美しさとは?
ラーズはフランの言葉に我が耳を疑った、リンカのように美しい女性が容姿の不遇を嘆き自殺していると言う事実に戸惑う。
「フラン殿は、そのような現実をどのようにお考えですか?」
「……同じ女として不憫に思うが、我々が住む大陸は見ての通り女が外に出て仕事をし、夫となる者と子供を養う、ユナス大陸では男が女のように家族を養うと聞いたのだが本当かい?」
「はい、こちらの女性は皆さん逞しく健康で驚きました」
「はははっ、それはこちらとて同じだよ。 ユナス大陸から年に数度海を超えてくる男がいる時点で驚きなのだから、メイロウ大陸では女が稼ぎ、男は家を守り子を育てるものだからね」
フランの言葉に頷く。
「ユナス大陸とメイロウ大陸は長い年月をかけてそれぞれ文明を築いてきましたから、時の流れに伴い次第に男女の役割がそれぞれの大陸に適したものに変化していったのでしょう」
その違いが『女毒死病』と言う疫病によって被害に格段の差を産み出したのだから皮肉なものだ。
「漂流していたリンカ、あの娘はユナス大陸であったなら大変な美人です、そして『女毒死病』によって多くの女性を、失ってしまったユナス大陸にはひとりでも多くの花嫁が必要なのです」
水面から救い上げたリンカはまるで何かを諦めてしまったような哀しい表情をしていた、その理由がフランの話でわかった。
「そうですか、もしかしたら彼女は……彼女のような女性はメイロウ大陸に居るよりもユナス大陸へ渡ったほうが幸せかもしれませんね」
「かもではありませんよ、幸せにしてみせます」
ラーズの断言を聞きながらフランは思う。
男性が少ないメイロウ大陸では、家族を守れない女に嫁ぎ先など無いに等しい。
父が早くに他界し、小さな手で懸命に家族を守ろうとした優しく大好きなフランの姉は、成長するに従って己の脆弱さを嘆き悲しみ、自分とは正反対に逞しい美女に成長し縁談が絶えないフランに嫉妬し、自分の不器量に絶望し海へと帰ってしまった。
常々フランはいつか姉の様な不遇な扱いを受ける女性に、幸せになっていたほしいと考えていた。
目の前にいるラーズの瞳に嘘はないように感じる。
「……明日の早朝この街を出立し、鳥車のに乗り王都へ向かう。 今夜はゆっくり休まれよ」
船を降りるフランを見送り、ラーズはリンカが運ばれたはずの治療院へ急いだ。