木曜日:SWOD
木曜日:SWOD
気まずい顔で私は男の隣に座っている。バッグの中には朝コンビニで買った猫の餌が2つ入っている。猫がまた来たらこれを使っておびき寄せよう、それがきっかけで何か会話ができるかもと考えたからだ。
私の目的は男を立ち上がらせることから、会話をすることに変わっていた。いや会話がきっかけで何かが変わるかもしれない。好感度が上がって天国行きにならないだろうか。そう考え準備していたが、猫が来る様子は全くない。また今日の男はイヤホンをつけている。あまりにぼんやりしているため、何も流れていないんじゃないだろうかとさえ思う。
眺めていると男は不意にタバコを取り出し火をつけ、一瞬止まり、左手にタバコを持ち直した。私の気を使っているのかと少し嬉しくなる。夏休みが近いせいか私も浮かれいるのだろうか。衝動的にバッグからペンを取り出しギブスに走らせる。
「何を聞いているの?」
右手を男の方に向けてアピールすると、男はちらりと私を見る。
開いた右手で私のペンをとり、ギブスに走らせる。
「SWOD」
初めてのコミュニケーション。SWOD。凹凸のある包帯に綺麗に書かれた文字を見て私の心は震えた。
天国での入り口で合い言葉はと聞かれるのだろう。私は気取った顔で答えるのだ。SWOD。
ひょっとしたら歌ってみせる必要があるのかもしれない。家に帰ったら注文しよう。まあそれが届く頃には私はこの世にいないのだけれど。
なんにせよ、後は行き先を知るだけだ。