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「春もうららかだな・・」

 穏やかな昼下がり、校舎の屋上。

「お前は!一体!誰の手を取るんだ!!」

「こういう、アホもでてくるか・・・」

 春の穏やかさにかこつけて、逃避していたかったのだが、そこを妬んでる奴にしたら、それは許されないことらしい。

「誰もかれもあるか!!言ってるだろ!しのぶが、もうちょっと大人なになるまで、このままだって!」

「このままだとーーー~!!!甘えんぼの妹キャラには、イチャイチャされて!ふわふわポンポンなお姉さんには、ベタベタされて!!金髪ロリっ娘には、ツンデレされて!!!自分がなるならまだしも!人がやってるのを見せつけられるのが、我慢できると思うかっ!!!!!」

「もう、本音を隠す気もないんか!」

「この憤りを僕たちは、どう発散すればいいんだ!」

「カメラで、発散させてるだろ。お前等は!!」

 掴みかかれていたのは、功一と清孝だ。

「よーし、一志。一つ答えろ。しのぶちゃんと、茉璃香さんと、アイリちゃん、三人が、死にそうになっています。誰か一人しか助けられません。誰を助ける?」

「・・・・・」

 あまりのバカバカしさに、思考が停滞した。

「なんだそりゃ!!そんな事態、あるわけないだろ!そんなことになったら、大声で、助けを呼ぶに決まってるだろ!」

 似たような問題があるが、たとえ他人でも、どちらが正解かなんて決まってない。

「ダメだダメだダメだ!ちゃんと答えろ!しのぶちゃんと!茉璃香さんと!アイリちゃんと!誰を選ぶかっ!!」

「それによって、僕らも、方針を決める!」

本気で、腹が立ってきた。

 こいつらのしつこさにも、たとえ仮定であっても、三人が命の危機にあるなんて話にも。

「どうしようかな~~~、俺には、選択肢が三つもあるからな~~。お前らは、気楽でいいな。選択の余地がないどころか、まったくの0(ゼロ)だから」

「ぎゃーーーっ!!言うてはならんこと言ったなーーーっ!!!」

「本当のことだって、言っていいことと、悪いことがあるんだぞ!!」

 不毛な殴り合いが始まった・・・

 本っ当に、不毛だ。

 勝ったところで、得るものなんて、なにもないし、負けたところで、それを教訓に、なにか学ぶなんてこともないだろう。




「おかえりなさ~い」

「おかえり~」

 着衣の乱れなど気にすることなく、沙江子は、夕飯の匂いとともに、明るく出迎えてくれた。

 そこにいる妹のおかげで、このぐらいは、誤差の範囲内なのだろう。

「ああ~~~、お腹へった」

 そして、一志も気にしない。

 この幸せの前には、昼間のことなど、完全に記憶の消去がなされていた。

『愛する人は、いますか?』

「・・・!」

 突如、つけてあったリビングのテレビから、一志にとっては、不吉な言葉を聞いた。

『その人と、絆をより紡ぎたいと思いませんか?そんなお二人をお待ちしてます!ユウェンタースランドは今、専門家の監修のもと、あらゆる恋愛効果を発揮するアトラクションで、いっぱいです!そして、どこかにいる、あなたを愛する人と、巡り会いたい人も、歓迎します!詳しくは、ホームページをご覧ください』

「お兄ちゃん!行こう!!!」

「もう夜、もう夜」

 椅子に伸ばそうとした一志の腕を捕まえて、勢い込んで出て行こうとするしのぶをたしなめた。

「あそこか・・」

 呟きながら、ため息をついた。

 CMに罪はないと思うが・・一志には、ものすごく悪意をもった何者かのせいに思えてならなかった。

「う~~~ん、逃避したい・・」

 女の子からデートに誘われて、あまりに罰当たりなつぶやき・・ではあるが、一志にとっては、それぐらい、ろくな目にあってない場所なのである。

「まあまあ、落ち着け落ち着け。まずは、時間はあるとして・・次に、お小遣いだ。春と言えば、物入りの時期だ。都合よく、遊ぶ金なんて、あるわけがない」


ウィ~~~~ン


 もっともなことを言ったところで、ポケットのスマホが鳴った。

 これ幸いと、話をそらすために、手に取った・・・・・のが、いけなかった。

『一志君!またまたなんだけど!父が、ユウェンタースランドのフリーパス券を融通してもらえるみたいなの!もらちゃったんだから、しかたないわよね。入学のお祝いも兼ねてみんなで行きましょう!!日時は、次の、平日のうちに。それじゃあ、そういうことで!』

「・・・・・」

 言うだけ言って、切ってしまった。

 茉璃香らしからぬ勢いに、圧倒されてしまったが、それは、これから言ったことを事実にするために、奔走するためである。

「問題解決ね♥」

「いやいやいやいや、なに、自分のことみたいに、喜んでるんです」

 母親公認されても、ちっとも、嬉しくない。

「まてまてまて・・・まだある。今のCM見ただろう、あそこまで、コンセプトってやつを決められると、さすがに、アイリまでは連れてけないだろう。一人だけ、おいてけぼりなんて、可哀想だろ」


ウィ~~~~ン


 そこでまた、スマホが鳴った。

 再び、これ幸いと、出てしまった。

「柚月かずしーーー!!!聞いたぞ!また、あのランド行くってな!わたしも行くからな!かんちがいするなよ!たまたま見つけた、限定のスウィーツパフェが、おいしそうだっただけなんだからな!べつに、おまえと行きたいわけじゃないんだからね!」

「・・・・・」

 切れてしまった・・・

 自分で言ってて、恥ずかしそうだった。

「エスパーかよ・・・そういえば、そうだった」

 テレパシーまで、習得していたとは、知らなかったが・・

「これはもう、行くしかないわね♥」

「だから!嬉しそうに言わないでください!」

 息子を死地に送り出すのが、そんなに楽しみなのか。

 もう、いやな予感しかしない。


ヴィ~~~~ン


 また鳴った。

 先に、かけてきた二人に、なにか言い忘れたことがあったのかと思ったが。

『よう!親友!なにも言うな。わかってるぞ。俺達の助けが、必要なんだろ!』

『ああいうところは、男女でペアを作らないと、どんなたちの悪い男が言い寄ってくるか、わからないからね』

「そりゃ、お前らのことだろうが!!!」

 今度は、こっちから切ってやった。

 予感が確信に変わった。

 それでも、いつも泣かせている妹からのお願いともなると、邪険にできないのが、一志の、不憫なところであろう。

「わたし、お兄ちゃんと、二人きりがいいのに~~~」



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