五章 迫ってしまったロリ巨乳 ー 2
まだ見ぬ地を目指して歩く。遠い遠い道のり。
だが、退屈はしなかった。ルルがいるから。話題は尽きない。簡単な質問ならなんでも答えてくれる。返答が淡泊なので会話は続かないが、そのぶん数を聞ける。
「ルルは普段、ほかの魔族と話したりするの?」
「リアーネとだけ」
リアは魔族同士でも事務的な話しかしない、と言っていた。魔族間でのコミュニケーションは少ないようだ。リアはその中でもルルとだけはよく話すと言っていた。確かにあの面子だと、ルルが話すのはリアくらいだな。エドとキースはお互いにしか話振らないっぽいし。
「どんな話をするんだ?」
「リアーネは、ルルの体のこととか気にしてくれる」
『元気?』みたいな会話か。ルルも上級魔族。だけど人間ほどの知能はない、みたいなことをサタンが言ってたな。あまり高度な会話はできないか。それを思うと、この世界の教育制度ってどうなってんだろ。数学とかの概念はあるのか? 村娘の学力ってどんなもんだ。それがわかったところで、まず俺が頭悪いから意味ないけど。
「リアーネは、優しい。毎日会ってる」
つまり、エドとかは毎日会うこともないと。同じ城に住んではいるが……いや、住んでるとは限らないのか。そのへんふらふらしてるんだろう。最初に俺が会いたいと言ったとき、呼ぶんじゃなく集めるってサタンは言った。なんらかの方法で召集をかけたんだろう。
基本、自由なんだな魔族って。やっぱり、うらやましい。規律や常識に縛られて生きるなんてつまらない。
改めて思う。この世界に来て正解だった。『良かった』かどうかはともかく『正解』だ。俺にとっては。もちろん、俺が自分で来たわけじゃないけどさ。結果として、地球や日本からの被害者……時渡りをなくせるわけだから、いいことだな。
(…………)
時渡り、か……恐ろしい話だが、もしこの世界だけじゃなく、別の世界でもこんなことをしていたらと思うとゾッとするな。もしそうなら、この力を持ち越せるなら別の世界でも同じように解決したいけど。いっぱい殺せるし、趣味兼仕事みたいなものだと思えば楽しそうだ。
「リアは、時渡りのことでルルに何か話したことってある?」
「んー……」
ルルが人差し指を顎に当て、上を向いて長考している。かわいすぎる。
「あんまり、ないかな……カケル? っていう名前の時渡りのことは聞いた」
あの過去のこともルルは全部知ってるのかな? でもリアが詳しく話していなかったら悪いし、聞かないでおこう。他人の過去というものは慎重に、丁寧に扱わないといけない。詳しく知っているなら聞き出したかったが、この話は広げないほうがいいかな。
「時渡りって結局、なんなんだろうなあ……」
この世界の人間は何故そんなものを召喚しようと思ったのか、何故召喚されたただの人間が、現実離れした異常な力を持っているのか。そういう設定、と言われたらそうなんだろうが……これはゲームじゃなくて現実だ。そんなんでいいのだろうか。
「時渡りがみんな俺みたいなら、楽なんだけどな」
「どうして?」
「いや、仲良くしたいなって」
人類抹殺における俺の負担が減る。
「…………」
「……ん? どした?」
ルルが急に腕を絡めてきた。どうした。前振りとかなかったはずだが。
「……ケントだけでいい」
「あ~……うん、そうだね」
「そう」
妬いてる……ってことでいいのか? これからその時渡りを探しに行くというのに、大丈夫かな。
「ルル。わかってるとは思うけど、これからもう一人仲間が増えるかもしれないんだぞ」
「わかってる……でも、ケントは一人でいい」
そりゃあな。俺のような頭のおかしいのは一人で十分だ。ドッペルゲンガーもお断り。俺はこの世でただ一人。
ルルの嫉妬。かわいいけど、大丈夫かなこれ。この先に時渡りがいるとして、俺とウマが合う人間だったら? そいつと仲良くしたらルルがどういう行動に出るか不安だ。ヤンデレのなんちゃらみたいな展開にならなきゃいいが……ルルはそんなことしないと信じよう。すごくいい子なんだから。
「ま、まあ、なんだ。どうあれ俺はルルの友達だから。な?」
意外と独占欲が強いなルルは。リアと同じで、長い間退屈してたことの反動なのかな。なんにせよ、気をつけたほうがよさそうだ。
「…………」
ルルの返事がない。何故だ。怒っているのか。怖いんだけど。いつもならこういう時は『うん』とか言ってくれるのに。毎回のように返事をするルルが黙っているのはどういうことだ。
「……ル、ルル?」
返事はまだない。不安なので俺から声をかけてみることに。そのために俺が足を止めるとルルも同じくゆっくりと立ち止まった。ルルの目は俺ではなく、どこか遠くを見ている。まさか、拗ねてるとか……?
「……魔力がある」
「魔力?」
魔力、というと。復習しよう。魔力とは、魔族が体内かどっかに所持しているものだ。魔族は魔力を体に取り込み、同時に自分から魔力を周囲に放っている。魔族がたくさん集まると放出される魔力の量も増え、周囲に魔力が満ちる。
地図を見てみる。サタンの城から北西方向。太陽の位置から見てそろそろお昼時。多少離れはしたが、まだまだ魔族の領域。魔力があってもおかしくはないが……?
「なんか、気になることある?」
「……わからない」
ハッキリしない、といったところかな。なら、確かめてみよう。
「行ってみるか。あっち?」
「うん」
ルルの目線の示す方へ。この辺りはまだ平原だが、そっちの方向には森のようなものが見える。あそこかな、ルルが言ってるのは。
「ルル。魔力がある、ってことは、具体的にはどういう状況になるんだ?」
「魔族がいた証拠。それも、かなり力を使ってる」
魔力の発生する要因は魔族。だからそれは自然なことだな。じゃあ、遠くからでも気になるほどの魔力というのは?
「力を使う、って?」
「たくさん戦った、とか」
運動量で呼吸が荒くようなものか? それとも、ルルのように武器を使うのには魔力が必要とか? なんにせよ、魔族が何かしてたんだな。戦闘とかの意図的なことを。普段から魔力の中で過ごしているルルが反応するくらいだし、よほど魔力が強いんだろう。あそこに何があるんだろうか。
視界の奥にある森に向けて歩くことしばし。特に何事もなく到着した。森に入っていく。誰かいるような気配はないが……
「……ん? これは……」
地面に妙な木が落ちている。細長いものが何本かまとまっている。それも、無造作に転がっているというわけでもない。この形は……
「ルル、ちょっと来てくれない?」
自分でも何かを探していたらしいルルは、文句ひとつ言わずにスッと来てくれた。
「これ、ここ持って起こせる?」
ルルに手振りも交えて伝える。不自然に並んだ木材。俺では綺麗には動かせないが、ルルの力ならきっと大丈夫。
「……こう?」
ルルは片手で苦もなく持ち上げた。その腕をいっぱいに上に伸ばすと、木は鳥居のような二本足の形を作る。もちろん、ここが神社なわけがない。入口、だな。三本の木材が組み上がって鳥居みたいになってるが、これ以外にも木材はあったはずだ。四角い家みたいな形になっていたんだろう。
「ありがと。下していいぜ」
ルルが木材を下した。いや、落とした。豪快だ。
「何か、わかった?」
ケロッとしてルルが言う。あの程度の木材、ルルには小枝程度でしかないということなのか。相変わらず恐ろしい子……
「多分だけど、ここに誰かがいたんだな。通り道にしたとかじゃなく、滞在してた。それも、けっこう長い間」
数日のことならここまでのものは作らない。木材は、雑ではあるが組み合わせる箇所が削ってあり、ちゃんと考えて作られたものだとわかる。住居か、最低でも簡易な拠点として使っていたはず。魔族がこんなことはしないだろう。人間だ。
「人間が、こんなところにか……」
時渡りだとしたら、俺の予想よりもずいぶんと近いところにいたことになる。歩き疲れてここに決めたのだろうか。確かに、いい感じに身を隠せる森ではあるが。
「ケント、こっち」
「ん? ああ」
ルルのほうも何かあったようだ。行ってみよう。
ルルについていく。先刻の人間のいた形跡のこともあり、好奇心があった。少々浮かれた気持ちでいたことを、俺はけっこう後悔した。
「うげっ……」
ルルが俺を案内したのは、目を覆いたくなるような死体の山だった。骨になっているからまだマシだが、これが新鮮な死体だった頃の光景を想像するとやばい。吐きそう。こんなものを見るのはもちろん初めてだが、吐き気って本当に襲ってくるものなんだな……キツい。
「……大丈夫?」
「お、おう……」
ルルがいてくれてよかった。ルルが平然としてるからちょっとはマシだ。
……よし、と。しっかりしないとな。自分で殺るのとすでにそうなってるのを見るのとでこんなにも違うとは思わなかった。
「ルル、これは……?」
「魔族の死体。いっぱいある。それと、かなり激しく戦ったみたい」
「それが、ここに魔力がある原因?」
「そう」
ここで戦闘があったのか。大勢の魔族。明らかに人間が作った住居。
「人間と魔族が戦った、ってことなのかな」
「うん……ううん」
「え?」
うん、かと思ったら訂正したみたいだ。違うのか?
「多分、時渡り」
「時渡り……? どうしてそう思うんだ?」
「骨。残りかたが変。頭とか、体……なくなってる」
「……なるほど、俺と同じ力か」
「そう」
死体をよく見たら、どれも体の一部をごっそりもっていかれている。骨がなくなるほど。
……あれ? 骨までいってるってことは、体もグチャグチャになってる……? 俺より凶悪なことしてたのか? それってかなりヤバい奴なんじゃ……
「ルル。こいつらの戦ってたのがいつかって、わからない? 魔力の強さとかで」
「わからない」
駄目か。さすがに厳しいよなそんなこと。俺も検死なんてできないしなあ。しかも魔族のなんて。骨になるまでって、どのくらいかかるんだ?
さっきの木材。まだ形を保ってたってことは、何十年何百年と経っているってことはないはず……多分。となると、魔族と交戦したのもそんな昔の話ではない?
「少なくとも、ここに誰かいたのは事実。魔族に見つかって場所を変えたってところか。だったら……」
地図を広げる。正確な位置なんてわからないがとりあえず、城の北西。地図にも森は記されている。おそらくこの森だとして、ここから場所を移すなら……
「西は、人間の都市がある。南はアイオーンに近づく。ってことは……」
「……北?」
ルルの言う通り。北しかない。東は山だし、それ以前に魔王の城に近づいてしまう。ってことは、北。地図を北に、指でたどっていくと……
「…………」
……偶然って、あるものなんだな。
「最初に、ケントが言ってた場所だね……」
俺が単なる憶測で目星をつけた場所とちょうど重なる。まさかな。本当にただの偶然だ偶然。でも、時渡りがいた形跡があった。これは収穫。俺の憶測にちょっとだけ信憑性が生まれた。
「そこに時渡り、いる?」
「いやー、わかんないよ」
その時渡りがここで死んだ可能性もなくはないしな。あんな死体の山を作ってるくらいだし、やられるほど弱くはなさそうだけど……
とにかく、これは行ってみるしかないな。俺の読みの正誤にかかわらず、確かめる価値は出てきた。あてずっぽうが付け焼き刃に変わった、くらいか。
「……ケント」
「ん?」
ルルに名前を呼ばれて顔を見ようとしたのだが、その時にはルルはいなかった。
「う、うわあっ!?」
直後、男の悲鳴が。なるほど、人間がのぞき見してたんだな。
「ひっ!? や、やめろ……っ!」
ルルが文字通り飛びかかり、頭をひっ掴んだ。剣を出すまでもないってか。怖っ。しかもあの小さな手で大の男の頭を掴むって。どんな握力だ。怖っ。
「ルル! 殺すのちょっと待った!」
ルルの力だとそのまま握りつぶしかねないので、そうなる前に制止。ぴた、とルルの動きが止まった。せっかくの来客だ。挨拶はしておこう。それと、聞きたいこともある。
ルルは男の頭を掴んだまま軽く押し倒し、男が膝立ちに。大の男を素手でねじ伏せる美少女か……そそるものがある。いやそんなことはどうでもいいよ。
「あんた誰だ? ここで何をしてる?」
男は、どこにでもいる中年のおっさんだ。特別な身分ってことはなさそうだな。
「…………い、いででで……っ!!」
黙秘していた男が急に、頭を抱えて痛がり始めた。理由は、考えなくてもわかる。
「ルル、まだやめてあげて。……おっさん、意地張ってもいいことないぜ? こっちとしては、何も言わないなら殺すだけだから。死にたくないならしゃべったほうが得だぞ」
黙秘しても、それが権利として認められるわけじゃない。俺の判断で処断する。ここでは俺が法律。
「じゃ、自己紹介でもしようか。俺は時渡りだけど、何か質問ある?」
「時渡り……やはりそうか、化け物め……」
出た、化け物。みんなそう言うんだよな。しかも、やはりって言ったな。……よし、ちょっとカマかけてみるか。
「せっかく静かに暮らしてたのに、邪魔されるのは困るな。あんたはここで何をしてたんだ?」
「ふん! 化け物が家の近くにいちゃあ、こっちが静かに暮らせねえよ!」
なるほど。ここで時渡りが暮らしていたわけだな。
「そんなこと言われてもな。たかが数日滞在したくらいでウダウダ言うなよ」
「とぼけたこと言ってんじゃねえ! みんな、もう一年も怯えて暮らしてんだ!」
なーるほど。一年もここにいたのか。よく見つからなかったな。いや人間には見つかってたのか。気づかなかったのかもしれない。そしてこのおっさんの様子からして、人間はその時渡りに直接手は出していない。となると、逃げだした理由は魔族に見つかったから、で間違いなさそうだ。よし、もういいかな。
「ところで。お前が知ってる時渡りってのは、本当に俺なのかな? 人違いだったりしない?」
「なにぃ……? ……そうか、お前はあいつの仲間か。クソッ、まさか化け物がもう一人いやがったとはな……」
仲間なんて、そんなこと一言も言ってないんだがな。このおっさんアホだ。つまり、俺とは違う誰かがいたと。これはもう確定でいいよな。
「いろいろと教えてくれてありがとな、おっさん。ルル、もういいぞ」
ルルに指示して、俺は顔を背ける。その少し後、鈍い激突音がした。何かが砕けるような音も同時に聞こえた。重くて、耳に残る嫌な音だった。掴んだ頭をどこかに力いっぱいぶつけたんだろうなきっと。怖い怖い。
ひと仕事終えたルルが俺の傍らに戻ってきた。もうここに用はない。進路を戻そう。予定通り、ここから北にある森へ。
正直、時渡りがいてもいなくてもどっちでもいいや的な気持ちだった。しかし今、可能性がはっきりと見えてきた。これはひょっとするとひょっとするかもしれない。
ただ、不安も大きくなった。あの魔族の死体の数々。俺がやるよりもえげつない殺し方をしている。怖い人かもしれない。よくよく考えてみると、いくら同じ時渡りといえど俺と近い年齢とは限らない。カタギじゃない人かもしれない。その時は……見て見ぬふりでもしよう。最悪、戦わなければならない。
「行こう、ルル。北だ」
「うん」
冒険に出てわずか数時間。早くも進展があった。意外も意外な展開に、ちょっとテンション上がる。ルルがいる以外はしばらく退屈な旅になるかと思ったが、数奇な偶然もあったものだ。
やはりこの世界の俺は上り調子。まだまだいいことありそうだ。




