五章 迫ってしまったロリ巨乳 ー 3
歩こう。歩こう。私は元気。
元気とはいえ距離が距離なので、目的地までずっと歩き続けることはできない。一日じゃ行けない遠さだ。
というわけで休憩を取った。日がいいところまで昇っているし、腹もすいてきたのでお昼にすることに。ちょうどよい具合に大きな岩があったので、ルルと並んで座る。若干熱い。尻が熱い。
朝の出発からぶっ通しで歩いたが、ルルはまるで疲れた様子を見せなかった。これはルルがすごいのか、魔族本来の体力の高さなのか。今まで目にした身体能力とかを見るに、これが普通っぽいか。普段は飛んでるから歩くのは苦手、ってのはないんだな。ずるい。
リアにもらったパンを食べる。うん、美味。素晴らしい。ちょっと甘くしてある味付けが、疲れた体を癒してくれる。
もちろん、ルルも一緒に食べている。ルルは俺の横、腕が当たるくらいぴったりとくっついている。俺は腹が減ったから食べているわけだが、ルルは本来こういった食事を必要としない。今、ルルの体はどんな具合なのだろうか。気になる。口で説明されても多分理解はできないだろうけど。
「なあ、ルル。何度も聞くようで悪いんだけどさ。魔族って、本当に食事は必要ないんだよな?」
「うん」
そうなんだよなあ。ルルは美味しそうに食べてるけど。
「ルルがリアのパンを食べるのは、美味しいからだよね?」
「うん」
「ってことは、保存食とかは……」
「必要ない」
やっぱりか。存在は知ってるっぽいが。
「保存食、ってのは具体的に知ってる?」
「リアーネに教えてもらった。人間には必要なんだって」
そうそう。人間は何か食わないと死んじゃうからな。保存食は欠かせない。カ〇リーメイト美味すぎる。でもこの世界観での保存食って……
「ちなみに。保存食、食べたことは?」
「ある」
「感想は?」
「まずかった」
「だよな」
そんなもんだよな。保存食もモノによっては独特の味があっていいんだが、ルルの舌には合わないかもな。食事を必要としないとなると、苦味や渋味を摂取する意味はなさそうだし。逆に、そう考えると……リアは意外と通な舌をしているのかも。魔族になって必要なくなったはずの保存食をわざわざ作っているくらいだし。好きなのかも。
しかし、そうか……魔族は保存食すら必要ないと。魔力があれば生きていける。しかも上級魔族にもなると、周囲が魔力で満たされていなくてもセルフで自由に活動できるほどの魔力を持っている。やっぱりずるい。
「いいなあ魔族って。うらやましい」
「そう?」
「うん。人間はさ。食い物を食べて、水を飲まないと死んじゃうんだ。でも魔族はそれが必要なくて、それでいて味覚はある。食を楽しむことはできる。人間がそうなったら幸せだよ、きっと」
「ふうん……」
よくわからない、といったルルの返事。わからんよなあ。食事を必要としない種族に食事で得られる幸せをわかってくれ、なんて無理な話だ。やはり俺も魔族になれば……いや。リアは魔族になっても、人間の食生活を続けていた。食べる必要はないにせよ、食欲はあるってことだ。美味しいものを食べたい、という気持ちは残っている。おそらくは俺も同じことになるだろうな。
「ケントも、魔族になる?」
「ん? ん~、そうだなあ……」
絶妙なタイミングでぶっこんできたな。話の流れ的には、おかしいってことはないか。
「ちなみに、さ。サタンがリアを魔族にしたんだよな? ルルは? 人間を魔族にできるの?」
「できる。でも、魔王様の許可がないと……」
許可制なのか。まあ、人間を魔族にするって、いいことばかりじゃないしな。邪なことを考えてる人間がいるかもしれない。サタンはともかく、ルルは悪い人間に騙されそうだ。それ以前に、人間を魔族にするのがそう軽い話じゃないか。今の魔王軍にはたった一人しかいないくらいだし。
ルルの……この美少女の眷属か。その筋のマニアが地べたに頭こすりつけて懇願しそうだな。
「ま、俺は遠慮しとくよ。少なくとも、今の目的を果たすまではな」
この世界の人間を抹殺する。それまでは、俺は時渡りでいよう。人間を完全に消し去って、元の世界にも戻れないとなったら……その時は、魔族ライフもいいかもしれないな。何百年と生きられるぞ。
「……そう」
ルルがさみしそうにしている。なんか、予想外に落ち込んでてちょっと焦る。もう少し話を掘り下げてみるか。
「ルルは、俺が魔族になったほうがいいと思う?」
興味半分でやんわりと聞いてみる。でもルルは重苦しい雰囲気のまま。
「…………人間は、すぐに死んじゃうから……」
「――っ!」
ルルのその言葉に、息が詰まった。
そうだ。人間の寿命はだいたい八十年。それも、医療などが発達した日本での話。この世界だとそう長くは生きられない。仮にそこまで、いや百まで生きたとしても、魔族の目線ではわずかな寿命。永遠に別れた後も、魔族は長い長い時間をその人抜きで過ごすことになってしまう。
ルルのそれは、わがままでもなんでもなかったのだ。そうしなければ、ルルにとってはあっという間に別れの時が来てしまう。そして、その後一生会えなくなる。それは確かに辛い。逆の立場だったら俺もルルに、魔族になれよと誘っているだろう。
「ケントが死ぬのは……嫌」
そうか……そうだよな。単純な理由なんだ。
不要な人間なんざいくらでもぶっ殺せるが、大切な人には絶対に死んでほしくない。当たり前のことだ。
「……そうだな」
人間も魔族も関係ない、当たり前の気持ち。それに気づかなかったのは、俺が所詮は人間だからか。まだまだ、魔族のことなんか何もわかっちゃいないな。
「わかった。じゃあやっぱり、これが終わったら。この世界を魔族のものにしたら、本気で考えるよ。魔族としてこの世界で生きるかどうか」
そう伝えると、ルルはようやく笑顔になった。ほころんだ表情が俺を見上げる。
「だからさっさとやっちまおうぜ。まずは例の時渡り。その後はまた人間の都市に殴り込みだ。な?」
「……うん!」
ルルの笑顔が輝きを増していく。高揚のせいか、頬に赤みも出ている。なんか、照れるな。ここまで慕われると。
よし、やろう。やってやる。目指せ人類滅亡。
「ルル、疲れてない?」
「うん」
なんだかな。歩くしかないな改めて。コンビニも本屋も喫茶店もない。寄り道やお茶するという概念が存在しない。人によっては地獄だろうな。俺はどっちかというと田舎の牧場とか好きだから、気にならないけど。
それと、一つ。俺のいた日本よりもいい点がある。
この世界、涼しい。
正確な気温がわかるわけじゃないが、なんかとても過ごしやすい。湿気も感じないし。
「ルル、この世界に四季……季節って、ある?」
「キセツ……?」
「ごめん、わかんないか。えーと、時期によって世界が極端に暑くなったり、反対に寒くなったりしない?」
「…………?」
駄目だ思いっきり首傾げてる。これは春夏秋冬もないな。しまったな。せめてリアに聞いておけばよかった。そうだよ。仮に四季があるとしても、魔族は知らない可能性があるじゃないか。……いや、まだだ。まだ諦めるには早い。
「じゃあ、雪、ってわかる?」
「わかる。たまに降ってくる」
おお、雪は降るのか。たまに降ってくるということは、四季がある? このあたりだけ降るという可能性も……
やっぱ、駄目だな。そもそも、北が寒くて南が暑いかどうかも定かではない。ここは異世界だ。俺の常識は基本的に通じない。でも時間や気温が人間に適しているし、思考パターンを見るにこの世界の人間は俺らと同じだと考えるのが妥当だと思うんだが。
「…………」
……もういいや。混乱してきた。この先、自分で体感すればわかるだろう。
「? ケント、どうしたの?」
「ごめん、なんでもない」
ルルから聞き出そうにも、これじゃ推理ゲームだ。やめよう。
「なあルル。ルルから俺に聞きたいこととか、ある? いつも俺から話振ってるよな」
ルルは普段は口数が少ない。おしゃべりするためにはこっちがリードする必要がある。しかしそれもネタがなくなってきた。日本ならともかく、ここじゃ振れる話題が限られる。ゲームの話とか、どうあがいてもできない。
「…………」
ルルが少し、思考した。その後俺を見上げ、口を開く。
「ケントは、ケッコンするの?」
「はいぃ?」
紅茶好きの人材の墓場の人みたいな声が出た。なんだ? 確かに質問してくれとは言ったが、なぜそんなものを入れてきたルルよ。漫画じゃないんだからさ……
「リアーネが言ってた。人間は、ケッコンするんだって。ケントは?」
リアの奴、なんてことをルルに教えて……いや、別に変なことじゃないか。ルルがまずい解釈をしているだけだな。リアは悪くない、はず。
要するに大事な部分が全部抜けて、人間は結婚をするというところだけが残ってるんだな。じゃあまず、そこを補完するところから。
「ルル。人間の結婚ってのは、するかしないかっていう話じゃないんだ。男女がお互いのことを自分にとって大切な人だと認識した時、そうなってるものなんだよ。だから、するのか? と聞かれても答えられないんだ、人間は」
それが人間の総意というわけではないが、今そんなことはいいだろう。
「大切な人?」
「そう。結婚ってのは人間にとって一生に一回……基本一回の、大事なものなんだよ」
一回とは限らないな。人によっては二回とか三回とかあるし。最高は何回なんだろうな?
「ふーん……」
ルルの無表情になんだか嫌な予感がする。これ、漫画とかでよくある展開だな。私と結婚しないの、とか言われて主人公があたふたする奴だ。俺はその手には乗らんぞ。
「まあ、アレだ。ルル。人間にとって、結婚というのはかなり重い話なんだ。するの、しないの、と軽々しく言っていいものじゃないのさ。魔族にも、強い者に従うっていうしきたりがあるだろう? それと似たようなものなんだ」
この手の質問はかわすに限る。魔族はそこまで頭が回らないことを利用して。
「そうなんだ……」
「そうなの」
うまくごまかせたようだ。決して、間違ったことは言っていない。ルルを騙しているわけではない。だから大丈夫。これでこの話は終わり――
「ケッコンすると、どうなるの?」
終わってなかった。ていうかなんだその質問。リア、そのへんのことは教えなかったのかよ。
「どうなるか……そこは難しいところだな。答えにくい。人間の個体によって差が出る、とでも言っておこうかな」
非常に答えにくい質問だ。結婚はゴールインなのかスタートなのか、地獄のエントランスなのか……どうなるの、という質問に答えるにはまずそこからハッキリさせないといけない。
「ケッコンって、難しいんだね……」
その通り。真理にたどり着いたなルル。えらいぞ。
「そう、難しいんだ。だからこの話は終わりにしよう。あまり面白くないから」
「うん」
よし。回避成功。この話題は危ない。いろんな意味で。
それにしても……人間への話題ならほかにもたくさんあるだろうに、なんで結婚の話なんて出してきたんだか。リアから聞いた話が印象的だった、とか? リアってなんとなくロマンチストな感じあるし……ありえるな。
「……ケント」
「お。ほかにもなんか話、ある?」
「違う。何か、いる」
「何か……?」
敵か? それとも動物か。ルルが警戒しているということは、ただの動物じゃなさそうだが。
「……おぉ、こういうことね」
どこから来る、と身構えていたがその必要はなかった。あっちから出てきてくれた。どいつもこいつもざかざかと足音を立て、こっちに睨みをきかせてくる。
「貴殿が『時渡り』だな。もう一人は……魔族か」
人間の兵士さんだ。もしかして、さっきの覗き魔を殺したことがもうバレたか? 戻ってこないから心配になって見に行ったら……っていうサスペンスお決まりの展開か。それにしたって、行動が早いな。時渡りがいることは知っていたようだし、一人殺されたら、みたいにあらかじめ決めていたのかも。
なんにせよ、ご苦労なこった。……貴殿、とか生まれて初めて呼ばれた。
相対するや、ルルが即座に武器を握る。もちろん俺も、油断はしない。よく見たら囲まれている。全方位ではないが、半円程度には敵が広がっている。
「何故、魔族を連れている?」
今回の兵士さんは妙に貫禄があって堂々としている。ベテランなのかな。こういう人のほうが話しやすくていいな。さっきみたいなうるさいおっさんとか、無駄に正義の味方してるあの女兵士より気楽にしゃべれる。
しかし、だ。何故ってなんだ。俺は確かに、アイオーンで開戦を宣言したはずだぞ。まだ情報が回ってないってことはないだろう。ここはアイオーンと近いんだし、一番早く伝わるはずだろ。
「俺は魔王に味方してる。魔族を連れていたって不思議じゃないだろ?」
これ、人間と直接対峙するたびにやるのか? めんどくさいな。誰か全体に報告しといてよ。
「魔王に……? 味方をして、どうするつもりだ」
回りくどいことを。そんなの、アイオーンを一目見れば明らかだろうが。
「人類を滅ぼす。簡単なことさ」
いたってシンプル。俺をこんな目に遭わせ、俺以外の時渡りを殺した人間に、思い知らせる。これ以上、時渡りの召喚なんていう悪事をさせないために。
「口で言うなら確かに簡単だな。そんなことが本当にできると思っているのか?」
「どうかな」
確かに、実際にやるとなると困難だが……
「――ぐわっ!?」
囲っている兵の一人に時渡りの力を放つ。見た目何も起こっていないのに、人が一人吹き飛んでいく。
「なっ、なんだ!?」
「い、今……何をした!?」
兵士に動揺が広がる。時渡りの力を見るのは初めてか。だろうな。召喚されてからほぼ誰の目にも留まることなく魔王の城に喧嘩売って死ぬんだから。人間と関わることがない。訓練された兵士といえど驚きは隠せないか。
「文句があるなら、さっさとかかってきたほうがいいんじゃねえかな? その気になればここから一歩も動かずに全員殺せるぞ」
遠近に対応する時渡りの力は、至近距離でも俺に反動なんてない。なおかつ、遠距離だと剣や槍を持った兵士がただただ不利なだけのインチキ能力。弓だって防げるしな。
「どうやら、話の通じる相手ではないようだ。――かかれ! あの時渡りと魔族は、ここで仕留めるのだ!」
懸命な判断だ。
『おおおぉーーっ!!』
兵士たちが一斉に雄たけびを上げ、襲いかかってくる。わかりやすくていいねえ。さすがにこんな序盤じゃ、初見殺しの罠や増援は出てこない……ってそれはゲームの話か。
「ルル、やっちまおうぜ」
「うん」
ルルが羽を使って飛ぶ。上からの攻撃。地べたを進むしかない人間相手に空中からの攻撃が有効だと理解しているのか。戦闘になると、人間よりも知性が~とかまったく問題ないな。人間がだいたい不利だ。ダイヤなら9:1か。あるいは驚愕の10:0がつくかもな。少なくとも、一般兵ごときじゃタイマンで勝ち目はない。複数人で相手をしなくちゃいけないが、上空の敵に警戒というのは人間では厳しいものがある。何が言いたいかっていうと。
「隙だらけなんだな」
「うわあぁっ!」
こっちに向かってくる敵を捌きつつ、ルルばかり見ている間抜けを片手間に狙う。俺の攻撃はただ念じるだけだから、目で見えてさえいればいつでも殺せる。それに加えて、この力は攻撃一辺倒ではないことが昨日の襲撃で判明している。
「てやあっ!」
相手が化け物と知ってなお、気合のかけ声とともに剣を振り下ろす兵士。
「……な、なんだ、これは……っ!?」
「残念っした」
「ぐぁっ!?」
これはバリアにもなる。これも、俺の意思だけで操ることができる。
「ははっ、こりゃ便利だ」
前回はそれっぽく腕を使ってみたが、妙なポーズとかしなくてもバリアは形成される。もしかして攻撃技のほうも、エネルギー波っぽいことはしなくてもいいのか? だとしても、さすがにそっちは手使わないと雰囲気が出ないな。ま、自由にやってみるか。
「剣が……効かないだと!?」
「こ、攻撃が見えない……」
「おい! 敵は時渡りだけじゃないんだぞ!! 早くあの魔族を……!」
いやあ爽快。愉快痛快。ゲーム序盤で出てくるラスボスの気分だ。攻撃が全然通らなくて味方がバタバタ倒れていくアレ。勇者側ならある意味、胸が熱くなる展開ではあるが……悲しいかな、ここの勇者たちにはコンテニューもなければ、これは負けイベントでもない。
始まったばかりで阿鼻叫喚。勇んで化け物退治にやってきた兵隊は、その化け物の力の前に散ることになる。
「くっ……報告の通りか。人智を超える力……」
部隊を率いてるあの男、まともっぽいな。言動がいちいち真面目だ。話せば時渡りのことはわかってくれそうだが、俺の目的には賛同してもらえないだろう。生かしておく必要はない。
「部隊は壊滅。逃げてくれてもかまわないぜ?」
どうせ逃げても無駄だからな。ルルもいるし、俺は遠距離に対応してるから。
「あの魔族がいる限り、逃走は無意味だ。……いざ!」
潔い。この世界の人間はクズばかりだと思っていたが、ちゃんとした礼節のある奴もいるんだな。じゃ、こっちも礼儀をもって対応しようか。
「どーん」
狙いを定めて軽く一発。
「――っく!」
俺の手の動きで危険を察したのか、隊長は腕を使って防御した。すごく手加減したとはいえ、よく防いだもんだ。礼儀だけじゃなく、腕も確かか。もっといい世界に生まれていれば大成したのかもな。
「……そう簡単に、やられはせん!」
それでは。そんな隊長さんに敬意を払って。
「ルル」
美少女の手で殺されるというご褒美、もとい栄誉を与えよう。
すでに敵を射程範囲に捉えていたルルが、隊長の背後で大剣を大きく振りかぶり、横方向にぶった切る。勢いよく開けすぎたビール瓶のフタみたいに、隊長の首は簡単に宙を舞った。頭を失った体が血を噴きながら地面に崩れ落ちる。俺が指示しておいてなんだが、グロい。ルルってば容赦ない。
「悪いね、任せちまって」
「ううん。なんともない」
言葉の通り、ルルに疲れや呼吸の乱れは一切見られない。この程度、ルルには運動にすらならないのか。自分でやれるくせにこき使っているようにも見えるが、これも死んだ彼の名誉のためだ。それと演出。
「んじゃ、行こうか」
「うん」
足止めされたが、少しの時間だ。影響はない。敵とエンカウントしたようなものと思えばいいか。
でも、よくわかったよな。俺らがあの場所から北に向かったこと。足跡でもたどったのだろうか。そうだとすると、この先追跡されると厄介だな。
「ルル、ちょっと飛んでもらっていい? 俺を運んでほしいんだ」
「いいよ」
「頼む。降りる時はまた言うから」
ルルが後ろから俺にしがみつき、羽をはばたかせる。成人男性一人を抱えているとは思えない軽やかな上昇。本当に腕の力だけで俺の体を支えてるんだな。
高空まで飛び上がってから、北へ向けて進む。俺は眼下の恐怖をこらえつつ、元いた場所から離れるのを待った。
……この高さ、いつかは慣れるんだろうか?