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八章 決めてしまった運命 ー 3

 サタンを呼ぶため、リアが部屋を出ていった。再び俺たち三人だけになった。今までと違うところは、暖かいお茶でのんびりできているところか。


 ここ数日は特に、心が休まることがなかった。クラムの町からゼーレの町、綾音と一旦は決別し、森に戻ったらあの有様。決別は取り消されることとなったが綾音が打ち解けすぎて、違う意味で疲れた。


 その綾音は今、紅茶の味を堪能している。地球にあった紅茶のような味ではないが、この若干苦い味も癖になる。薬っぽくて体によさそう。


 綾音も気に入ったのか、おとなしく飲んでいる。実は鎮静の効果もあったりして。


「ねえ、健人」

「なんだ」


 綾音が話しかけてきた。口調はかなり落ち着いているように感じる。


「ここって、魔族しかいないの?」

「ああ。お前と俺以外はな」


 もっと言えば上級魔族しかいない。門番や外を飛んでいる魔族くらいしか見たことがない。城で暮らす意味がないんだろうな、下級魔族や中級魔族は。設備とか使えないし。


「いいわね、こんな広いお城。ここで暮らせたら最高ねえ」


 まあ、まともな建物だからな。そこらの人間の住居よりも立派だし。


「あんたの計画がうまくいけば、ここに住めるの?」

「できるだろうな」


 人間が一人残らずいなくなればどこにだって住める。生産や流通がなくなるから基本的にサバイバルにはなるが。


「ふうん……」


 綾音は興味ありげに部屋の中や窓の外を見回している。住む気か。俺はなんでも構わないが、魔族の信用を得ないとな。


「サタンってどんな人?」

「今から会うんだから、目で見て確かめろよ」

「いいじゃないちょっとぐらい。ものっすごい巨人かもしれないし」


 まあ、魔王だからな。あらゆる可能性がある。しかし残念ながら巨人ではない。巨人だったらこの部屋に入れないし。


「高身長ではあるな。でも、人間と大差ない背丈してるよ」

「イケメン?」

「まあそうかな」


 千年以上生きている魔王にイケメンってのもどうかと思うけどな。人間基準では確かに美形なんだが。


「それは楽しみね。ルルはかわいいし、リアーネは美人だし。エドと、キースだっけ? あの二人もかっこいい顔してたわよね。魔族は美形ばっかりかあ。いいなあ」


 綾音が一人で盛り上がっている。態度変わりすぎだろ。そんなこと思ってたのか。本当にルルと仲良くしたかったんだな。今は距離が近づいたのか、それとも逆に離れたのか。顔で言ったら綾音も相当レベル高いじゃないか。ファンタジー世界的にどうなのかは知らんが、日本だったらかなりかわいいだろ。


「あんまりフランクになりすぎるなよ。サタンは冗談のわかる奴ではあるけど、そんなノリは軽くないぞ」

「大丈夫だって」


 信用ならん。何を根拠に大丈夫と言うのか。以前の綾音ならともかく、今は危険な香りしかしない。


 俺がしっかりしないといけないな。俺が連れてきたんだし、責任は俺が負わなければ。……やれやれだ。


 前と比べて扱いやすくはなったが、接しにくくなった。極端だな。これは闇堕ちして狂ったからこうなったのか、よそよそしさがなくなって本性が出てるのかどっちだ。……確認してみるか。


「なあ、綾音。お前って元からそんな性格なのか?」

「え? 何が?」


 いや何がじゃなくて。


「最初に会った頃とキャラ違うくない?」

「そう? そんなつもりないんだけど……ほら、好感度によって喋り方が変わったりするじゃない? それと同じじゃないかしら」


 ゲームで例えるなよ。確かにギャルゲーではそうだけども。


 好感度が上がった。そういう解釈でいいのか? まあ、間違いなく俺とルルへの好感度は上がっている。一方的にだが。もちろん俺も、綾音が協力的になってくれて嬉しいが……ここまでとは予想外だ。時に衝突し切磋琢磨する仲間になると思いきや、俺と同じ気の狂った時渡りが一人増えただけだった。


「…………」


 ルルは呆れきった目で綾音を見ている。大丈夫かなこれ。エドとかキースみたいなことにならなきゃいいけど……先手を打っておくか。


「ルル、大丈夫だぞ。基本的にルルは俺に同行してもらうからな」

「うん」


 ルルが心を許すまでは、綾音とルルを二人きりにはできない。怖いから。


「健人は、魔王と仲いいのよね? あたしも仲良くできるかな~」


 どうだろうね。そこまで尖ったキャラでもないから大丈夫だとは思うが。そういえば、そろそろリアも戻ってくる頃かな。


「失礼致します」


 おっと、ジャストタイミング。


「お待たせしましたケント様、アヤネ様」


 リアが先に入ってくる。続いて、リアの手で開けられたドアからサタンが姿を見せた。


「ようサタン、久しぶり」

「フ……変わりないようだな」


 もちろん。人類抹殺なんて企ててるんだ、この程度で根を上げたりしない。


「サタン、紹介しよう。これ、新しい時渡りな」

「これって何よこれって。綾音、よ。よろしくねサタン様」


 普通の自己紹介。ちょっとなれなれしいが、これなら問題ない。


「リアーネから話は聞いた。本当に時渡りを味方につけるとはな。大したものだ」

「まあ、な……やりすぎた感もあるけど」


 成果としては上々だが、真面目キャラを悪魔にしてしまった。今は反省している。


「あんたはいつもやりすぎでしょうが」


 いやそういう意味じゃなくてね綾音ちゃん。問題なのは俺じゃなくて君なんです。


「俺のことはいいじゃないか。ここに戻ってきたのは……成り行きというか、深い意味はないんだけどさ。東に戻るルートを取ったから綾音の報告も兼ねて、一旦帰ろうと思ったわけだ」


 ゼーレの町で綾音との交渉に決着がついていれば。森が焼かれていなければ。ここに戻ってくることはなかった。おそらくあの後、計画が終了するまで城には戻らなかっただろう。何が起こるか、わからないもんだな。


「アヤネ、といったか。その者も、お前の協力者になるのか?」

「ああ」


 過程でいろいろあったが、どうやら完全にそのつもりになったらしい。裏切りとかの悪いことを考えているようには見えない。やろうとしてることは悪いことだけど。


「ケントは、サタン様の配下なんでしょ? あたしもそうなるってことよね?」

「俺の仲間だからな。そうなるだろ」


 軍とか言いつつ、意識したことがない。こんなのでいいのかとも思うが、サタンが規律に緩いというか魔王軍に規律がないので、やっぱいいや。


「ってわけだから。あたしのことも使ってくれていいわよ、サタン様」

「ケントは我が使っているわけではない。独自に動いている。アヤネ、お前も好きにすればよい」

「あら、そう? ありがとう」


 そう。作戦会議はみんなでやってるが、俺は自分で勝手にやってる。携帯電話で連絡とか取れないしな。手紙も届かない。伝書鳩……下級魔族を使えば、それくらいのことはできるかな。


「それと、我のことはサタンでよい。ケントもそう呼んでいる」

「寛大ね、魔族の王様は。じゃあそうさせてもらうわ、サタン」


 サタンは妙な上下関係を気にしない。名前なんて、互いに呼びやすいのが一番だ。あだ名、というのがあるようにな。


「さて、挨拶はこれくらいでいいか。今後のことを話そう」


 簡単だが、互いの自己紹介はこれくらいで。後で親睦会でもすればいい。本題に移ろう。


「予定は狂ったが、時渡りを仲間にするのは成功した。目的は変わらない。人類の抹殺だ。この後も、それを目指していくことになる」


 最初、目的は王都だった。人間の本拠地を潰すことが、人類の滅亡につながる。目的の変更はない。


「時渡りは見つけた。次はまっすぐに王都を目指そうと思う。まあ、ある意味予定通りかな。ところでサタン。俺がいない間、ここは何もなかったか?」


 俺がいなかった期間のことが気になる。短い間ではあるが、何事もなかっただろうか。


「人間からの攻撃や働きかけは何もなかった」


 何もなし、か。この城に一番近いアイオーンが一瞬で消し飛んだんだ。攻めるための拠点がなければ何もできないか。


「時渡りの召喚は、しばらくできないのかな?」


 では召喚はどうか。人間が魔族に対抗する最高の戦力。アイオーンの陥落で本当に召喚はできなくなったのだろうか。


「少なくともあの場所での召喚はできないだろう。だが、時渡りの召喚そのものが不可能とは言えん」


 それは、そうだな。召喚自体は難しくない。魔力が必要ってだけだ。手段を選ばなければ、召喚することはできるはず。


「ただ、お前がアヤネを取り込んだことがどう影響するかが気にかかる」

「影響? どういうことだ?」


 戦力的な意味でなら大幅に高まったが、サタンが言っていることはそんな規模の小さい話ではないだろう。どんな話かな。


「人間に反抗する時渡りが、もう一人の時渡りと手を結んだ。人間共はこの危機をどう対処するか。懐柔されると考え召喚を諦めるか、お前たちに対抗するため召喚の回数を増やしてくるか」

「あ~……なるほどねえ……」


 増やしてくる可能性があるな。だって、どうしようもないもんな、時渡りが二人とか。普通なら絶望して、人間側も時渡りを増やしてくることが考えられる。しかしそれが扱いきれるのかという話。綾音のように、俺が逆に味方につける可能性もある。それが続けば、人間の勝ち目は完全にゼロになる。今はまだ二人。ゼロってわけじゃない。が、人間が召喚して俺がそいつを仲間にしたら、ゼロに近づいていく。人間はどう動くか。


「俺と綾音が協力していることは、まだ人間には知られていないと思う。みんな殺したからな。俺が魔王についていることは確定してるけど」


 アイオーンでの宣戦布告。あれで俺の存在はアピールした。実際、それは成立していた。クラムの町に情報が届いていたのがその証拠。だが綾音のことはまだ知られていないはず。ゼーレから逃げた人間がどう報告しているのかが気になるが、エドとキースが荒らした後だから綾音のことなんて見えていなかっただろう。それどころじゃなかったからな。


「なら、簡単じゃない? 人間が対策する前にやっちゃえばいいのよ、全部」


 綾音が急になんか言い出した。やだこの子物騒。俺より物騒。


「ふむ。ケント、どう思う」


 そこで俺に振るのかよサタン。綾音のこと押し付けようとしてない?


「そうだなあ。綾音の言うことも一理あるけど、人間が対策を始めているという可能性もなくはない。調子に乗って無策で突貫、ってのは好ましくないと思う」


 弱気になる要素はないが、警戒や対策は必要だ。想定できる範囲でなら、時渡りが二人いて負けることはありえない。が、想定できない事態。これが怖い。ここはファンタジーの世界だ。何が起こるかは、日本人の俺や綾音が想像しうる範囲を軽く超えてくるだろう。


「……サタン。呪術、って奴は、戦争に使えるものなのか?」


 この世界、魔力があるが魔法はない。呪いみたいなものはあるらしい。その力はいかほどのものか。


「使えない。戦争に用いるのなら、長期戦が想定される。時渡りの力で一掃されるようでは、呪術など役に立たん」

「なるほど」


 時間をかけて継続的に術を使う必要があるのか。地味だな。一撃で町を消す時渡りの力の前では無力か。


「呪術、って? 呪い?」


 綾音は首を傾げている。この中で唯一、呪術について知らない。


「ああ。そういうのがあるらしい。そういえば、俺も詳しくは聞いてないな。聞いたほうがいい?」

「興味があるのなら話すが」


 興味か。それならある。知識として聞いておこうか。


「じゃ、聞かせてもらおう。まったく知らないってのもなんだしな」


 全部は必要ないにしても、肝心な部分だけを知っておいて損はない。今、人間にとっては危機的状況だ。対策になるのなら人間はなんでも利用してくるだろう。


「ならば簡単に説明しよう。リアーネ」

「はい」


 サタンに言われ、リアが呪術の説明を受け持った。呪術についても知ってるのか。リアは本当に優秀だな。


 魔王軍、というか上級魔族がまとまっているのはサタンの力だけじゃなく、リアの存在も大きいのではないだろうか。サタンはリアのように柔軟な語りができないし、ルルやエドの相手をするのもリアだ。サタンはすべての魔族に絶対的な命令権を持つが、組織として崩れると困るのはトップであるサタンではなく、リアなのかもしれない。


「呪術には時渡りの力のような攻撃能力はありません。また、一瞬のうちに何かが起こる、ということもありません。呪術を仕掛ける相手に気づかれないように、あるいは相手が動けない状況で使います。基本的にはどの呪術も数時間、長ければ数日という時間をかけて完了させます」


 魔法というより、計略みたいなものか。ぱっとできるものじゃない。戦争で使うならちゃんと計画を立ててやる必要があるな。対峙していきなり呪術をかけられるとか、目の前にいる人が急に呪術にかかるとかはないっぽい。


「呪術には様々な種類がありますが、人を苦しめるものがほとんどです。人の心を奪い、操るものもあります」


 有り体に言うと洗脳だな。万が一俺や綾音がやられるとやばい。一瞬でやられるわけじゃないとはいえ、単独行動は控えるべきだな。


「呪術の規模は? 射程距離とかあるの?」

「どうでしょう……射程距離は、私も聞いたことがありません。呪術は通常、相手を狭い部屋などに閉じ込めて使うものなので」

「なるほどな。じゃあ例えば、こういう部屋に何十人と詰め込んで、その全員に術をかけることは?」

「理屈では、可能です。部屋一つくらいなら効果範囲内です」


 範囲攻撃か。どの程度なのかわからないかな?


「呪術の範囲は最大でどれくらい?」

「最大……サタン様はご存知ですか?」

「呪術を使う場合、対象もしくは場所を指定する必要がある。人間が明確に視認できる範囲、が最大だろう」


 ふーん。危険なようなそうでないような……曖昧だな。まあ、術なんてそんなもんか。射程五メートルとか周囲二マスとかはっきりわかるゲームのほうがおかしいんだ。だからこのリアの情報も、絶対じゃない。物事に例外はつきものだからな。何もかも疑う必要まではないが、リアに情報の真偽の責任を押し付けてはいけない。


 この世界は俺にとってファンタジーだ。何もかも数値化、可視化できるわけじゃない。確かなことは俺の目や体で知るしかない。


 人を苦しめる呪術か。人の心を奪い、操ったり……


「時渡りにも呪術は通じるのかな。一応、俺や綾音も人間に分類されるけど」


 体の作りは同じ。脳みそも同じだろう。なら呪術も通じる可能性はある。それとも、時渡り特有の不思議な力で防げたりするんだろうか。


「おそらく通用するかと。実際はわかりませんが」


 そんなの実験してないよな普通。通じると思っておいたほうがいいか。でももし、人間と同じように呪術が効くとしたら。


「時渡りが呪術で操られるってこともあるのか……?」


 なんらかの方法で鹵獲された時渡りが洗脳された、とか。


「なるほど……ありえない、とは言い切れませんね」


 リアがうなずいた。だよな。時渡りといえど、同じ人間だ。


「人間は戦闘能力こそ低いですが、技術は魔族から見れば計り知れません。ケント様はご存知かと思いますが、魔族と人間は干渉し合っていません。時渡りの召喚から三百年でどれほど進歩しているか……」


 時渡りが召喚され、魔王討伐に向かう。それは一つの事実ではあるが、すべてではない。サタンやリアも、人間が何をしているかは知らない。


「冷静に考えると、状況は万全ってわけでもないんだな。パワープレイ……じゃねえや。力押しで勝てる戦争ってわけでもないのか」

「ケント様が最初におっしゃっていたように、敵に時渡りがいた場合……ですね。人間と戦う上で最大の脅威となります」


 そうだ。話はやはりそこに帰結する。敵に時渡りが何人いるのか。どの程度の質か。それが今後、特に最終局面での立ち回りに関わってくる。


「でもそれって、時渡りがこっちより強い場合の話でしょ? あたしと健人の二人で勝てない相手なんて、いるとは思えないんだけど」


 綾音がめっちゃイキってる。マジでどうしちゃったのこの子。キャラ変わりすぎじゃない?


「あの一撃を見て、お前の力もすごいってのはわかったけど……」

「でしょ? 健人はそのあたしよりも強いのよ? 楽勝でしょ」


 すごい。綾音がノリノリだ。完全に闇堕ちしてるよこの子。


「ま、まあ落ち着け綾音。どんな相手にも作戦は必要だ。力押しでいいわけじゃない」

「それもそうね。敵の時渡りのこととか調べられないかしら」


 そうだな。敵の情報は重要だ。人間は物の数じゃないから、時渡りのことさえわかれば。


「リア、偵察とか出せないか?」

「難しいですね。エドやキース、ルルならば可能ですが……」


 ですが……だよな。エドやキースがちゃんと言うことを聞くかどうか。ルルはできれば俺の近くに置いておきたい。俺と綾音が事実上の最高戦力だから、護衛として魔族が一人欲しい。


 それと、問題はもう一つある。どうあれ、時渡りは強い。エドたちが単独では、時渡りにやられる可能性がある。それはまずい。


「やっぱ、俺が行くしかねえか」


 時渡りである俺が自ら攻め込むこと。これが最良だ。本拠地であるこの城はサタンが守ることになるからな。今は綾音もいる。強気に攻められるぞ。


「申し訳ありません、ケント様にすべて背負わせてしまって……」

「何言ってんだよリア。俺が言い出したことなんだから当然だろ」


 俺が主催だ。俺が率先して動かないでどうする。上でふんぞり返っていい汁だけを啜るなんて、俺にはできないね。相応の働きをし、相応の成果を出す。それが上に立つ者の役目だ。


「そうよ。元はと言えば健人が原因でしょ? むしろ健人がやらなきゃ駄目よ」


 そうそう。……これに関して、綾音には言い返せないな。綾音は被害者だから。俺の。


「今は綾音もいるし、戦力は増えた。俺のことは心配いらない。そっちこそ、城は大丈夫か? サタンとリアの二人しかいないけど」


 連絡を取る手段がないからな。気にしてなかったけど、実際は不安なことが多すぎる。本拠地を薄くして、定期報告とかもないんだからな。


「気にすることはない。魔族には人間のような政がない。兵も、ここならば無限に生み出せる」


 言われてみればそうか。魔族は国家を運営していない。サタンを中心とした同族の集まりでしかない。金も資源も必要ない。魔力と召喚石があれば兵力も無限。戦争するのにこれほどの好条件があるだろうか。兵糧も必要とせず、魔力は永久機関。……ずるいな。人間がまともにやって勝てるのかこれ? 勝てないから時渡りを用意したのか。


「ならいいけど。じゃあ俺は自分のことに集中させてもらうよ」


 なんにせよ、情報だ。人間がどんな作戦を考えているか、その答えは人間側にしかない。俺が自分の目的に集中する、それイコール敵を探ることにつながる。ここで芋っててもしょうがないし、心配ばかりしてちゃいつまでたっても攻め込めない。


「えーと、それじゃあ今後の方針について考えようか。まず――」

「待って健人。それも今じゃないとダメ? せっかく安全なところに来たんだし、のんびりしましょうよ」


 綾音がちょいちょい口を挟んでくる。戦隊モノの黄色みたいなこと言いやがって。でも、それもそうか。もうお昼時。この話は長くなりそうだし、さすがに今すぐやらないといけない理由はない。


「……そうするか。リア、悪いんだけど綾音の分の飯も頼んでいい?」

「もちろんです。お任せください」


 料理の手間が一人分増えてしまった。それでもリアは快く引き受けてくれる。できた嫁だ。嫁じゃないけど。でも間違いなくいい嫁になるよなリアは。


「サタン、悪いな。俺が呼んだのに」


 呼びつけておきながらこっちの都合でさっさと終わらせることになってしまった。これなら俺からサタンのところに行けばよかったな。


「フ……気にするな。退屈よりは、お前たちと話しているほうが有意義だ」


 相変わらず寛容だな。この程度、魔族にとってはほんのわずかな時間。たとえ浪費だとしても問題にすらならないと。退屈と言ったが、おそらく本当にやることがないんだろうな。魔族は仕事も何もないわけだし。人間との争いがなければ、ただ毎日を暮らすだけか。


「そんじゃ、続きは食べてからにするか。綾音、お前に聞きたいこともあるしな」

「あたしに? 変なこと聞く気じゃないでしょうね」

「しねえよ」


 微妙に古い言い回しだな。俺より年下のくせに。


 敵の情報も重要だが、味方のことも知っておかなければならない。榊原綾音という人物について教えてもらおう。

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