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祝福の後押し

 リンカは人混みを掻き分けて人と人の間をすり抜けるようにして港まで走り続けた。


 疲労にもつれる足を殴りつけて叱咤し、道の小石や段差に何度も足を取られて転んでは立ち上がった。


 ワンピースから覗く膝も、身体をかばって擦りむいた両手のひらからは鮮血が滲んでいてジンジンと痛みを訴える。


 それでもリンカは走り続けた、今はもうラーズと会えなくなると思うたびに胸に走る苦痛のほうが酷い。


「すみません通して下さい!」


「ちょっと押さないでよ!」


「危ないわね、気を付けなさい!」


「お願いします、通して……」


 リンカの声は周りの歓声に打ち消され気が付いて貰えない。 このままでは間に合わない。


 浮かぶ涙をワンピースの袖口で乱暴に拭うと、リンカは大きく息を吸い込み力の限り叫んだ。


「私はその船に乗らなきゃいけないの! お願いします通して下さいっ、きゃぁ!」


 不意に腕を掴まれて悲鳴を上げれば体格の良いご婦人がいた。


「あんた、今の話は本当かい? 花嫁なのかい?」


「はっ、はい! ラー、夫が船で待っているんです!」


「まずいねぇ……もう船はだいぶ出ちまってる」


 ご婦人は港の方を見ると口元に手を添えて叫んだ。


「みんな! この子花嫁なんだ! 船に乗るんだと、通してやっとくれ!」


 ビリビリと響くような大声は他の人の耳にも届いたらしい。


「なんだって! そりゃ大変だ!」


「はやく旦那さんの所へ行きな、ほら船が出るよ!」


 次々と声を聞きつけた人がリンカに道を譲ってくれる。


「おばさん、みなさんありがとうございます!」


 みんなの優しさに触れ涙が溢れる。


「なに、あんたは死んだあたしの娘に似てるのさ、幸せにおなり」


「はい!」


 リンカは礼を告げて、走り出した。


「はやくはやく!」


「頑張れー!」


「幸せにね~!」


 開けた道の両側から掛けられる祝福の声に背中を押されてリンカは港まで走り抜けた。


 リンカが港に走り込み、周りを見渡すと無情にもカラーンカラーンと船尾に取り付けられた『祈りの鐘』が光を反射しながら三回打ち鳴らされた。


「出港の際には船尾にある黄金に輝く『祈りの鐘』を三度打ち鳴らして海の神に航海の無事を祈るんだ」


 リンカの頭にラーズの話が思い出される。


 リンカは岸から離れ始めた船を追いかけるように速度を上げる。


「ラーズさん!」




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