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「やっぱりいるんだな・・」

 向かうべく乗り込んだ、バスの中でのことである。

「なんて顔をしてるんだ。こんな、記念すべき日に」

「そうそう、トリプルデート、トリプルデート。きっとこの日は、生涯にとって、かけがえのない思い出になるでしょう」

「身の程知らずが・・」

 もう、回れ右したいが、バスの扉が閉まってしまった。

 端から見れば、クラスメイトとの待ち合わせだが、一志からしたら、待ち伏せである。

「功一くん、清孝くん・・そうか!今日は、二人とも、おねがいね」

「うん!まかせて、しのぶちゃん!」

「この日のために、万全の準備をしてきたんだから!」

「・・・・・」

 しのぶには、この二人が、悪い虫から、姫と王子さまを守ってくれる、兵士にでも、見えているのだろうか?

 だとしたら、とんでもない誤解だ。

 そして、こいつらも・・・

「よくまあ・・そんな幻想に浸れるもんだな。俺等が一人でも、この三人に、釣り合うと思っているのか?」

 トリプルデートなんて、一志にすれば、口に出すのも、気恥ずかしい。

「なにを言う!そんなことを言うのは、もてない奴の、ひがみに決まってるだろ!」

「そうそう、言いたいだけ言わせとけばいいんだ」

「・・・・・・・・・・」

 よ~くもま~、自分たちのことをここまで、高い棚に放り投げることができるものだ。

 そもそも、人のおこぼれにあやかってるだけだというのに。

 そりゃ、こぼれ落ちてくるのが、金貨銀貨でも言い足りないぐらいの、美女美少女であれば、救う手を伸ばしたくなるのもわかるし、一志にだって、自分だけが、可愛い娘を独占していいはずないとの認識はあるが、この二人だけは、理屈抜きで、いやだった。

「三人を守るためには、沙江子さんが提示したみたいな手段も、やむをえないのではないか・・」

 ぼそっと、そんな恐ろしい考えを口にしていた。




「諸君!!!我がテーマパークも、なんやかんやあったが!なんとか、春を迎えることができた!」

「本当に、いろいろ、ありましてねぇ~・・」

 誇らしそうに、気分を高揚させてる大男と、逆に、悲壮な面持ちをした青年とで、ここ一年足らずの感想を述べていた。

 いろいろあった・・・

 まったく逆の気持ちを込めても成立するのだから、便利な言葉である。

「なんで、部署移動願いを受理してくれないんだ・・」

「ん?!なにか言ったか?」

「いえ、なんでもありません」

 そう、ここは、地下モニター室。

 一応、モニターを通じて、全スタッフと顔を合わせているが、こんな場所に、二人きりという状況に、河合月人は、ますます気を重くしていた。

「ユウェンタースランド。今回のテーマは、愛だ!それは、尊く美しい。それは必要であり、不可欠である。時に燃え上がり、そして、脆く儚い。そんな、それこそが愛だというものをはぐぐみ、暖め、結び合わせる。これは、地上に生きる我々にとっての、使命に違いない。今日、この日、たくさんのカップルが、愛を語らい、愛を燃やし、愛で強くなるだろう。故に愛とは!」

「園長!園長!もう、もぉ~~~う!そのへんで。スタッフも限界でしょうし・・」

『そうですな。時間も押し迫っていますし!』

『ああっ!そういえば、今日は、ゲートのチェックを念入りしなければならない日でした』

『私も、笑顔のチェックを念入りやらなければ』

『アニマル達に、ゴハンを・・』

『花壇の水やりが・・』

「おいおい!」

 各担当のスタッフ達が、次々とモニターを切ってしまった。

「後半に行くほど、どうでもよくなってないか?」

 ここでのアニマルといえば、ロボットだし、お花は、バイオブラント、いわゆる造花である。

「やっぱり・・・五十も過ぎた人が、愛について、力説されるのを正面から見据えるのは、モニター越しでも、かなり精神を消耗するものがあるんじゃないですかね」

 鏡を見てほしいと言わないのが、月人なりの、優しさである。

「ほほ~~~う。そういう君は、平気なのかね?」

「はい。まあ、静聴しているふりして、目を閉じてましたから」


ドガンッ!!


 モニターは切ったが、スピーカーは繋いでいた。

 この音を聞いた、全てのスタッフが、月人の冥福をいのるのだった。

 このように、全スタッフにとって、月人の実直さが、言い換えれば愚鈍さが、もの凄く高く評価されていたのだ。

 もう、他の部署など、考えられないほど。


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