ラーズの敗れた求婚
ラーズの求婚から、逃げ出したリンカは父と母が居ると教わっていた宿まで真っ直ぐに走り抜けていく。
ラーズの絶望した顔が頭から離れない。
ズキリと痛む胸を押さえ、雨水なのか涙なのかわからない雫で視界か歪む。
降り出した雨を気にする余裕もなく、駆け抜けたリンカは、宿へ駆け込むと帰りの支度をしていたフェイの胸に飛び込んだ。
「リンカ!? 一体どうしたんだい? ラーズ殿は一緒じゃなかったのか?」
突然泣きながら帰ってきた我が子を抱き締めて、フェイはリンカの頭を撫でた。
泣きじゃくりながら首を振り続けるリンカの背中を、ゆっくりと優しくなでる。
「ラッ、ラーズ様とはお別れをして来ました……だって私お父様とお母様を、置いてユナス大陸へなんて行けないもの」
しゃくりあげるリンカを宥めて白状させた理由にフェイは頭を抱えた。
「本当はリンカがユナス大陸へ出発する日に驚かせようと思っていたのだけど、私達も一緒にユナス大陸へ行こうと思っていたの」
「へっ?」
「リンカが行方不明になった事ですごく後悔した見たいね、ラーズ殿はとてもいい方だけど、もしリンカがユナス大陸へお嫁に行ったら多分メイロウ大陸へは帰ってこれないと思うの、私もケイロンさんも孫を抱きたいし、娘の側で幸せを少し分けてもらおうって事になってね」
「えっ、それじゃぁ私ラーズさんのお嫁さんになってもいいの?」
「勿論じゃない、行かないなら行かないでも良いけど」
「お母様どうしよう、私ねラーズさんの事が好きなの、でもお母様やお父様と離ればなるになるのが怖くて、ラーズさんの求婚から逃げちゃった……」
「そっかぁ、なら明日謝りに行かなくちゃね」
「今から行ってくる!」
フェイの話を聞いて立ち上がりかけたリンカは宿に帰ってきたケイロンに捕まった。
「もう外は暗い、いくら女の子でも危険すぎる、明日家族みんなでラーズ殿に会いに行こう?」
ケイロンに諭されたリンカは、宿の布団を二枚繋げて家族三人で横になった。