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九章 組んでしまった破壊者 ー 2

 抱えられて飛ぶこと……飛ぶこと、どのくらい経ったかわからない。俺の飛行距離の過去最長記録を間違いなく更新し、俺はその地に立った。


「……町、か?」


 茂みから様子をうかがう。町と呼ぶにはなんとも小さい。集落? 建物もほかに比べて簡素だし、ただ人が集まっているだけの場に見えるが。そういえば、エドはゼーレの西としか言っていなかったな。町とは決まっていない。


 外から見る限りこの町、人がとても少ない。歩いている人間がそもそもいないんだ。なんだここは? ここに、時渡りがいるのか? これが、俺に対する防衛線のつもりなのか……?


 いや、そうとは限らないか。たまたまここに時渡りを置いているだけという可能性もある。何もない町だから、化け物を置いても問題ないみたいな? 人間が時渡りを囲っていると仮定しても、最終防衛ラインは間違いなく王都の入り口だ。ここは使い捨ての様子見拠点なのかも。


「エド。本当に、ここに時渡りがいるの?」

「疑うんならそこのチビにでも聞いてみたらどうだ?」

「え? ……こら、ルルのことをチビとか言わないの。同じ上級魔族でしょ」

「あー、うるせえな……おい、キース! お前もこっち来いよ」


 チビってなんのことを言ってるのかと思ったら、ルルか。綾音がいい感じに間に入ってくれてる。そうか、ルルも力を感じ取れるのか。


「ルル、どうだ? 時渡りはいる?」

「うん。魔族じゃない力が、二つ」

「二つ? 二人いるってことか?」

「たぶん」


 エドよりも正確か。やっぱりルルのほうが感知能力が高い。射程距離はどのくらいあるんだろうか。必要以上に王都に近づかなくても把握できるか?


 まあそれはそれとして。今は目の前の町……村? 集落のことからだな。警戒しつつ、調べてみよう。


「俺と綾音で調べてくるよ。お前らはここで待っててくれ」


 魔族たちを待機させ、俺は綾音を連れて集落へ向かう。そこには、プレハブみたいなちんまりとした木造の建物が点々とあるだけ。物置や倉庫ならわかるが、ここに人間が住んでいるのか? でも、そのプレハブがいっぱいあるしな……住んでるのかやっぱり。


「なんか、妙なところね。ほかの町とは全然違う」


 綾音もこの異様な雰囲気を感じ取っているようだ。慎重にいったほうがよさそうか。


 歩いて少しずつ近づく。近くで見ても、やはり建物は小さい。170ちょいの俺の身長でも物足りないくらいの高さ。やっぱりただの倉庫だろあれ。住居じゃねえよ。


 しかし、近づくことで変わるというか、わかることがあった。遠くからじゃわからなかったが、人の声がする。子供だ。子供が何か話している。楽しげにはしゃぎまわっているようではなさそうだが。いい天気なんだけどな今日は。


「子供なら、話も聞けそうだな」

「行ってみましょう」


 よし、行こう。第一印象で判断するのはよくない。案外不自由なくプレハブ暮らししてるのかもしれないしな。


 とは言ったものの。期待しているようなことは起こらなさそうだ。近づけば近づくほどに、異様な雰囲気がより色濃くなっていく。この町、プレハブ以外に人の手が入っている様子がない。地面は雑草が伸び放題で、畑と思われるものは一つもない。木も無造作に突っ立っていて、レイアウトとか考えられて作られた空間とはとても思えない。本当にただ、倉庫みたいなものを置いただけ。建物自体はさほど古いものではないようだけど……


 それと、やはり人の気配がしない。子供の声はするが、本当にそれだけ。なんだここ?


「健人、あそこ。子供がいるわ」


 綾音が指さした方向を見る。小学校低学年くらいの子供が四人、集まってしゃがんでいる。やけに静かだが……バッタかカマキリでも見つけたのだろうか。


「なあ、君ら。ちょっといいかな?」


 まずは軽く声がけ。地域の子供を守るために大事なことだな。


 俺としては、怖がらせないよう友好的にしたつもりだった。そして、客観的に見てもおかしなところはなかったはずだ。俺自身がおかしい……ってやかましいわ。とにかく、対応に不備はなかった。なかったんだ。隣に綾音だっていたんだ。


 が、しかし。俺の顔を見るなり、子供たちは逃げてしまった。ひどく怯えていたように見えた。怯える以前になんだか、表情というか瞳に覇気がなかった。


「……なんだったんだ?」

「さあ……? も、もう少し探ってみましょ」

「そうだな……」


 綾音も困惑している。俺だけじゃなかったんだ。俺は間違っていない。俺は悪くねえ。

 冗談はここまでにして。さっきの様子は明らかにおかしい。ここで何が起こっている? まさかとは思うが、時渡りに何か原因があるのか……?


「綾音。とりあえず時渡りを探そ――」


 綾音にそれを提案しようとしたら、それの気配を肌に感じた。綾音のものとは違う、身の毛がよだつような黒い気配。


「綾音!」

「わかってる!」


 攻撃される方向ははっきりとわかる。その方向を防御する。時渡りの力はこれだけなら比較的簡単にできる。攻撃する時と違って、防御は全力でやればいいしな。そもそも、自分のタイミングとは違うとっさのことだから制御してる暇もない。


 綾音と一緒に力を使い、攻撃を防ぎ切った。周囲の木々が衝撃に揺れる。使用者本人の意思とは違う、ぶつかって弾けた力は衝撃としての効果を持っているのか。


 言うまでもないが、敵の時渡りの攻撃だ。エドが見つけた奴だな。ルルは二人いると教えてくれた。いきなり攻撃してくるとは、ご挨拶だな。それに、今のタイミング。ひょっとしてさっきの子供たちが知らせたのか?


「警戒しろよ」

「わかってるってば」


 綾音と背中合わせになり、周囲を警戒。次の攻撃はまだない。


 時渡りが感じられるのは、能力を使う時の力の流れみたいなもの。時渡り本人のことを感じる能力はない。それができたら綾音を見つけるのにあんな苦労してない。でも、魔族は時渡りの気配そのものを感じられるんだよな。理屈は知らんが、妙な仕様だ。


 そんなもんだから、敵の位置まではわからない。ただ、攻撃された方向はわかっている。時渡りの力、その攻撃は直線的だから、だいたい攻撃された方向にいることは間違いない。


 どうする。撃ち返すか? でも周りを巻き込むことになるし、時渡りとコンタクトが取れないのも困る。せめて一声くらいはかけたい。敵対するとしてもだ。


「……何もしてこないな。綾音、進むぞ」

「了解」


 現代日本では目上の人に了解は失礼だとかいう妙な噂が流れているが、よいこは気にしないように。そんな規則はない。逆に、バカ発見器として使おう。俺と綾音は対等だから、関係ない話だが。


 では参ろうか。相手がどういう意図でいるのかはわからんが、攻撃してきた以上は敵対状態のはず。ならばこっちも、殲滅だって辞さない構え。この謎の集落を残しておく理由もないしな。


 周囲を常に見ながら一歩、また一歩と足を進める。まんま、ゲームで敵を探す時の動きだ。クリアリング大事。緊張感は比べ物にならないけどな。ゲームは死んでもリスタートかリトライだが、これは現実だ。死んだらデッド。リスポーンはない。


「綾音。FPSのお手並みは?」

「嗜む程度」

「ハマったFPSは?」

「〇ールデン〇イ」

「エクセレントだ」


 素晴らしい。やはりこの女、只者じゃない。俺とまったく同じ時代を生きている。なんか急に、負ける気がしなくなった。


 さて、敵はどこだ。なんで攻撃してこない? 防がれたから警戒してるのかな。あるいは逃げたとか。まだ近くに子供がいるなら、軽々に攻撃はできないか。


 ……待てよ? そういえばそうだよな。子供……一般人がいるのに時渡りの力を使ったら、巻き込んでしまう。さっき撃ってきたけど、大丈夫だったのか? あの短時間で避難が完了したとは思えない。


「健人、あれ……」

「ああ」


 子供だ。さっき集まってたのとは違う子。でも、年齢は同じ程度。小学生くらいだ。


 男女二人。二人とも、白い髪だ。色がすべて抜けてしまったかのような真っ白。綾音は時渡りとして召喚されて、黒髪から茶髪になったという。あの二人もそうなのだろうか。白くなったのか? その色もあってか、雰囲気が奇妙だ。さっきの子たちに輪をかけて表情が暗く、目はもはや覇気どころか生気が感じられない。でもこの二人、よく似てるな。双子だろうか。


 こんな小さな子に、何があったんだ。社畜でもこんな目するかどうか。とりあえず声をかけてみよう。事情があるはずだ。……話、聞いてくれるかな。えっと……


「おい! 何やってんだ、早くやっつけろよ!」


 おや。やんちゃそうな坊主の声が。子供によくある、声を抑えているつもりっぽいのに全部聞こえてくるアレ。わざとなのか素なのかわからないアレ。


 やっつけろとは、穏やかじゃないな。子供の言うことなら本来は微笑ましいものだが、今はガチで命がかかっている。無視はできないな。


「おーい。やっつけろ、ってなんだ? この子たちは誰なんだ?」


 落ち着いて、優しく話しかける。町中で道を尋ねるお兄さんの気持ちで。


「う、うるさい! あっちいけ、バケモノ!」

『…………』


 綾音と顔を見合わせてしまった。いつものことだが、こんな子供の口からもその台詞が出てくるとは。悲しいなあ。


「落ち着くんだ。俺は化け物かもしれないが、お前たちをどうにかするつもりはないぞ」


 今は、な。情報を聞いたらどうなるかわからんが。人類抹殺は子供も例外ではない。ただ、ここには時渡りがいる。即全滅は理想的とは言えない。


「うるさいうるさい! ……おいって! 早くやれよ!」

「目の前にいるだろ、ほらっ!」

「早く! バケモノを倒さないとあたしたち、帰れないんだからっ!」


 物陰から子供たちが口々に言う。白髪の二人に、俺ら化け物をやっつけろと命令しているようだ。


 それと、聞き捨てならない言葉も聞こえてきたな。帰れないって、なんのことだ。


「ねえ、キミたち。化け物を倒さないと帰れないって、どういうこと?」


 綾音も同じことを思ったか。まあ当然だよな。さて、回答は?


「わ、わたしたち……」

「おい! 言うなよ!」


 どうやら、何か隠していることがあるらしい。まあ、正常な事態じゃないことは見ればわかる。ひとまずあの時渡り二人をどうにかしないことには、話が進まないか。それが一番難しいんだけど。


 さあどうする。口もまともにきけそうにない。あの二人だけを正確に殺すには……綾音ならできそう。しかし殺していいものか。目を覚まさせることはできるのだろうか。呪術って可能性もあるし……ルルたちなら、呪術かどうかわかるかな。連れてくればよかったか?


 とにかく。幼いのに白髪の二人も、どう見たって日本人。時渡りだ。ならば、俺の計画の対象には入っていない。


「綾音。あの二人をどうにかしよう。いけるか?」

「やれるだけやるわよ。でも、後ろのコたちは大丈夫かしら……」


 そうなんだよな。巻き込みそうだ。下がれと言っても近くには残るだろうし、逃げたところで子供の足。流れ弾に当たる可能性はある。むしろ逆に、この空間であの二人を倒すことを考えるべきだな。


 時渡りの力は、狙いさえ正確なら余計な破壊はしない。問題はさっきみたいに攻撃を防いだ時、どんな二次災害が起こるか。さっきは木が揺れた程度で済んだが、倒すために本気で戦えばどうなるかわからない。じゃあどうすんのって話だが……


「――ん」


 まずいな。ゆっくり考えてる暇はなさそうだ。


 時渡りの二人が、動いた。攻撃する気だな。相変わらず感情や生気のない動きだが、力の流れでわかる。ゆっくりと、大型の乗り物がエンジンをかけるかのように力をためている。ゆっくりなのは、本人の意識が薄いのが原因か? 気持ちの問題っていうリアの読みを辿るなら、それもありえる……って、のんきしてる場合じゃねえな。どうする。


「……健人。正面だけ、防いでくれる?」

「正面? ……もしかして、周りを囲うつもりか?」

「わかってるじゃない。その通りよ」


 なるほどね。俺が攻撃を直接防ぎ、綾音はその攻防の周囲を壁みたいに囲って、周りの被害を出さないようにすると。


「じゃあ、それで」

「任せたわよ」


 ちょうど攻撃が開始される。作戦会議は間に合ったようだな。


「――ふっ!」

「はあっ!」


 それぞれ気合のかけ声。俺が攻撃を防ぎ、綾音は壁を作る。


 結果。破壊は足元の雑草だけでおさまった。狙いの通りか。さすがは綾音。力の調整が完璧だ。


「……よし」


 攻撃は防げた。素晴らしいプランだった。しかし、感心してばかりはいられない。目の前の時渡り二人。あれをどうにかしないと。


「綾音、加減できる? あの二人」

「……やってみるわ。あんたに任せるわけにはいかないし」


 きっついな。その通りなんだけど。力を細かく制御できる綾音がやったほうがいい。『馬鹿力』な俺だと、やりすぎる危険性が高いからな。


「おいっ! 効いてないぞ! もっと攻撃しろよ!」


 指示が飛ぶ。が、時渡りは動かない。機械みたいだな。一定の時間を空けて攻撃するのか? 引き金になってるのはいったいなんだ? わからないが、これならいけそうだ。


「……ごめんね。キミたちを傷つけるつもりはなかったんだけど」


 相手は二人。棒立ちのそれに綾音は接近し、右手と左手をそれぞれにかざす。


「しばらく、眠ってて」


 優しくも確かな敵意をもって放たれた力が、小さな体をしたたかに打ち据えた。

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