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四章 目覚めてしまった才能 ー 2

「事の始まりは、それまで禁忌とされていた召喚の儀式が成功した時だ」


 禁忌? また中二病なワードだな。時渡りの召喚って禁忌だったのか。今じゃぽこぽこ呼び出してるようだけど。禁忌じゃなくなったのか。


「今では魔王を討伐するための存在だが……当時、召喚された人間はそのように利用されることはなかった。時渡りと命名され、崇められた」

「崇められた、ねえ……」


 今はとてもぞんざいに扱われている。でも、この手の神話めいたものってそんなものかもな。


「その後、召喚は何度となく行われることになった。だがある時、一人の時渡りが力を使った。人間が人智を超える力と呼んでいるものだ。その力は強大で、周囲の人間を大地もろとも消し去った」


 確かに人智は超えてるけど、ずいぶんと暴力的な力だ。おそらくそれと同じものを俺も今日試したけど、どうやら戦闘に特化した能力らしい。


「この一件以来、時渡りは化け物として忌み嫌われることとなった。人間がその力を魔王へと向けたのは、それからかなり後のことだ」


 一度力を暴走させたから、か。ファンタジーではよくある話だな。んでその後、その化け物の力で魔王を倒そうって話になったと。……あれ?


「ちょい待って。召喚はこの世界の人間が、自分からやってたことだろ? 時渡りが化け物だってんなら、呼ばなきゃいいだけの話じゃないか?」


 悲劇は繰り返さないほうがいいに決まっている。時渡りが力を暴走させてしまったのなら、時渡りを呼ばなければいい。話を聞く限り、最初から魔王を倒すために時渡りを召喚していたわけではない。じゃあ、当時の召喚の目的はなんだ?


「……時渡りの、召喚の方法については?」

「難しいことではない、とだけ話した」


 リアーネがサタンに何か確認を取っている。時渡りの召喚? 確か、十分な魔力さえあれば魔術師なら誰でも、くらい簡単なんだっけ。


「そういえば、この世界での魔術師ってどんなことができるんだ?」


 俺のイメージだと、炎だの氷だの出したりするんだが。


「呪い、と言えば人間であるお前にはわかりやすいか。人間の視覚や聴覚、精神に影響を与える。もっとも、魔力がなければ何もできないが」


 呪術師かよ。おっかねえな。


「じゃあ、魔力ってのは? 人間も持ってるの?」

「魔力を有するのは、我ら魔族のみだ。魔族は体に魔力を有し、それを周囲にも振りまく。多数の魔族が寄り添うことでより多量の、より強い魔力が満ちる。この城周辺の魔力が強いのはそのためだ。そして、魔族自身にも魔力の供給が必要だ」


 ……え~と、つまり? 呼吸と光合成みたいなものか? 魔族は魔力を所持していて、呼吸として酸素を吸うように魔力を得る。同時に光合成のように、自分から魔力を外に流す。そんな魔族が数百数千と集まることで、魔力が満ちた快適な空間が作り出せると、そういうことかな。


「んー、まあ、わかった。なんとなくだけど。話の腰を折っちまったな。時渡りの召喚が……なんだっけ」


 話を戻そう。召喚は簡単にできる。で、それが化け物話とどう関係するのか。


「いえ。折っていませんよ。まさしくその『魔力』が関わっているのです」

「そうなの?」


 サタンに代わってリアーネが言った。魔力が? どういうことだ。


「魔力は魔族しか所持していない。人間が魔力を使うには、魔族が必要だ。だが魔族と人間は、古来より敵対関係にある。人間が魔力を得ることは容易ではない」


 ふむ、そうだな。敵である魔族にお願いして魔力を分けてもらうのではないのなら、奪うしかないか。


「仮に魔族を根絶やしにすると、魔力はいずれこの世から失せる。人間が魔力を思うままに使用するためには、魔族を生かしたまま掌握する必要がある」

「……だから、魔王を倒して支配するのを狙ってる?」

「そうだ」


 なるほど。魔王は倒すが、魔族は魔力として利用するために生かしておきたいと。根幹は、魔力を好き放題したいという人間の欲望だな。魔族と仲良くすれば済むことなのに、というのは理想の話かね。


「それで、魔王を倒すために時渡りを使ってるってのか? 化け物だって嫌ってる奴をわざわざ呼んで? なんでまたそんなことを。使うにしても、もっと効果的な方法ってものがいくらでもあるだろ」


 俺はただ、疑問に思ったことを口に出しただけだった。あまりにも非効率的で噛み合わない、時渡りの扱いに。


 なのに、俺のその言葉で急に空気が重くなったように感じた。サタンは堂々と立ったままだが、リアーネは暗い顔でうつむいている。気になってルルを見ると、ルルは無表情でいた。何を思っているのかは読めないが、いい顔をしていないのは確かだ。


「ケント。お前は察しがいいと思っていたが……これには気づかんか。人としての本質が、この世界の人間とは違うのかもしれんな」

「どういうことだ?」


 俺がズレてるって? 確かに、俺は普通の人間と同じ思考はしていないとは思うけど。今日だって人殺したり町壊したりしたしな。


「考えてみるがいい。時渡りには強大な力がある。魔王を倒せる可能性がある。その力を『使わぬ場合』……誰が魔王と戦う?」

「……はあ? そんなもん、この世界の人間が戦えばいいだけの話じゃ――」


 絶句。


 その瞬間、俺は、絶句というものを味わった。


 魔王を倒すのに、時渡りを使う。


 しかし、時渡りは恐ろしい力を持つ化け物。


 化け物は嫌い。嫌いだから呼びたくない。


 でも時渡りは魔王を倒せるかもしれない。


 時渡りを呼んで、魔王を倒させればいい。そうすれば……


「…………自分たちは何もしなくていい、か」

「そうだ」

「死ぬのは、時渡り……別の世界の人間だけで済む」

「……そうだ」


 ……なるほど、ねえ。納得したよ。この世界の人間が、日本人である俺と同じ思考回路なのかどうか。どうやら、似ているようだ。自分たちは楽をする。末端、よそ者がどれほど苦しもうが知ったこっちゃないと。騙して、いいように使うと。


 俺が何の説明もなく魔王退治に向かわされたのも、こういうことか。召喚の場が魔王の城から近いのは魔力のこともあるが、時渡りに何も考えさせずに話を進めるため……


「時渡りを一人ずつしか呼ばないのは、変な気を起こさせないようにかな?」

「おそらくそうでしょうね。もしも複数人が同じ世界から召喚された場合、結託して行動する恐れがあります。それが魔王討伐ならばいいでしょうが、反抗してくることを考えると……」


 ま、はなっから組ませないようにするのが一番だわな。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。一人ずつ特攻させて、いつか魔王を倒せれば儲けもの、と。


「そんなことを三百年もやってるのか?」

「その通りだ」


 バカじゃねえの。この世界の人間こそ死ねばいいのに。


「何人の時渡りが犠牲になった?」

「……わからん」


 だろうな。サタンは飽きるほど相手にしてるんだし。


「はーん……俺もその一人になる寸前だったってことか。ハハ、笑えるな」


 変な気を起こさなければ、俺はとっくにあの世行きになってたか。危ない危ない。


「――ん? どした、ルル?」


 ふと、腕に感触があった。ルルが俺の右腕を掴んでいる。


「……ケントは、死んじゃだめ……」


 影のある吸い込まれそうな瞳が俺を見上げている。こんな心境じゃなけりゃ、泣きながら抱きしめたくなるほど愛らしい表情なのだが。


「わかってる。そうならないように、俺はここにいるんだからな」


 今はそんな余裕はない。はらわたが煮えくり返っている。ふざける余裕も、笑うゆとりもない。ただ決意を固め、実行する。今はそれしか考えられない。この世界の人間を消す理由もできた。


「でもさ。サタンは召喚に魔力が必要なのを知ってたんだろ? 近くにあったあの施設、潰そうとは考えなかったのか?」


 解決には至らないとはいえ、とりあえず城の近くで何度も召喚されるのは防げそう。でもサタンはそれをやらなかった。


「考えはした。だが、それで人間が諦めるとは思えぬ。壊したところでその次に何をしだすかわからん」


 確かに。アホみたいに一人ずつ召喚するのを相手するほうが気が楽か。頭の悪い人間は今のやり方がすべてで、新たにいい方法なんて考えもしない。サタンが俺と同じことを過去にしたとしても、また同じ方法で魔王を倒そうとするだろうな。もしくはもっと、時渡りの命を顧みないえぐいことをしてくる。三百年分の犠牲で済んだ、と考えるべきかな。


 でも、もしそうだとしたら。俺のいた日本、地球から、いったい何人の命が消えたのだろう。それも理由なく異世界に呼び出され、この世界の人間の言いなりになって何の意味もなく死んでいった。殺したのは魔王だ、と考える奴もいるんだろうけど……俺にはそんな考え方はできない。そもそもの原因は召喚の儀式。人間だ。


「サタンよ。人間を恐怖させるには、どこを攻めればいい?」


 時渡りの力で何もかも消し飛ばすくらい、今の俺ならば造作もない。でもそれだと味気ない。人間にはきちんと、痛みや恐怖というものを知ってから死んでもらいたい。


「大陸の西の果て……王都がよろしいかと」


 提案してくれたのはリアーネだった。王都。確かにそこならよさそうだ。あの緑の髪のお姫様みたいな人にも会えるかも? 今更会ったところで何すんだって話だが。


「西か。遠いな」


 ここが東の端だからな。文字通りの大陸横断ってわけだ。まあ、ゲームみたいでいいじゃないか。距離にして何キロなのかはさっぱりわからんが。


「ま、のんびり物見遊山といくか。とりあえず俺一人いればいいよな」

「ルルも行く……!」


 ルルが腕をいっそう強く握った。ちょっと痛い。素が怪力だから。


「もちろん、来るってんなら拒否はしない。最低限俺が行けばいいってことを言っただけさ。行こうぜ、ルル。……いいかな? サタン」

「ルルがそう望んでいるのなら、我が止める理由はない」


 優しいね魔王様。駄目だと言われたら説得するつもりだったけど。ルルは戦力としてぜひとも欲しい。かわいい子と一緒に冒険するだけでも強力な味方なのに、その上強いときてる。特に接近戦で強い味方というのは心強い。俺がどっちかと言うと遠距離タイプの能力だからバランスがいい。


「でも、ここを離れてもルルは大丈夫なのか? 西は魔力が薄いだろ?」


 魔力が集まっているのは、魔族の住処であるこの城周辺。大陸の東端。理屈では、西に行けば行くほど魔力が薄くなっていくことになる。


「ルルは上級魔族だ。周囲に魔力がなくとも、自らの魔力だけで活動できる」

「へえ~、すげえんだな。下級や上級ってのは、どう区別してるんだ?」


 俺が引き連れてた飛行型は下級魔族。ルルは上級魔族。中級もいるのかな。


「下級魔族はまともな知性のない、戦闘能力も獣程度の魔族。簡単な命令しか受け付けない。中級魔族はより高い能力を持つ。上級魔族は我を含め、お前も知っている五人だ」

「ほお」


 サタン、リアーネ、ルル、キース、エド。上級魔族はこれだけか。確かに、話を聞いたりしゃべったりできない魔族と比べたらかなり高等な存在だ。中級と上級でかなり開きがあるんだな。それだけ貴重ってことか。


「ルルはいいとしても、王都までとなると……大勢を連れていくことはできませんね」

「いいよ、兵は。たくさんいてもどうせ扱いきれそうにないし」


 俺はただの大学生であって戦国武将ではない。軍の動かし方とかわからん。戦略シミュレーションより一騎当千アクションのほうが好きだし。


「ケント様がそうおっしゃるのなら……しかしそうなると、随伴はルルだけということになりますが」


「俺も行くぜ」


 また新たな来訪者。しかも今の声は……


「よう。エドじゃないか。キースも一緒か」


 やっぱりエドだ。そもそも喋れる魔族が残り二人しかいないな。この部屋に全員が揃った。


「エド、今の言葉はどういうつもりですか?」


 俺も行く。そう言ったな。今の話の流れだと、俺と一緒に西の王都に行くって意味になるが。……ルルがめっちゃ嫌そうな顔してる。俺の位置からだと横顔だけど、それだけでもよくわかる。それくらい表情が歪んでる。


「言った通りの意味さ。そこの時渡りは、人間を消すために人間の住処まで行くんだろ? 俺も混ぜろってんだよ」


 まあ、そういう意味だよな。どういう風の吹き回しなのかを聞きたい。昨日はあれだけ俺のことを嫌っていたのに。


「昨日の今日で、急な話だな。何かあったのか?」


 俺はエドやキースに何もしていない。人間の都市を一つ消しただけ。依然として嫌われているはずだが。


「時渡り、テメエに力があるのはわかった。人間のくせに、人間を殺したいのもわかった。だったら、俺も混ぜろ。俺も人間は気に食わねえ」


 単細胞――いやいや。実にシンプルな思考だ。魔族は強い者に従う。エドはそれに忠実なだけだな。


「キース、お前は? エドと同じ考えか?」


 エドに比べて聡明そうなキース。同じ魔族なら本能はあるとしても、キース個人はどういう考えを持っているのか。


「私は、あなたのことを認めるつもりはありません。エドもそれは同じ。ただ、力があることは確認しました。我々と敵対しないのであれば、あなたのご自由にしてくださって結構」


 ふむ。要約すると『お前のことは嫌いだけど強いからまあいいや』ってところかね。俺は魔族と敵対するつもりなんてさらさらないし、利害は一致する。ただ、一つ気になることが。


「俺の力のことはどうやって知ったんだ?」

「そりゃ、上から見てたからな」


 見てたのかよ。覗きかよ。趣味悪いな。だったらルルみたいについてくればよかったのに。ってことは、キースも同じく見てたのか。やれやれ……二人とも素直じゃないな。


「別に俺はどっちでもいいけど……ルルはお前と行きたくなさそうだぞ?」


 めっちゃくっちゃに嫌ってるからな。今だって、ゴミを見るみたいな目で見てるぞ。怯えるとか避けるとかじゃなく、ガチで嫌ってるぞ。こんなので旅なんてできるか?


「人間はどうせ地面を歩くんだろ? 俺は見失わないように空からついていくさ」

「ほう。なるほど」


 パーティを組むけど別行動と。ルルにとってはそういう問題じゃない気もするが。


「…………」


 ルルは予想通りに苦い顔をしている。そもそもついてくんな、という顔だ。


 これ、無理じゃねえかなあ……エドを連れていくのはいいとしても、ルルが不機嫌になるのはかわいそうだし俺も嫌だ。正直、ルルとエドのどっちの意見を採用するかで言えばルルを選ぶ。


「ん~……」


 何か折衷案はないものか。エドは行く気まんまん、ルルはついてくんなオーラむんむん。こんな時は……


「リアーネ、どうすればいいかな」

「えっ……!? そ、そうですね……」


 リアーネに助けを求めると、肩が跳ねるほど驚いていた。問題児であるエドとキースがこんな態度を取るのが意外だったのかな。


「キース、あなたはどうするのですか?」


 リアーネがキースに話を振った。そういえばそうだな。エドはいいとしてキースはどう思っているんだろうか。


「……人間を滅ぼす。その意見には私も賛成です。必要なら、協力もしましょう」


 そこは一緒か。ルルも言ってたけど、魔族って本当に人間が嫌いなんだな。まあ人間のほうが魔族を敵視しているようだし、そんな状態が何百年も続けばこうもなるか。


 キースも目的そのものは俺と合致するというわけだな。というか、目的は全員一緒か。その上でサタンはこの城に残る。リアーネもおそらくそうだろう。俺とルルは旅に出る。じゃあエドとキースはどうするのか。


「ならばエド、キース。お前たちは単独で動けばよい」


 微妙な空気の中、サタンが言った。


「目標が決まっているのなら、固まって動く必要もない。お前たちは空を行け。効率的だ」


 人間の領土に攻め込み、せん滅する。そのために俺がエドやキースと行動を共にする必要はない。空を飛べるなら飛んだほうが移動は早い。わざわざ俺に足並みをそろえなくても、エドとキースが組んで自由にやればいいってわけか。ルルはエドとキースの顔を見ずに済む。


「それでいいんなら、そうさせてもらうぜ」

「私も、異論はありません」


 エドとキースはそれでいいらしい。まあそうだよな。一番気楽な案だ。ただ、問題もある。


「でも、敵にも時渡りはいるかもよ? 大丈夫なのか二人は」


 時渡りに勝てる魔族はサタンだけ。もし、新しく召喚した奴に出くわしたら……


「みくびんなよ人間。飛べるんだぜこっちは。お前らが走るよりもずっと速くな」


 飛べる。それはわかってる。しかし、だ。


「それを言ったら時渡りも、力を使えばある程度までは撃ち落とせるみたいだぞ?」


 射程限界はわからないが、時渡りの攻撃は遠距離対応。しかも速い。なめてると一発でやられることになるかも。


「ご忠告どうも。私もエドも、自分の身は自分で守れます」


 ならいいんだけど。時渡りの能力は俺にとってもまだまだ未知数。未知数な今でもとんでもなく凶悪なんだから、全貌が解明されたらどれほどになるか。


「じゃ、決まりだな。俺はルルと行く。そっちはそっちで好きに動いてくれ」

「へえ、好きにやっていいのか? お前の邪魔になるかもよ?」


 好意的にはなったが、こっちにケンカ売ってくるのは変わらないのな。エドは根っこからこういう性格か。


「かまわねえよ。それはお互い様だしな」


 俺の行動によって、エドやキースにヘイトが向くこともある。そこは臨機応変に。上級魔族二人でどこまでのことができるのかは知らないけど。


「よーし。行こうぜ、キース! ひっさびさに暴れてやる!」

「そうですね……何百年振りになるでしょうか」


 エドが騒がしく、キースが静かに、部屋を出ていった。


 廊下でエドがでかい声で喋っているのがだんだん遠ざかっていくのを見送ってから、俺はサタンに向き直る。


「……何百年も前に、暴れたことがあったのか」

「時渡りが使われるより前、人間は魔族と小競り合いをすることが多々あった。その頃だな。エドもキースも、そうして人間と争っているところを見つけてここに招いた」


 あ、そうなんだ。最初から魔王軍にいたわけじゃなくて、スカウトされたのか。


「ルルとリアーネもそうなの?」

「ルルは、リアーネに誘われた」


 ルルが答えた。そうそう、リアーネのほうが先なんだったな。でもルルが暴れてたってのは想像しにくいし、のんびり昼寝でもしてたところを勧誘されたんだろうか。


「リアーネはいつからここに? ルルよりも古株だって聞いたけど」


 せっかくだし聞いておこう。これからしばらく会うことがなくなるだろうし。


「私は……」


 俺は軽い気持ちで聞いたのだが、リアーネは言葉に詰まってしまった。どうしたんだろうか。もしかして、地雷を踏んだか?


「いや、言いにくいことだったらいいんだ。ごめんな」


 無理に聞き出すのはよくない。仲間に入れてもらったとはいえ、まだ二日目。リアーネも女の子だし、男に言いにくいこともあるだろう。俺が軽率だったということだ。


「……いえ、お話しします。時渡りであるあなたには、知ってもらう必要がありますから」

「必要……?」


 奇妙な言い回しだ。重要なことか。時渡りというのが特異な存在だからいろいろと面倒な話があるんだろうけど、これは気になる。お言葉に甘えて、聞いておこうか。


「……それなら、いい時間だし飯にしないか? 今日は酒も手に入ったし。楽しい話じゃないのなら、落ち着いてゆっくり聞きたいな」


 暗い話をじっと聞くのは苦痛だし、話すほうもしんどい。酒でもやりながら聞こうじゃないか。


「ほう、酒か。久しいな。我も同席させてもらおうか」

「おお、いいぜ。飲もう飲もう」


 魔王と一献。粋なことじゃないか。


「ルルも……!」

「もちろんだ。ルルも来いよ」

「うん……!」


 でもルルは酒は――って、そうか。魔族だし年齢も……俺が気にすることじゃないな。未成年の概念はおろか、飲むのが普通って可能性もある。酒に制限かけるのは人間だけなのかもしれない。ここは空気を読んで、口出ししないでおこう。


「それじゃ、準備しようか。リアーネ、手伝うよ」

「ありがとうございます。ではまいりましょう」

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