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八章 決めてしまった運命 ー 4

 リアの料理を待つ間、綾音と二人で話す。聞きたいことはいくらでもある。順序よくいこう。


「綾音はどういう経緯でこの世界に来たんだ?」

「どうもこうも、学校終わって帰ろうとしたら急に意識が飛んだのよ。せっかく放課後に友達と遊ぶ約束してたのに……」


 それはお気の毒だな。楽しい高校生活が今は異世界生活か。今はそれも楽しそうに見えるが。


「その意識が飛ぶ時、どんな感じだった?」

「なんか、やけに強い光に照らされてたわ」


 俺と同じか。ということは、それが召喚の前兆なのか。ずいぶんとわかりやすいというか、日本人のイメージ通りの現象だな。


「異世界に召喚される理由に心当たりは?」

「あるわけないでしょ。逆に健人にはあるの?」


 あるわけない。それが当然の反応かな。しかし、俺はないわけじゃない。


「俺はまあ、人生つまんねーなって思ってたところに召喚されたよ」


 俺の中の負の感情がそれを招いたとかいうファンタジックな理論。もしかしたらこれが共通なのかと思ったが、綾音の反応を見るに違うっぽい。


「ここに来る前から変人だったのね……残念ながら、あたしにそんな気持ちはまったくなかったわ」


 ないか。いい線いってるんじゃないかと思ったが、儚い希望だった。召喚対象に法則性とかあったら、時渡りを説得する時に役に立ちそうなんだけど。


「だから、こんなところに飛ばされた時は絶望したわ。魔王を倒すなんて、とてもそんな気にはなれなかった」


 それで逃げ出したんだな。何も考える余裕がなかったんだろう。ただ逃げる、それしかなかった。誰も助けてはくれないしな。普通はそうなるんだ。


「じゃあ、こっちに召喚された時、誰かと会ったか?」

「ええ。魔法使いみたいなカッコしたおじいさんと、眼帯をつけたおじさん」


 魔法使いの老人。眼帯のおっさん。それって……


「あいつらか」

「知ってるの?」

「多分、俺が会ったのもその二人だ」


 名前までは知らない。今となっては知る必要もないが。まずあいつらが今も生きているか怪しい。召喚に使っていた建物は跡形もない。あの場所で生活してはいないだろうけど、アイオーンも同じく消し炭。死んでるだろうな常識的に考えて。


「召喚担当の人だったのかしらね」

「かもな」

「ずいぶん辺境にお勤めだったのね」

「リストラ目的だったのかもよ」


 それにしては、眼帯のほうは立派な服を着ていたが。片目がなくて戦でも役に立てなくなったとかそんな感じかな。まあ、あんな場所の駐在だ。死んでもいい人間ってことだろうな。あの二人が望んでやっていたのかは知らんが。


「その後に逃げて、あの拠点にか」

「いろいろと苦労はあったけどね。あの場所に落ち着くまでは、特にイベント的なものは起こってないわ」


 落ち着くまで何もなかったのは幸運だったな。絶望したまま人間に迫害されることがなかった、というのは。逃げ出し、右も左もわからずさまよい、やっとのことで人間のいる町にたどり着いたと思ったら人間から迫害される。そうなったら、まあ立ち直れないよな。その人間から、魔王を倒しに行けって言われてるのに。実際そうして潰れた時渡りも多くいただろう。


「時渡りのこととか、人間に迫害されるって話はいつ知ったんだ?」

「人間に見張られているのは気づいてた。詳しい話を聞いたのは……」

「ああ、うん。わかった」


 綾音が言葉に詰まって俯いたことで察した。あの人たちだな。ということは、知ったのはかなり遅い段階か。本当に一人でじっと暮らしていたんだな。


「緑の髪のお姫様を見たのは?」

「えーっと……いつだったかな……覚えてないわ。覚えてるのは木の陰からあたしを見てたことと、何も言わずに走り去ったことだけ」


 接触は一度もしていないってことか。逆になんで俺には声をかけてきたんだろうか。たまたまそこにいたから?


「その人って、本当にお姫様なの?」

「わからない。サタンによると、王国の姫が緑の髪らしい」

「……それだけ?」

「それだけ。でも、十分だと思わないか?」

「気持ちはわからないでもないけど……」


 神出鬼没の、どこか高貴な雰囲気が漂う人物。王国の姫と同じ髪色。素性と目的が不明。これほど条件が整うことはそうそうない。


「まあ、怪しいというか、何か知っていそうなのは間違いないわね」

「だろ?」


 姫様かどうかはさておいても、行動がただの一般人でないことは間違いない。何かある。これで何もなかったら一発ぶっ飛ばしていいくらいに怪しい。彼女を捕まえて問い詰めることは決して無意味じゃない。それどころか現状で一番有意義な行動と言える。


「姫だとしても、そうじゃないとしても。どういう目的で動いているのかわからない。それははっきりしてる」

「そうね……」


 それ以外の人間とあまりにも態度が違いすぎる。俺も一言二言会話したけど、いたって普通の人だった。ほかの人間のようにいきなり化け物呼ばわりや石を投げてきたりはしなかった。話は通じるはずだ。


「じゃあ、当面の目標はそれ?」

「目標は、人間の住処を攻め落とすこと。お姫様にも是非、お会いしたいけどな」


 最悪、姫のことはわからなくても構わない。構わないが、知りたい。まともな人間は貴重だ。


「緑の髪のお姫様っぽい人、ねえ……」


 綾音が口元を手で覆い、何か真剣に考えている。最初の態度の豹変でどうなることかと心配したが、ちゃんと考えてくれている。やっぱり根はいい奴なんだな。


「呼びにくいわね」


 いったい何に真剣になっていたのか。


「その人に、特徴的でかっこいい呼び名をつけましょう。何かない?」

「お前は何を言っているんだ」


 感心した俺が馬鹿だった。真剣にふざけてやがるこいつ。


「名前は重要よ?『緑の髪のお姫様っぽい人』なんて、ただ見た目を言葉にしただけじゃない。『おかっぱ頭のメガネ』みたいなものよ。聞こえが悪いし、何より失礼だわ」


 例えに悪意を感じないでもない。それはそうかもしれないが、だからといって名付けろと言われても。


「ちょっと威厳のある呼び名を付けるだけで、事の重要さは変わってくるのよ。呼ばれる側の尊厳だけじゃなく、呼ぶ側も身が引き締まる」


 それも正論ではあるが……なんだこいつ。馬鹿だけど頭いいな。


 呼び名、呼び名……確かに、緑の髪のお姫様じゃ聞こえが悪い。何がいいかな。ゲームとか中二病なネーミングでいくと……


「そうだなあ……『緑の姫』とかどう?」

「いいわね。採用」


 採用された。あっさりと。名付けについて熱弁していた割に、名前そのものにはこだわらないのか。まあ俺も語呂がいいなと自分で思ってるけど。


「以降、その人は緑の姫と呼ぶわ。緑の姫との接触も目標の一つにする。いいわね?」

「まあ……うん。そうだね」


 漫画みたいな喋り方しやがって。緑の姫言いたいだけじゃないのか。こういうやり取りがしたかっただけじゃないのか。本当に真剣に考えてるのか?


「楽しそうなお話ですね」


 ここでリアがやってきた。さっきからいい香りがすると思っていたが、そろそろごはんが出来上がるかな。


「今の、聞いてた?」

「ええ。緑の姫、いいと思います」


 まさかリアも同じセンスか。名付けた俺が言えたことじゃないけど。緑の姫、いいのか。


「わかってるじゃない。魔族は感性も人間と似てるのね」

「…………」


 綾音がご機嫌でコメントしたが、リアは一瞬言葉に詰まってしまった。


 感性が人間と似ている。それはリアが魔族ってだけじゃなく、元が人間だからだろうな。もちろん綾音がそれに気づいたわけはないが、リアは無意識にその言葉に反応してしまうのだろう。最終的には望んでなったこととはいえ、悲惨な過去があったからな。


 しかし、綾音はもはや俺たちの同胞。いつまでも黙っておくことはできないかもな。


「リア、何か情報は手に入ってないか?」


 だが今はそのことを話す時じゃない。助け舟を出そう。


「申し訳ありません、中級魔族も使って偵察しましたが、時渡りや緑の姫の手がかりは何も」

「そうか」


 そう簡単にはいかないか。時渡りが生き残っていて、なおかつ見つけられるというのが非常にレアケースだった。十人も二十人も都合よく見つかるわけがない。この世界は広い。


「偵察? 魔族って、そういうこともできるの?」


 綾音の疑問が、最初にここに来た時の俺と同じだ。もう一度説明する必要があるか……仕方ない。


「そのへんのことは、今度俺が教えてやる。なんとなくで理解してくれ」


 リアやサタンに何度も説明させるのも悪いしな。簡単なことは俺が伝えてもいいだろう。


「ありがと。ま、言葉が通じるだけでかなり楽よね」


 そうだな。単語の意味がわかればなんとなく伝わるから。知らない言語で化け物とか言われても多分理解できない。その点この世界は大変わかりやすくてよろしい。世界中の人間から化け物呼ばわりされる。町や村を消すには十分すぎる条件だ。


「リアもサタンも、話のわかる人で助かるわ。ちゃんと話ができるか不安だったんだけど」


 あんだけノリノリだった奴がどの口で不安とか言うのか。話がわかるってのはその通りだが。


「私も、アヤネ様とお話しするのは楽しいです」


 楽しそうに笑いあう二人。華やかなもんだな。綾音も魔族と打ち解けられてよかった。といってもルルとはまだ微妙な仲だし、エドやキースとの絡みは未知数。手放しで喜ぶことはできないか。ルルは俺がなんとかできるだろうが、あいつらは……仲良くとまではいかなくても、業務に支障のない範囲でコミュニケーションを取りたいものだ。


「ねえ、すっごくいい匂いがするんだけど。何作ってるの?」

「ルルに頼んで、鳥を捕ってきてもらいました。もう少ししたらお持ちしますね」


 リアはそう言って、調理場に戻っていった。土鍋で鳥のスープを作るんだな。あの鍋も窯で焼いて作ったのだろうか。万能だな窯。


「いいわねえ。ここに住みたいわあたし。健人は住んでたのよね。いいなあ」

「住んでたっつっても数日だがな」


 すぐに冒険の旅に出たから。ろくにレベル上げもせずに。伝説の勇者もびっくりの行動力。


「十分でしょ。日本に帰れなかったらここに住もうかしら」

「帰るつもりあるのか」

「そりゃあ方法があれば帰るでしょ。逆にあんたは帰らないの?」


 日本に帰る。それが普通。誰だって、元の自分の世界に帰りたいと願うもの。ましてこんな理不尽に呼び出され同族から化け物扱いされる世界なんて、誰が長居したいと思うものか。


 綾音の言うことが正しい。帰る方法があるなら、帰るのが一番いいはずだ。


「……どうだろうな。俺はここで暮らすかも」


 魔族になればいい、とルルは言った。そうすれば、この楽しい時間が何百年と続く。日本に帰れば、残りは六十年程度だが発展した技術の中で暮らせる。どっちがいいとは言い切れないか。


「へえぇ。ま、それもいいんじゃない? 本物の自給自足ってのも楽しそうね」


 魔族になればそれすらも必要なくなる。ただのんびりと、ルルやリアと過ごす日々。その時こそ、この世界を冒険してみるのもいいかもしれない。魔族だけの平和な世界。気楽なもんだ。俺の老後よりも気楽。


《ケントも、魔族になればいい》


 ルルの言葉が頭の中で蘇る。日本に帰れないのならそれが最善だ。


 じゃあ、帰れることになったらどうする? 帰れるのが一人だけなら、俺は綾音を帰すだろう。しかしリスクなく、俺も綾音も帰れるとなったら?


(…………)


 今は答えが出ないか。気持ちがだいぶこの世界寄り、魔族寄りにはなっている。だがそれでも、日本に帰りたい気持ちがないわけじゃない。人類抹殺の目的は果たすが、問題はその後か。


「ま、いいか」

「何が?」

「後のことは後で考えればいいかなって」

「そうね」


 目的は確定している。帰るかどうかはその時になったら考えよう。今必死に悩んだところで、いい答えが出るとも限らない。


 悩んで選ぶより、すすんで決めたほうがいい。異世界に限らず、いろんなものに当てはまることだな。

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