土曜日:無題
土曜日:無題
ベンチへ行く元気もないが、それしか方法は残されていない。あんなことがあった後に、月曜日に教室へ入る勇気は私にはない。日曜日までに私はあの男の向かう先を知る必要がある。
いつものようにあの場所へ向かう。今日は朝からずっとあそこで過ごそう。同級生が来るかもしれないと頭をよぎるが、貴重な休みにわざわざ私を探すとも思えない。それよりもあの男は私をどう思っただろうか。いじめにあった哀れな中学生だと思われただろうか、そう思うと心が締め付けられるようになる。
タバコ屋が見える。男はいつもの場所で座っているわけではなく立ち尽くしていた。
思わぬ光景に駆け寄り、原因を知った。男の目の前にはひしゃげたベンチが転がっていた。金属のフレーム部分と背もたれの一部が残されているが、座面は全てなくなっており、とてもではないが座ることはできない。同級生とあの後なにかあったのだろうか、恐る恐る男に視線を向ける。
男はタバコをくわえいつものように感情のない視線をベンチに向けている。ポケットから
携帯灰皿を取り出し、目を瞑る。まるで黙祷しているようにも見えるが、やはり感情は感じられない。
そんな私たちをタバコ屋の店主が見て、夜中に壊されたらしいとぼやいて説明してくれた。
男はそれに反応するわけでもなく、やはり私に意識を向けることもなく、その場を立ち去る。私が来た道と逆の道だ。あれだけ知りたかった男の行き先はただ駅に向かう方向だっただけだ。
ふらふらと家に向かう。母親がおかえりと笑顔で迎えてくれるが、私はたまらず部屋に逃げ込んだ。机の上には母親が置いてくれたのだろうか、郵便物が置かれている。
封を開けると淡いイラストのCDが見える。
swod - drei と控えめなフォントで書かれている。
泣きながらパソコンを立ち上げCDを再生させる。ピアノの音がゆっくりと流れる。何がよいのかわからないが、ぼんやりしていたあの男とあっている。天国への切符ではないことはわかる。涙が止まらない。
父親が帰ってきて扉の向こうから声をかけられる。一緒にご飯を食べようよと。放っておいてなんでそんなことを言えるのだろう。両親に罪はないことはわかっている。そんな両親を憎んで復讐しようとした自分は汚れている、泣いてきれいにならないだろうか。私は救われたい。