♪第四章♪ 茄子色のセレナーデ *2*
「なぁ、ナスやん……じゃねぇや、蒼空……」
美咲が休憩に入っているのを見計らい、漣は蒼空をナスイーツで釣って話しかけた。
「なんや、兄ちゃんの未来のことなら知らへんで」
さっきの話の続きなら、もうしないぞ、と顔を背けつつ、その手だけは魅力的なおやつ――冷えた透明なナス形の器に入っているパンナコッタ――に伸びている。
北海道産の『ハスカップ』というベリー系の甘酸っぱい果実とナスを一緒に煮て作った、濃紫色の鮮やかなソースがかかっていて、見るからにおいしそうだ。
「そうじゃなくてさ、もし知ってたら教えて欲しいんだけど……美咲って、どっか身体、悪いのか?」
答えてくれたら渡す、というように、漣は蒼空の手の届かないところに器を持ち上げ、質問した。
「は? そんなん本人に聞けばええやろが」
「んなデリケートなこと、女性に聞けるわけないだろ。俺、何度か夕飯に誘ったんだけど、用事があるとか言って、いっつも断られて。最初は断るための口実かなーと思ってたんだけどさ」
「後を尾行たんか?」
「っていうか、帰りに駅前で暇つぶししてたら、偶然……」
美咲が駅前にある総合病院に入っていくのが見えたのだ。
最初は誰かのお見舞いなのだろうと思った漣だったが、お見舞いの花を持っていたわけではなかったことに気付いた。そして聞くに聞けず、不安を抱き始めたのだった。
「なぁ、何か知らねぇ?」
「知るかボケ。俺様は外に出られへんねんで。そんな外のことまで知るわけないやろ」
「あー……そういえば、そうだっけ」
「ほな、逆に兄ちゃんにひとつ質問や。この店を開く前に会った美咲ちと、今の美咲ち、どっちが好みや?」
「……は? 質問の意味わかんねーんだけど? 美咲は美咲だろ?」
「その答えじゃ、三十点しかやれんな。ほな、おまけの質問。ナス姿の俺様と、ちょっと前の俺様と、今の俺様、どれが一番カッコええと思う?」
「なんかムカつく質問だな、おい。でもまぁ、今なんじゃね?」
「ほなもう一回、最初の質問に戻るで。前の美咲ちと、今の美咲ち、どっちが好きや?」
蒼空の問いの意味に、ようやく気付いた漣が、そういうことか、とつぶやく。
「そうだな。俺は――」




