月曜日:タバコを吸う男
月曜日:タバコを吸う男
特に憂鬱な月曜日の授業はいつもどおり終わった。平年よりも早く梅雨が終わり、焼き尽くすような日差しを浴びるたびに夏の近さを実感する。下駄箱で黒いローファーに履き替え、誰よりも早く学校を後にする。あとしばらくすれば校庭で野球部と陸上部が部活の準備を始めるだろう。帰宅部の自分はそうした光景をあまり見たくなかった。
学校近くの病院へ寄り、そのまま自宅へ向かう。右手のギブスはまだとれない。病院と学校は小高い坂の上にあり、通学の不便さからこの学校は人気がない。学校前から続く坂は道幅が広く駅に続いているため、多くの生徒はそっちを使う。誰にも会いたくない私は多少等遠回りになるが病院脇の小道から続く坂を使って帰宅していた。
梅雨が終わり周囲を木に囲まれたこの道は虫が多い、蜘蛛の巣に引っかかることを恐れて小枝を広い左右に振りながら坂道を下る。
さて今日はどうかなと予想しながら、歩き続ける。坂の終着地にはタバコ屋がありそこに目をむけ「やっぱり」とつぶやいた。
タバコ屋のベンチに座り、煙草を吸っている男。梅雨の時期でも傘をさしながらぼんやりしている男に自分も含め最初は怪しんでいたが、いつしか誰も気にしなくなってしまった。
ひと月前からそこにいる。その男は退屈な小さな町のちょっとした有名人だった。当初は同級生がこの街にもホームレスが現れたと話題にしていた。確かに昼間からぼんやりしているその男は仕事はどうしているのか疑問に思う。
横目で男を観察しながら通り過ぎる。その風貌はホームレスといういうには少し違う。全体的に小綺麗で不思議な雰囲気をまとっている。職業不詳のタバコ男。ヒゲだけがのび放題。ひげが全く似合っていない。
家に着くと丁度母親が車で出ていくところだった。手を振ってくるので振り返す。去年までは病院迎えに来てくれていたが、弟が遠くの私立の学校に通いはじめ、有名な塾へ行くことになり、その送り迎えに母親は付き添うことになった。父には仕事がある。悲しくはない。父が失業して一日中タバコを吸うようになっても困る。あの男の隣でタバコを吸う父を想像して、ありえない光景に頭をふる。そうなったら私と一緒に病院通いするべきだ。