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「着いたーーーっ!」
「ついたついた」
「とうちゃ~く」
「着きやがった・・」
待ち遠しかったもの、警戒しているもの、そして、文句を言うもの、皆、等しく、バスは職務を全うして、運んできた。
「なんで、着くんだよ・・」
だから、文句を言われる筋合いはないというのに、一志の心境を理解してくれるものは、誰もいなかった。
「おや?!」
バスを降りてすぐに、見知った人影を見つけた。
遠くからでも、スタイルの良い美人を連想させてしまいそうなシルエットと、小柄でも、豪奢な金色の髪が際立つ女の子は、いいとして、あと二人・・いや、三人か?
一志の知ってる人間が、一緒にいた。
トラブルの予感がして、駆け寄ってみる。
「オーーーーホッホッホッホッ!!!今回ばかりは、私の勝ちのようね!」
駆け寄ったとたんに、思い切り脱力してしまったが。
「あんたかよ・・」
なぜこんなとこにいるのか・・聞き間違えようのない高笑いは、園寺環であった。
「一志君」
「かずし」
もちろん、待ち合わせた二人もいたが・・
ここは、まず、おめかしした二人の姿に、感嘆したかった。
「園寺お嬢様。本日は、我がテーマパークへの来園、心より歓迎いたします・・」
なんと、園長、自らの、お出迎えである。
あと、隣の、目に青痣つけてる、月人も、ちょっとだけ気になった。
「オーーーーホッホッホッホッ!今日、ここは、なんの場所だか知ってる?愛!愛よ!!すでに恋人がいる人限定の招待に、子供たちばかり連れてきて!自分で負けを認めてるようなものじゃない!」
勝負してる気もないものに、勝手に勝ちを宣言する大人げなさを棚に上げて、人を子供あつかいしないでほしいが。
それと、一目で高級品とわかるようなスーツ、アクセサリーに身を固めた環の方が、こんなところにふさわしくないように見える。
「そういうことは、環さんにも、素敵な人が見つかったんですね?」
茉莉香は、他意はなく、そう尋ねた。
一志は、物好きもいるものだと、悪意を持って、つぶやきそうになったが。
「いるわけないでしょう!」
「うおーー~い」
今の高笑いは、なんだったんだ・・
「私を娶るとしたら、石油王か!?IT創始者!?あとは、一国の大統領ですもの!ここに来たのは、義務。こっちに参加するためよ」
指さしたパネルに、表示されてるのは、『エンゼルパーティー』とのことだ。
そういえば、まだ相手のいない人も、どうこう言ってたな。
ようするに、婚活パーティーというやつだ。
「お爺様とお父様が、まるで、懇願するみたいにね。なるほどって思ったわ。こういうイベントを盛り上げるためには、私みたいな、プレミアムな女神が必要なんでしょ!もちろん、高嶺の花として、みんな、袖にしてやるつもりだけど」
「・・・・・」
とうやら、かぐや姫でも、気取ってるらしいが・・・
「それって、貰ってくれる人がいるか、本気で、心配されてるだけなんじゃ・・」
「う~ん・・なんか、気合い入れすぎて、もう奥さんいる男、ねらってる女ぐらいに見えるけど・・」
この場にいらん、その二、その三が、いらんこと言った。
淵の太い眼鏡が、より事実を観察しているように見えた。
「・・園長、その二人、のぞき魔です」
「なにーーーーっ!!!」
『やっておしまい!』でも、違和感なし。
有無言わさず、襟首掴んでひっくり返すと、ブンッブンッブンッ!っと麻袋みたいに、振り払った。
「うわぁ!うわぁ!うわぁっ!!」
すると出てくるわ出てくるわ、マイクロカメラに、携帯ドローンに、ペン型アクセサリー型ぬいぐるみ型、ありとあらゆる盗撮グッズが、ばらまかれた。
「ひ~~~!違うんです!我々は、だだの、撮影好きの、少年です!」
「こんなに常備している時点で、ただのの範疇に入るかーーっ!」
もっともだ。
もっと、言ってやれ。
「その眼鏡!思い出したぞ!性懲りもなく、また、やって来たのか!!」
そうだった、そうだった。
この三人は、一緒に、怪獣ごっこをした仲だった。
「逃がさーん!着いてこい!自分がどれだけ、人の迷惑にしかならんことやってるか、説教してやる!」
着いてこいというわりには、功一と清孝をそれぞれ掴みあげてしまった。
・・・そこで、一志は、あれっ?と、思った。
これは、一志にとって、望んだとおりの、顛末なのではないかと。
「たっしゃでな~~~。ちゃ~んと、おつとめ、果たしてくるんだぞ~~」
「なんだ!その嬉しそうな顔!!全然、痛んでないだろ!」
ふと、毒をもって毒を制すという、諺が浮かんだ。
他の、皆には、口は災いの元だが・・
「いいのかしら?いえ、本人の責任だけど・・」
「いいいいんです!そうそう、本人の責任です。二人は、最初からいなかったことにして、自分たちだけで、思い切り、楽しみましょう!」
展開にとまどってる茉璃香に、一志は、一片の憂いなく、肯定した。
「そうね。こんなところに、可愛い娘をはべらせて、やって来るなんて、無事に、退園できるか、見物だわね」
「・・・・・」
そうだった・・
最初から、力ずくで、排除するつもりだったアイツらと違って、こちらの方が重大だったのだ。
「オーーーホッホッホッホッ!精々、悪い金持ちのボンボンか、怪しい機械で、洗脳でもしているじゃないのかって、疑われないように、気をつけることね!」
「アンタが言うの・・」
いや、ちゃんと、真面目に起業して、財を築いた財閥なのだろうけど・・そんな印象も、台無しにしてしまう高笑いを上げて去って行く環に、一志は、そう呟いた。
「そうか・・・それでか・・・そりゃ、とっとと、片づけたくもなるわな」
「かたづけるって?」
言葉の意味が難しかったのか、うなだれてる一志に、アイリが屈んで尋ねてきた。
「ああ・・眼鏡の二人のことだよ、うん、気にしなくていいからね」
「ふ~~~ん」
本当の意味は、年端もいかない娘に聞かせるにはいかがなものなので、心の隅にしまっておくことにした。
「ん~~・・そんなことより。ふっふっふっざんねんだったな。わたしをおいてけぼりにするつもりが、あてがはずれて」
「・・違うぞ。俺は、お前をおいてけぼりにするぐらいなら、来るのをやめようといったんだ」
「んっ!」
言葉を詰まらせて、視線をそらしてしまった。
いろいろあった少女にとって、目頭が熱くなるものがあったらしい・・
ただし!
それは、九割九分ここに来たくないための口実で、アイリの感動するようなことではない。
「うるさーい!そんなこといわれても、うれしくないんだからね!
「嬉しいんだ・・泣いちゃうぐらい」
「泣いてなんかないもん!」
「ごめんなさい。からかってるわけじゃないのよ、気持ちがわかるから」
茉璃香まで、もらい泣きさせてしまった。
「それは・・」
誤解です!と言おうとして、その口が、潤んだ二人の瞳を前に、硬化の魔法をかけられたみたいに固まってしまった。
もう、言えない・・飲み込むしかない。
そこで、ハッとした!
「距離が大事・・タイミングが大事・・攻めすぎは、よくない・・・う~む・・・・」
やきもちやきの妹が、どんな過剰な反応をするかと思ったが、渡されたパンフレット、恋愛攻略法みたいなものに見入って、こちらに気づいてなかった。
よかった。
来園を前に、暴発でもされたら、どうしようかと思った。
ならば、そのまま熱中させてあげたいが、そういうわけにもいかない。
「しのぶ、もう行くぞ。ゲートが込む前に、すぐに、通りすぎるんだ」
せめて、少しでも注目を避けようと、しのぶをうながした。
もう、それしかない。
「さっきの、環さんに、言われたことを気にしてるの?だったら、大丈夫よ。いざとなったら、まず、私とアイリちゃんをカップルということにして、あとは、かわりばんこにして、乗り切っちゃえばいいんだから」
「うわっ」
そう言って、茉璃香は、アイリの手を繋いで見せた。
「う~ん、それは・・」
意外そうで、それは、すごくいいアイデアのような気がした。
・・・・・・・・・・・いや、いいの方向性が違うか。
人目を引くことには、変わりない。
「まあ、なくもないですね・・いつまでも誤魔化せるとは思えないですが、それしかないか」
「うん。そんなわけだから、アイリちゃん、ちょっとのあいだ、私のことをお姉さまって呼んでね」
「よぶかーーっ!!」
これだけで、違う物語が始まりそうだが、気を引き締めていかないと。
一志達四人は、それぞれの思いを込めて、ゲートに向かったのだった。
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「あれ!?功一くんと、清孝くんは?」
う~~~ん、しのぶの、それは、あんまりなセリフ・・




