追いかけて……
翌朝ラーズの泊まっている筈の宿へやって来たリンカは青褪めていた。
すでに宿は引き払われていてラーズの姿はない。
「あのっ! ユナス大陸の方々は?」
宿の受け付けの女中に声を掛けれる。
「ユナスのお客さんなら昼過ぎににユナスに向けて出航するとか言って今朝日の出と共に鳥車で出立したよ」
「そっ、そんな……」
日の出からすでに数刻経過してしまっている、いくら鳥車で飛ばせば半日も掛からないとは言え、日はだいぶたかくなってしまっている、今から鳥車て追いかけても間に合わないだろう。
呆然と立ち尽くすリンカの肩を掴みフェイは自分の方へと向き直らせた。
「しっかりしな! 今から単騎で追えば間に合うはずよ」
「お母様……」
「あんた! グランデール借りるよ」
フェイはすぐさま鳥車に駆け寄り、乗鳥用の鞍を取り付けると、荷車を外し騎乗した。
「後悔するくらいなら死ぬ気で食らいつきな! ほら行くんだろ?」
グランデールの上から伸ばされたフェイの手を握り騎乗し、リンカは逞しいフェイの背中に身を寄せてしっかりと腹部に抱きついた。
「グランデールから振り落とされないようにしっかり掴まっておいで! あなた行ってきます!」
「リンカ、ラーズ殿によろしくな、私もあとから行くよ」
「お父様ありがとう! 行ってきます」
高い嘶きを上げたグランデールが大地を踏みしめて走り出した。
グランデールは鳥車を引いても速いが、その脚力は単騎で騎乗した時にその真価を発揮する。
王都の中を単騎で駆けるグランデールの巨体を見つけた人々は慌てて道を開けていく。
大人を二人乗せても揺るがない大きな体と太い三叉に別れた足についた鉤爪にかかれば人などすぐに重体に陥るだろう。
フェイは王都を守る検問の制止する声を振り切り、外壁の外へ飛び出すと一層速度を上げてグランデールを駆けさせた。
鳥車を引いていない為、街道ではなくその強靭な脚力に物を言わせ最短距離を駆け抜けた。
途中で飛び出してきた兎を踏み殺したが、フェイは速度を緩めない。
周りの景色がすごい速さで後ろへ流れていく。
「お願い、間に合って」
フェイの背中に掴まりながらリンカは祈った。
走り始めて二刻ほど立った頃目の前に海と沢山の船が見えた。
「とばすよリンカ!」
「はい!」
フェイは更に速度を上げて港町へと走っていく。
辿り着いた港には見送りらしき人が沢山詰めかけており、進むことことができずにいた。
これ以上グランデールで人混みには近づく事が出来ない。
「お母様送ってくれてありがとう」
リンカはグランデールの背中から地面へ降りた。
「行っておいで!」
「行ってきます!」
フェイは自分に手を振りながら人混みを掻き分けるようにして進んでいくリンカの姿が見えなくなるまでその場に留まった。
まだ港に船は見えるが、あの小さな体でたどり着く事ができるのだろうか、フェイはリンカの後を追うべく、グランデールを預けるために獣舎のある宿へ向かってグランデールを走らせた。