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七章 対立してしまった存在 ー 4

 破壊しつくしたせいか小鳥の声が聞こえない町中。


 ルルと一緒に早起きした俺は、朝飯のために昨日集まった部屋へと向かった。いわゆるリビングルーム。実際はそんな洒落たものじゃないが。


「――おっ」


 俺よりも早く綾音が起きていた。顔はしゃきっとして、髪も整っている。


「おはよう」

「おはよ」


 綾音と朝の挨拶を交わす。ルルは黙っているが。綾音はそんなルルに笑いかけ、俺に向き直る。さらに、水をいれたコップを差し出した。


「昨日の話だけど」


 そして話を切り出した。昨日の話。答えは出たのかな。


「あたし自身、どうするか。それを決める。決められるまで……きっかけができるまで、あんたと一緒に行く。一緒に行くのが、今のあたしの意志。それでいい?」


 短くまとまったいい回答だな。わかりやすい。


「いいも何も、俺はお前に意見するつもりはないからな。好きにしてくれて構わないぜ」


 俺が綾音をどうにかすることはない。邪魔をしない限りはな。昨日も言った通り、俺と敵対するのであればやむなしってところだ。


「それはなによりだ。どうなるかと思ったが、無事に出発できそうだな。食ったら行くぞ。水と保存食だけ持ってな」


 昨日の夜ちょこっと悩んだのは杞憂だったか。よかった。決断までが早いのは素晴らしい。


「余計な心配をかけたみたいね。悪かったわ」


 まったくだ。なんで、俺に反対してる奴にこんな気を遣わねばならんのだ。どこまでも手のかかる奴め。……いや、それは俺のほうか。


「決意が固まったところで改めて聞くが、大丈夫なのか? 昨日みたいなことがまた起こるぞ」

「確定なの、それ?」

「確定」


 アイオーンに続いて二回目だからな。もう慣れた。話を聞かない人間はまるっと消す。そうでなくても、人間と争うことは決まっている。できれば殺さないようにするなんて言ったところで、信憑性はゼロだ。行けたら行くみたいなもんだ。ならば堂々と宣言してしまえばよい。私は人間を皆殺しにします、と。


「……なら、仕方ないわね。あたしも、自分のことは自分で決める」

「そうしてくれ」


 文句は言わない。これも昨日言ったかな。綾音の意志を尊重する。


「俺はお前を殺したいわけじゃない。理解してもらえるように努力はする。その結果敵になるのなら、俺の努力が足りなかったってだけの話だ」


 せっかくの時渡りの仲間だ。失いたくない。だから昨日も守ったんだ。俺の計画に賛同してもらえるのなら最高だが、それは綾音にとって簡単なことではない。ま、本人に任せるしかないな。


 とにかく今は、俺の思うように進もう。綾音に理解してもらうのに、俺のやり方を示せないのでは意味がない。次はここから南西、ゼーレの町。ここにも人間がいるのだろう。ゼーレの人たちは時渡りをどんな目で見るか。


 まあ、結果は見えてるけどな。そんなことより、綾音が俺をどう見るかのほうが圧倒的に大事だ。綾音に気に入られるようなことをするつもりはない。俺の人類抹殺ムーブを綾音が気に入るかどうか。そこが勝負だな。



「そういえば、綾音。気になったことがあるんだけどさ」

「なに?」


 ゼーレの町にももちろん徒歩で向かう。暇なので適当に駄弁るのもこれまで通り。


 この移動の時間は気楽だ。物騒なことはしないし、綾音と対立するようなことも起こらないからただの世間話に興じることができる。


 しかし今回はちょっと違う。真面目に、気になることがある。


「お前、力の使い方が器用だよな。あれってどのレベルまでできるの?」


 土をくり抜く技術があるのはわかった。洞穴や墓穴が作れる。それ以上、上限はどんなことができるのか。


「どのレベルって言われてもね。まあ、小さなものなら……」


 言いながら綾音は身をかがめ、足元に落ちている石を拾った。指でつまんだ小さな石を見つめると――


「……はあ~、すっげえな……」


 機械で刃物を研ぐような音を立て、石は三日月の形に切り取られた。石を受け取って見てみると、表面は軽くヤスリがけでもしたみたいにツルツルになっている。どんな技術だ。


「イメージできる程度なら、その通りに削れるわね。その範囲じゃないものは無理。山を削ってお城を作る、なんてことはできない」


 イメージか。そこは俺と同じなんだな。そのイメージによってできることのレベルが違いすぎるが。


 でも、そう考えると……綾音の芸術の能力が高まればもしかしたら……?


「……言っとくけど、期待してるようなことは起こらないからね。あたし、芸術家でもなんでもないから」


 期待してると何故バレたし。ちっ、さすがにそこまでは無理か。石柱からミロのビーナスを作れるわけじゃないんだな。それでも、すごい才能であることは間違いない。そんな細かいの、俺にはできっこない。


「じゃあ、それを戦闘に使ったらどうなる?」


 四肢を切断するとかできたりして。


「知らないわよ、試したことないんだから。あんたと一緒にしないで」


 ですよね。知ってた。


 まあ、予想はつく。これは時渡りの力だ。大人の体を簡単に吹き飛ばすほどの力。切断なんて余裕だろう。本人も言っている通り、やらないだろうけど。俺もやだわ。セルフで発狂する。


「俺でもできるかな」

「できるんじゃない? その気になれば」

「綾音は、絵とか上手いほう?」

「まあ、描けないわけじゃないわ」

「そっかぁ……」


 俺は絵心がないから、無理そうだな。昔から芸術的センスは軒並み駄目だ。だが、今の俺には根こそぎぶっ飛ばす力がある。力こそ正義。いい時代になった。


 これがゲームなら、綾音の器用さを使って道を開くギミックとか絶対あるよな。そういうのってたいてい、めっちゃ簡単か無駄に難しいかのどっちかなんだよね。この異世界転移では、願わくば簡単であってほしいところだ。


「あんたも、なんか力の使い方を考えたら? 何もかも消し飛ばすなんて……殺さなくていい人まで殺しちゃうでしょうが」


 いやあ、全滅が前提だからなあ。町一つ、全員に聞き込みするとか現実的じゃないし。敵の数は減らせるだけ減らしておいたほうが後々楽だと思うんだ。


「殺さなくていい人が最初に現れてくれればいいんだけどな」


 話を聞いてくれる人がいれば、こっちもちゃんと話し合いをするのにな。どいつもこいつも攻撃的で困る。いや、口撃的とでも呼ぶべきか。ヒトのこと化け物とかなんとかな。


「逆でしょ。あんたがそんな考えだから、皆殺しになっちゃうのよ」


 そうだろうか。人間が問答無用で時渡りを迫害するのが悪いと思うんだが。こういう場合って、見るからに優しそうな人がどこからともなく現れて「私はあなたが噂に聞く化け物だとは思えません」とか言ってくれるはずだろう。


 そういう人はいないのかこの世界? 仮にそんな人がいたとしても、一人や二人こっちの味方につけるだけじゃ何も変わらないだろうな。町が丸ごと時渡りに理解を示してくれるぐらいでないと。どこかの町を拠点にできれば状況は大きく変わる。RPGだと定石だな。流浪や逃亡の末に見つける本拠地。その途中、敵国の王女と会ったりとかして。


 ……お姫様、か。そういえば、綾音は何か知ってたりしないんだろうか。


「なあ、綾音。聞きたいことがあるんだけど」

「どうぞ」


 快い返事。物騒なこと以外は協力的だな。


「この世界に来てから、緑色の長い髪の女の人に会ったことない? お姫様みたいな雰囲気の人なんだけど」


 これで通じるだろうか。名前も何も知らないから、こうとしか言えない。


「緑の髪? ああ……あの人かな」


 おや。いい反応が。


「知ってるのか?」

「多分……その特徴の人なら、見たことある」


 綾音も知ってるとは。どこにでも現れるんだなあの人。もしくは、時渡りに会いに来てるのか? 俺が出会った場所は、時渡りの召喚に使われていた建物の入り口。あそこなら、確実に時渡りに会える。というか、時渡りに会う目的以外で訪れたりはしないだろう。あそこは魔王の城のすぐ近くだ。人間が散歩するような場所じゃない。


「ちなみに、どこで見た?」

「最初の拠点。あんたが見つけたっていうあの場所。あそこで暮らし始めた頃だったかな? ある日、こっちをじっと見てたの。あたしが気づいてそっちを見たら、逃げるように走り出して……あたしも走って追いかけたんだけど、どこにも見当たらなかった」


 消えたみたいな言い方だな。でも、それでも納得はいく。いきなり現れて前触れもなく消えそうな雰囲気があの人にはある。


 マジで何者なんだろうあの人。不意に出てくるのに、会いたい時には出てきてくれない。これは物欲センサーのせいなのだろうか。関係ないか。


「その人がどうかしたの?」

「なんか重要人物っぽいんだよな」

「ふーん?」


 明らかに何かある。一度会っただけなので、怪しいとまで失礼なことは言えないが……ただの一般通過市民でないことはおそらく間違いない。どこからどう見ても、物語のカギを握る高貴な身分の人間。俺のゲーム脳がそう告げている。


「ま、そのうち会えることもあるんじゃない?」

「軽いな」

「だって、会おうと思って会えるものじゃないでしょ。草むらかき分けて探すつもり?」


 どっかの誰かと同じようなことを言いやがる。綾音はまだルル以外の上級魔族に会っていない。実は気が合ったりしないだろうか。俺の代わりにあいつらをまとめてくんねえかな。俺はルルと遊んどくから。


 エドとキースは今頃どこにいるのかな。俺と同じく、人間の町を襲っているはずなんだが。といっても俺みたいに気合一発で吹き飛ばせるわけじゃないから、どこかで町ごとなくなってるってことはないはずだが。


「そのお姫様に会いたいのなら、むやみに町を壊さないほうがいいんじゃない? 巻き込まれたら二度と会えなくなるわよ」


 その話に戻してきたか。こいつ、ずっとそのネタを引っ張るつもりだな。……当たり前か。綾音はそもそも人間を殺したくないんだもんな。


「大丈夫だと思うんだよな。あの人、死ぬ気がしないし」

「ゲームじゃないのよこれは」


 ごもっとも。グーで殴れば当たるし、刃物で切りかかれば傷がつく。グラフィックごとすり抜けるゲームとは違ってこれは現実。俺の力に巻き込まれたら、死ぬ。


 しょうがない、探してみるか。次の町ではおとなしく聞き込みをしよう。何もなければその後、これまで通りにやればいい。


 次の町、ゼーレという名前の町は、地図で見ると少々小さい。いや、アイオーンやクラムが大きいのか。アイオーンが大きな都市だということは襲撃の際にわかったが、クラムもけっこう大きな町だったんだな。一瞬で消したからわからなかった。


 ……それにしても。


「今日はいい天気だな」

「なんで急にその話を出したの」

「いや、会話が終わっちゃったからさ」


 綾音がもっと話を振ってくれたら、こんなふわふわした話題を出さなくていいのに。ルルは基本無口なんだから綾音が喋ってくれないと、このパーティは会話が発生しない。俺ばっかり喋るのは疲れる。ネタもなくなってくるし。


「綾音は一年ここにいるんだろ? どうなのこの世界の気候は」

「四季があるみたいね。日本ほど猛烈に暑くなったり寒くなったりはしないけど」


 あるのか、四季。雪が降ってくるとルルが言っていたな。


「気候の変化にストレスは感じない。日本と似たようなものと思って大丈夫よ。もっとも、一年周期なのかは知らないけど」


 それもそうだな。日本のように春夏秋冬を一年で巡るとは決まっていない。二年経つ頃にとんでもない寒波が来たりして。でも、そのへんはルルなら知ってるんじゃ? 長生きしてるもんな。


「なあ、ルル。ルルが今まで生きてきた中で、この世界に大嵐とか大地震とか起こった?」

「嵐は、ある。ダイジシン……? は、よくわからない」


 ルルが首を傾げた。今の言い方、引っかかるな。


「ルル。『地震』ってわかる? 地面が揺れる現象なんだけど。強い地震だと、建物が崩れてぐちゃぐちゃになるんだ」

「地面が……揺れる??」


 あ、これ駄目だわ。絶対知らないわ。


「そういえば、この世界で地震って感じたことないわね」


 綾音からも意見が。地震大国と呼ばれることもある日本では、一年もあれば地震を体験できる。この世界では地震がない。ルルが地震という言葉自体を知らないようだし、ないんだろうな。確か日本で起こる地震は、地下にあるプレートがバイーンってなって揺れるんだよな。この世界にその条件がなければ、地震が起こらないというのも不思議ではないのかも。


「ないんだな、地震。まさか災害がないのか? ルル、洪水はわかる?」

「川の水が増えて……」

「そう、それ」


 洪水はあるか。まあ嵐があるんだから洪水くらいはな。でも、地震がないってだけでもこの世界は災害による被害が少なそうに感じる。地震は本当に怖いからな。この世界の文明レベルを見るに日本のような建築技術はないだろうから、大きな地震が来たら一気に絶望だろうな。大地震で崩壊ってのはファンタジーではよくある話だ。


「どうやら、大きな災害に見舞われることはないらしいな。それなら人間がボケてるのも納得がいく」


 何事もなくのうのうと生きてるから、時渡りを使い捨てることに抵抗がないのかも。危機に対策するということを知らない。サタンが人間に何もしないから余計に、危機感がないんだろうな。


「あのさ。ルルって何歳くらいなの?」


 綾音の質問がストレートだ。俺もはっきりと聞いたことはないのに。ルルは女の子だし。


「二百……三百? 忘れた」


 数えていないらしい。まあ、そりゃそうだわな。日本人には西暦があるから生年さえわかれば仮に千歳とかでも年齢を把握できるけど、それがないと何千何百の年なんておぼえてられねえよな。一年や何歳というのはルルに通じるから、年齢の数え方は日本と同じ。でも覚えているかどうかは別の話。


「ルルはサタンの城に、百年か二百年いたんだったな。それより前は? 何年くらい過ごしてたんだ?」

「……百年?」

「じゃ、三百歳くらいじゃないか」


 すっごく曖昧だが、まあいいだろう。少なくとも三百年くらいは生きてるってことで。


「三百……すごいわね」


 長い時間だな。人間だと人生三回か四回分。それでもルルはこの容姿。何歳まで生きるのか想像もつかない。生まれてから死ぬまでに途方もない時間を過ごすんだな、魔族は。それだけ時間があったら何でもできそうだ。


 三百年もあれば歴史の移り変わりを肌で感じることもできそうだが、ルルは魔族だからな。人間の作る文明とは無縁だろう。城だけやけに立派なのは……サタンが下級魔族を使って建てたんだろうか? RPGの魔王の城とか、誰が作ったんだっていう立派な城だよな。


 きっと魔王も、現場監督として一生懸命努力したのだろう。構造にこだわりつつ、下級魔族が理解できるようなわかりやすい指示を飛ばしているサタンを想像するとほっこりする。


「もしかするとこの世界、危機に瀕したことがないのかもな」

「どういうこと?」


 地震がない。人間と魔族が戦ったことはない。ファンタジー世界ではたいてい、人間は魔族や怪物に怯えているものだ。だがこの世界には何もない。時渡りを召喚し、魔王を倒しに行かせている。それによって魔王の怒りを買ったら、とは考えないのだろうか? 時渡りの命が失われる、とは思わないのだろうか?


 それらの疑問を解決するにあたって、一つ思い当たることがある。危機だ。


「災害や、戦争。大規模な危機を経験することなく平和な毎日を送る。スライムだのホーネットだの、モンスターもいない。魔族も襲ってこない。ぬるま湯に浸かり続けた結果、この世界の人間は自分たちのことしか考えなくなったんじゃないか」


 自分たちが危機を知らない。だから他人の危機がわからない。時渡りとかな。でもって、自分たちに害を成す可能性がある時渡りそのものを化け物と呼ぶようになった。


「人間だけの生活が当たり前で、人間以外は排除――せいぜい動物までかな。時渡りや魔族は、人間にとって駆除の対象でしかないのかも」


 俺のような日本人も、外国というものが存在しなければ外国人について考えたりしない。この世界の人間は一種の閉鎖空間で生きているのではないだろうか。


「それはあんたの憶測でしかないでしょ? 自分たち以外の種族と対立するのは不思議なことじゃないわ」

「まあ、それはそうかもしれない。けど……」


 どうも異常な気がする。三百年だぞ。三百年もの間、何の対策もなしに時渡りを送り続けるか? 天然でボケてるわけじゃないとしたら、なんの意図があってやってるんだ。


「あんたはここに来て数日。あたしは一年だけど、人目に触れず生きてきた。お互い、この世界のことをまだまだ何も知らない状態でしょ。勝手な憶測で判断するのはよくない」


 ぐう正論。このことを確かめられる日は果たして来るのだろうか。その前に人類がいなくなりそう。


「じゃあそれ、次の方針にするか。ゼーレの町で聞いてみよう」


 聞けたら、の話だけど。


「それがいいと思うわ。……はあ。あんたって、なんでそんな怖い考え方しかできないのかしら……」

「そんなこと言われてもな」


 それだけこの世界が怖いということではなかろうか。魔族が優しくて人間が怖い世界。


「最初はルルと二人旅だったんでしょ? 変なこと吹き込んでないでしょうね?」

「してないよ」


 俺よりルルのほうがもっと物騒だもん。俺の物騒は人工的なものだけど、ルルは天然だぞ。ガチで人類殺しにかかってるぞ。


「ならいいけど。じゃあ、なんであたしにはいろいろ言ってくるのよ」

「そりゃ、相手がお前だからだよ」

「……え?」


 綾音が目を丸くした。何をそんなに驚くことがある。俺は初めて会った時からずっと、そのことだけを考えてたよ。


「お前を俺の計画に引きずり込まないとな」

「ぶっとばしていい?」

「なんでさ」


 急に乱心するな。お前が物騒だよ。


「ったく……だいたい何が『引きずり込む』よ。もうちょっと言葉を選んだらどうなの?」

「飾らない美しさ」

「それは飾っても美しい人が言う台詞なのよ」


 今までは言葉を選んでた。伝えたいことは伝えたからもういいかなって。綾音は意外とノリがいいし、性格も俺に近い。基本的な思想が決定的に違うだけだ。


 それと、面白い。やっぱ同じ日本人と話すことが楽しい。どんな言葉が通じるかがわかるから。中には通じない話題もあるだろうけど、綾音は結構知ってそう。アニメとか漫画とか言ってきたくらいだし。


「その計画、ホントにやる気?」


 その質問は何度目だ。本気だって言ってるじゃあないか。


「綾音も結構、諦めないよな」

「当たり前でしょうが。人を殺すなんて――」

「?」


 綾音が言葉を中途で切った。どうしたのか。


「……あたしは、人を殺したくなんてないからね」

「…………」


 なるほど。俺に言われたことを実践したのか。殺したくない、ね。俺だって殺したくてやってるわけじゃない。滅ぼしたいけど。


 計画に反対。だったら止めろよ、というツッコミはこの場合はナシ。俺のほうが強いと思われるこの状況で、綾音が動けるわけがない。


「もしかすると、次の町が俺らの運命の分かれ目になるかもな」

「……かも、ね」


 綾音も、そう長く俺の暴虐に付き合うことはできないだろう。俺の行いを見逃していくとその分人が死ぬ。干渉しないならそれでもいいだろうけど、この世界の人間を死なせたくないのなら早くしないと手遅れになる。


 俺も心してかかるべきかな。綾音に納得してもらい、仲間に加えるにはどうすればいいか。


 クラムの町から一番近いとはいえ、数日は余裕でかかる距離を歩かなくてはならない。今はのんびり行こう。詳しいことはゼーレに着いてからだ。

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