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エッグプラネットカフェ ~茄子神様の舞い降りた店~  作者: 矢凪
♪序章♪ 茄子色のプレリュード
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♪序章♪ 茄子色のプレリュード

 ♪ ルマBLOG  やっぱり音楽とナスが好き ♪


 ☆オススメのカフェ☆          07/ May / 20XX Written by . RUMA


 今日は僕が最近ハマっているお店を紹介しようと思う。

『 Egg Planet Cafe ~ エッグプラネットカフェ~ 』

 ウチの近所のあや商店街に先月オープンしたばかりの小さなカフェなんだけど、このカフェの特徴はなんといっても、ナス!

 ナスって、野菜のナスですよ。茄子ナスなすび!(←しつこいっ)

 メニューにはもちろんのこと、お店の入口から店内の備品、食器に至るまで、

 ぜーんぶナスに関連したグッズが使われてる。

 ナス好きな僕にとっては、まさにパラダイスな空間だったりする(笑)

 ランチタイムは混んでるらしいんだけど、僕がいつも行く昼過ぎは穴場な時間帯なのか、あまり人が入ってなくて、すごく静か。

 店内に流れている音楽はヒーリング系のゆったりとした曲とかで落ち着くし。


 ここのお気に入りメニューは、スコーンと紅茶のアフタヌーンセット。

 毎朝焼いているというスコーンは、外はサクっと、中はふんわり、

 添えられているナスジャムは、レモン風味のさっぱりとした甘さがイイ感じ。

 ポットで出してくれる紅茶は、茶葉を数種類から選べるんだけど、僕的にはアッサムがオススメかな。

 あんまり和みすぎて、前に何度か、バイトの休憩が終わる時間ギリギリになって慌てたこともあったりして(苦笑)。


 あとは……

そうそう、不思議なことがひとつある。

 それは、カウンター席のひとつに『茄子神様なすがみさまの席』という謎のプレートが置かれていること。

 ナスを扱ったカフェだから、ナスの神様をまつってるってことなのか?

 それとも、本当に茄子神様という人(神様?)がそこに座っているのか?

 僕はまだ見たことがないけど、もし存在するとしたら、あんな素敵なカフェなんだから、きっと素敵な神様なんだろうな。


 もしこのブログを見て、カフェへ行った方がいたら……そしてもし、茄子神様を見かけたよ、という方がいたら、どんな神様だったか、コメントやメッセージをくれると嬉しいかも。


 ……と、今日は珍しく音楽の話じゃないことを語ってみた。

 あ、順調にいけば、今週末には新曲をアップできると思うので、お楽しみに♪


 『サウスウィンド』のアルバムより『フェイバリット』を聴きながら。


 ***


「りっちゃんってば、また例のブログ見てるの!? ちょっとは人の話も聞いてよ!」

「……ふぇ? あーちゃん、なんか言った?」

 お風呂上りでまだ濡れたままの長い黒髪をそのままに、りっちゃん――芹川せりかわ里桃りとは、双子の姉である里杏りあに裏返り気味の声で返事をした。

 しかし、ソファに座っている里桃の視線は、なおもタブレット端末の画面に向けられたまま。

 心ここにあらずな態度の妹に、里杏はベッドの上に力なく腰を下ろすと、イラだたしげに髪をかきむしりながらうなり声を上げ――やがて力尽きたようにパタンと横たわった。

 里桃りと里杏りあ、顔の作りや体型や、声のトーンは双子らしくそっくりなのに、こと性格に関しては正反対だ。

 黒髪ロングに眼鏡をかけた里桃は、人と喋るのが苦手で、その心は柔らかい桃の実のように傷つきやすく繊細、恐がりだけど、どこかマイペース。

 対して、明るい茶色に染まった短めの髪にコンタクトをしている里杏は、喋るのが大好きで、せっかちだけどしっかり者、干しあんずのように隠れた人気者といった感じだ。

「……もぅいい。りっちゃんには買ってきてあげないもんね!」

「えぇっ……なんかよくわかんないけど、買ってきてよぅ。ねっ、あーちゃんお願い〜!」

 勢いよく顔を上げ、ようやく里杏に向き直った里桃は、顔の前で手をパンッと合わせて謝る。が、時すでに遅し。

「知ーらない! どうせ、りっちゃんは、あたしなんかよりブログのきみと紅茶の方が好きなんでしょ!」

 里杏はふくれっ面のまま立ち上がると、ソファの前のテーブルに置かれていたアイスコーヒーを手に取り、タブレット端末の画面をのぞき込みながら妹を冷やかした。


 里杏はまったくといっていいほど興味がなかったが、どうも里桃は最近、『ルマ』という一人のミュージシャンの卵に熱を上げているようだった。

 里桃いわく、動画サイトで配信されている、ルマが作った曲に一目惚ひとめぼれ、ならぬ一聞惚ひとぎきぼれれしたのだという。

 その彼――ネット上なので、本当の性別はわからないが――のブログを見つけたのが、半年ほど前のこと。

 それから毎晩のように更新されるブログ記事のチェックが、里桃りとの日課になっていた。

「ち、ちがうよ~。ルマくんはあこがれっていうか尊敬してるっていうか……って、そうじゃなくて、聞いて聞いて~。なんと、ルマくんってば、うちらの高校の近くに住んでるっぽいんだよ~。でね、いつも彼が行くお店があるみたいで~」

「へー、そりゃよかったねー」

 まるで感情のこもっていない返答に、今度は里桃がムッとしかけ、しかし慌てて首を横に振った。

 ここで里杏りあ……姉の機嫌をそこねたら、今後、頼るに頼れなくなる。それは困る、非常に困る――。

 瞬時にそう考えた里桃は、平静さを取り戻して丁重な姿勢で言い変える。

「えっとね……今度、私と一緒に行って欲しいカフェがあるですけど……」

「えっ、カフェ? なんていうトコ?」

「うふふっ、それはね……」

 里桃は姉にようやく気に留めてもらえた安堵感から柔らかい笑みを浮かべ、ルマの書いたブログ記事を指さすと、『エッグプラネットカフェ!』と答えたのだった――。 


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