♪第四章♪ 茄子色のセレナーデ *10*
カフェに戻ってきた実梨と漣を出迎えたのは、里桃でも里杏でも、庄一でもなく、見知らぬ浅黒肌で長身の青年だった。スラッとしたモデルのような容姿に、しかし服装だけはどこか古臭い浴衣姿だ。
誰だろう、と顔を見合わせて首を傾げた二人に、美青年はニッと白い歯を見せて、見覚えのある笑みを浮かべた。
「おかえりさん、実梨ん! お騒がせなサボり魔、漣!」
その関西訛りと、透きとおった紫色の瞳は――。
「「蒼空!?」」
「どうや、俺様また一段とカッコ良うなったやろ? これでようやく、漣と対等に実梨んを取り合えるっちゅーわけや!」
「マジで、実梨のこと本気だったのかよ!」
「てゆーか、蒼空にはまだ私の名前のこと、話してなかったのに……」
美咲ち、に続いて、実梨ん、という妙な呼び方にも、何だか納得がいかない。
「アホさらせ。俺様の領域で汐どのと堂々と話してたやろが。とうに知ってたがな」
知っていて、皆が知るまで黙っていてくれたというのか。
「それはともかく、さっきから向こうで実梨んのちっちゃい電話、鳴ってたで」
「え、うそ!?」
店を飛び出した時、キッチンに置き忘れていったスマホを実梨が慌てて手に取る。
画面を見ると、庄一からの着信が5件、メールが2通入っていた。
美咲に何かあったのでは……と、逸る気持ちを抑えながらメールを開き、絶句した。
ボロボロと涙をこぼし始めた実梨に、漣が驚いて駆け寄る。
「実梨、どうかしたのか? もしかして、美咲さんに何か?」
「……うん、うんっ。美咲の、意識が戻ったってぇ……」
安堵と嬉しさの混ざった涙をひとしきり流した後、実梨は再びカフェから飛び出した。
その表情は、漣がずっと見たかった、光輝くような笑顔だった――。




