのレベルだった。呪術ではなく本人の意志があれば、もっと強かったはずだ。時渡りはこの世界に召喚されると身体能力も上がるしな。残念ながら脳みそはそのままのようだが。


「人間は俺の接近に気づいている。警戒している。どういった対策をしているのかをまずは見てみようじゃないか」


 過去三百年でおそらく前代未聞、人間の生命を直接脅かしてくる時渡り。それが二人もいると知った人間の驚きや焦りはいかほどのものか。楽しみだな。

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