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「いや~~・・、まだやってないなら、しかたないぁ」
例の部屋・・・さすがに、午前中から、大っぴらにやってるほど、慎みなくなかった。
カップルだって、入りづらいだろうし、スタッフだって、他のところで、労力をそそぎたいだろうし。
ほっとしたような、そうでもないような・・・
「とりあえず、他のところを回りましょう」
そうやって、疲れさせて、時間までには、帰るしかないように、仕向けるのだ!
・・・・・・・・・・
ヘタレと、罵るなかれ。
精神的に、体力的に、年齢的に、大問題な女の子に囲まれてる、一志の気持ちも、察して欲しい・・
「そうでした・・ちょっと、はしたなかったかしらね・・」
茉璃香は、頬を赤らめて、反省してしまう・・
なにより、自分の本心を伝えてしまったことではあるが、まだ、甘えたい盛りの女の子達を巻き込でしまうところだった。
「私が、しっかりしなきゃ!」
この中で、一番、責任を持たなければならないのは、自分なのだからと・・
「この中で、一番、たよりないヤツが、なにいってんだか。自分をはげましるようにしか、見えないてーの」
「う~ん、確かに・・」
「そんなことないわよ」
全然、勇ましくない・・むしろ愛らしいガッツポーズに、つい同意してしまった一志の声と、否定した茉璃香の声が、重なってしまう。
そのことに、アイリは、ちょこっと満足した。
アイリは、ここ中では、自分が一番、しっかりしていると思っていた。
元気なふりが、空回りしていたり、妹と恋人の境界が、まったくなかったり、あと、こんな可愛い娘に、言い寄られているっていうのに、まるで、ペットかなにかと、勘違いしているヤツとかも・・・
それでも、一緒にいて、風化させたくない記憶があるのだ。
そして、ちょっとぐらい、お礼になることもしてあげたい気持ちも・・
それを素直に言葉にできない、自分を棚に上げて。
「ほーら!やっぱり、わたしが、一番だ」
「なにいっるの!!一番、子供のくせに!お兄ちゃんの、一番は、わたしなんだからね!!」
そのとおりのはずなのだが・・・・・思いを伝えたとたんに、強力すぎるライバルが現れて・・ちょっとは同情する余地があるかもしれない。
その思いに、気づいていたなら、とっとと打ち明けてれば、よかったんだよな・・
そうすれば、少なくとも、その期間だけは、独占できたであろうし・・恋人としての立場を確固たるものにしていれば、今みたいに、あたふた不安になることもなかったかもしれないのに・・・
それを一年も、チンタラして・・
まあ、その間、一志にイタズラしていたバツということで。
「それじゃあ、一番は、しのぶちゃん希望のところにしましょうか。『ミノタウロス』ね。へ~~~・・風景とか、退治する相手とか、選べるんだ」
恋人たちが、違う通路を出てくる敵を倒しながら、ゴールで再会するアトラクションのようだ。
設定された時代や、モンスターや、あと、手にする武器も、ある程度、選択することができるみたいである。
「ちがうよ!わたしが行きたいのは、『CHUCHUトレイン』で・・」
「わーーっ!!武器に、日本刀があるーーー!!!思いっきり、振ってみたいなーーー!!」
もう、超特急で、『ミノタウロス』とやらに、向かうことになった。
・・・・・そういえば、こういうのも、テクニックの一つにあったな。
先に、厄介と思われる提案をして、次に出す提案を軽く思わせ、快諾させるみたいな・・
「よーし。行こう!バッタバッタなぎ倒してやるからな!」
恋愛事に応用されると、引っかかった方は、かなり、情けなく見えるなあ。
ちなみに、ドアインザフェイスというらしい。
「まって、まって。わたしも行くーー!」
「しのぶちゃんの手ぐらい、つないであげてー」
「みんなで、ダッシュだーって・・なんかちがう」




